レトロゾールを服用中の患者さんがタモキシフェンに処方変更になった事例

調剤業務

日頃からうちの薬局に以下の処方内容でおかかりの患者さんがいらっしゃいます。

(般)レトロゾール錠2.5mg  1錠
   1日1回 朝食後

この方の疾患は閉経後骨粗鬆症です。しかし腰が痛くなり整形外科を受診したところ、脊椎圧迫骨折だったようです。その後いつもの乳腺外科を受診したところ、処方薬が変わりました。内容は以下のものです。

(般)タモキシフェン錠20mg 1錠
  1日1回 朝食後

なぜこのような処方変更が起きたのか、変更後の薬はどのような点が異なるのか、今回の記事で紹介しますので、それぞれの薬の働き方、副作用の起きるメカニズム等を確認して頂ければと思います。


まず最初に使っていたレトロゾールの働きついて確認しましょう。
レトロゾールはアロマターゼ阻害薬です。副腎皮質から分泌されたアンドロゲンはアロマターゼによってエストロゲンに変換されます。

乳癌の約70%は女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)を取り込んで増殖するホルモン依存性腫瘍といいます。※女性ホルモンに関係なく増殖するものをホルモン非依存性腫瘍といいます。

アロマターゼを阻害することによりエストロゲンの生成が抑制され、それによって乳癌の増殖が抑制されるわけですね。
レトロゾールの適応は閉経後乳癌になります。閉経後はエストロゲンが卵胞から得られないので、ほとんどのエストロゲンがアンドロゲンに由来するからです。

レトロゾールの働きは分かりました。ここで副作用について確認しましょう。
エストロゲンは破骨細胞のアポトーシスを促進し、骨吸収を抑制します。つまりエストロゲンの生成を阻害することにより、骨粗鬆症のリスクが増大します。
その他には火照りや多汗もあります。これもエストロゲンが減少したことによる副作用ですね。

今回の患者さんは脊椎圧迫骨折を起こしました。脊椎圧迫骨折は背骨に大きな力が加わって生じることが多いのですが、脊椎が体の重みに耐えられずにつぶれてしまうことで生じることもあります。

最も多い原因は骨粗鬆症です。レトロゾールを長期間に渡って服用していたことにより、骨密度が低下していたのでしょう。


この患者さんの処方薬はレトロゾールからタモキシフェンに変更しました。それではタモキシフェンの働きについて見てみましょう。
タモキシフェンはエストロゲン受容体を遮断します。これにより乳癌の増殖を抑制します。エストロゲンの働きを抑制するので、骨密度を低下させそうですが、タモキシフェンではそのような副作用は生じません。タモキシフェンは乳腺ではエストロゲン受容体を遮断しますが、子宮内膜や骨ではエストロゲン受容体を刺激します。そのため選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)と呼ばれます。

第一世代SERMにはタモキシフェン、トレミフェン、フェソロデックスがあり、いずれも乳癌に適応があります。(タモキシフェンは乳癌、トレミフェン、フェソロデックスは閉経後乳癌)
第二世代SERMはラロキシフェン、バゼドキシフェンがあり、これらは骨でのエストロゲン受容体刺激作用が強いので、骨粗鬆症に使われます。(いずれも閉経後骨粗鬆症)


レトロゾールの使用で骨密度が低下しますが、タモキシフェンに変えると骨密度の低下はなく、むしろ骨密度は増加します。そのため圧迫骨折を起こした患者さんではタモキシフェンに処方変更するのが理にかなっていますね。

しかしタモキシフェンにも当然副作用があります。第一世代SERMは子宮内膜ではエストロゲン受容体を刺激するので、子宮体癌、子宮内膜症の原因になります。
※第二世代SERMは子宮内膜でエストロゲン受容体を遮断するので、そのような問題は起きません。
またSERMは第一世代、第二世代ともに肝臓ではエストロゲン受容体を刺激します。肝臓では血液凝固因子が作られており、肝臓でのエストロゲン受容体刺激作用は血液凝固因子の産生を促進し、血栓を生じやすくなります。特に第二世代SERMは血栓が生じやすいので、寝たきりの人や静脈血栓塞栓症の治療中や既往歴のある人には禁忌となっています。
参考記事 ⇒ ヒヤリ・ハット分析 深部血栓塞栓症の患者にエビスタが処方

またタモキシフェンは視力異常の副作用があります。視力低下、かすみ目などの症状が現れたら早めに受診が必要です(視力異常は不可逆的)。


今回紹介したレトロゾール、タモキシフェンの働き方は理解できたでしょうか?
レトロゾール、タモキシフェンの副作用はいずれもメカニズムが理屈で説明できます。なぜそうなるかを理解すれば忘れにくくなるはずです。
患者さん(正確には付き添いの方)に処方変更された意味、眼の見え方がおかしかったらすぐに受診すること、長時間同じ姿勢にならず時々脚を動かすなどして血流が滞るのを防ぐことを伝えました。処方箋変更をしてもホルモンに作用する薬である以上、必ず副作用があります。十分に理解してもらい、副作用の早期発見、予防に努めていただき、なるべく高いQOLを維持してもらいたいです。

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