新しい作用機序で素早い効果の期待できる抗うつ薬、ザズベイカププセルについて

神経系の薬

2025年12月22日に塩野義製薬が新し作用機序の抗うつ薬のザズベイ®カプセルの製造販売承認を取得しました。これまでの抗うつ薬と違い、素早い効果が期待できます。発売されればすぐに市場に出回ると思うので、今のうちの予習して頂けたらと思います。


まず初めにこれまでの抗うつ薬についておさらいしましょう。
現在の抗うつ薬の主流はSSRI、SNRI、NaSSAです。これらはセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害したり、シナプス前膜の自己受容体の遮断によりセロトニンやノルアドレナリンの放出を促進します。これによりシナプスでの濃度が上昇します。セロトニンやノルアドレナリンのシナプスの濃度が上昇することでシナプス後膜の受容体のダウンレギュレーションが生じ、脳神経の反応が安定化します。

またモノアミンの濃度が高い状態が続くことで脳由来神経栄養因子(BDNF)が増え、神経細胞の修復が起きたり、新しい神経回路が構築されます。

シナプスでのセトロニンやノルアドレナリンの濃度が上昇し、それによる受容体数の変化や脳神経の再構築が起きるので、服用開始から効果発現まで数週間の時間がかかっているわけですね。
それでは今回の記事であるザズベイ®カプセルについて見てみましょう。


・作用機序について
ザズベイ®カプセルの有効成分はズラロノンといい、GABAA受容体のポジティブアロステリックモジュレーターPositive Allosteric ModulatorPAMです。
※特定の受容体に結合することで、受容体の働きを調節する物質をモジュレーターといいます。リガンドが結合する部位を活性部位(オルソステリック部位)といい、リガンドが結合するのとは違う部位をアロステリック部位といいます。

つまりポジティブアロステリックモジュレーターとは受容体のアロステリック部位に結合することで、内因性リガンドの働きを増強させるものです。
GABAA受容体にGABAが結合すると、受容体が構造変化を起こし、Clイオンチャネルが開口します。それによりClイオンが細胞外から細胞内に流入することで細胞が過分極を起こし、興奮が抑制されます。ズラノロンはアロステリック部位に結合し、GABAが結合した際の反応を増強します。


・抗うつ作用とGABAA受容体の関係
GABAA受容体の減少や機能障害がうつ症状に関連していると考えられています。
感情調節に関わる領域では神経をグルタミン酸が興奮させ、GABAが抑制しています。

GABAの不足やGABAA受容体の変性によりGABAの働きが弱まると脳の興奮と抑制のバランス(E/Iバランス)が崩れてしまいます。
前頭前野は”理性の司令塔”とも呼ばれ、喜怒哀楽などの感情、集中力・創造性などの高次認知機能を司どっています。前頭前野のE/Iバランスが崩れると感情のコントロールが出来なくなったり、意思決定ができなくなったりします。
また扁桃体は”感情の中枢”とも呼ばれ、不安や恐怖を感じる領域です。前頭前野は扁桃体を抑制する働きがあります。しかし前頭前野のE/Iバランスが崩れると扁桃体の抑制が弱まり、不安や恐怖、悲しみといった感情が暴走します。

つまりズラノロンがGABAA受容体のアロステリック部位に結合し、GABAの働きを増強することで脳内のE/Iバランスを正常化し、抑うつ状態を改善するわけですね。

・効能・効果、用法および用量について
効能・効果は「うつ病・うつ状」態です。用法・用量は以下のようになっています。

「通常、成人にはズラノロンとして30mgを1日1回14日間夕食後に経口投与する。なお、本剤による治療を再度行う場合には、投与終了から6週間以上の間隔をあけること。

ザズベイ®カプセルの規格は30mgですので、1回1カプセルですね。
国内および海外の臨床試験で投与3日目から急速な症状の改善が確認されています。
また”効能・効果に関連する注意”に

「本剤は、抑うつ症状が認められる患者の急性期治療に用いること。抑うつ症状が寛解又は回復した患者における再燃・再発の予防を目的とした投与は行わないこと。」

と記載されています。一般的に抗うつ薬は症状が消失した後も再発を防ぐために数ヶ月~1年程度は続けるのが普通です。一方ザズベイ®カプセルはうつ病が増悪した場合に用い短期間で一気に症状を鎮めるのを目的とし症状が消失したら使用を中止することになります。ここが従来の抗うつ薬と決定的に異なるところです。また”用法・用量に関連する注意”に

「他の抗うつ薬への本剤の上乗せ効果は示されていないため、他の抗うつ薬で治療中の患者への急性期治療としては、本剤単剤による治療を行うことを検討すること。」

と記載がありザズベイ®カプセルを単剤で用いることが求められています。ただ実際は他剤を中止しないことも多いでしょう。特にパロキセチンなどは急にやめると離脱症状で感覚異常や自殺願望がでることがあります。なお国内第3相試験では

「他の抗うつ薬を服用している患者は治験薬投与開始前に14日間のウォッシュアウト期間が設けられた(他の抗うつ薬投与中止直後より本剤を投与したデータはない。)」

となっています。治験ではザズベイ®カプセルを使用前に他剤を14日間休薬しています。そのため処方医は難しい選択を迫られます。それでもうつ症状が増悪した際に14日間他の抗うつ薬を休薬してザズベイ®カプセルに切り替えるというのは現実的ではないと思うので、おそらくは現在使ってる抗うつ薬にザズベイ®カプセルを追加して使うことになるでしょう。

・副作用、相互作用について
頻度の多い副作用として傾眠(20.0%)、めまい(12.6%)があります。これはGABAA受容体の働きを強めるので当然でしょう。

ズラロノンはCYP3Aで代謝されるので、CYP3Aを阻害する薬物との併用で効果が増強し、CYP3Aを誘導する薬物との併用で効果が減弱します。
またGABAA受容体作動薬との併用で効果が増強するのも当然でしょう。おもな相互作用は以下のようになります。


今回の記事でGABAA受容体の抗うつ作用およびザズベイ®カプセルについて理解できたでしょうか?これまで抗うつ薬は効果が出るまで時間がかかるというのが常識でした。しかし今回のザズベイ®カプセルの登場によりその常識が一部覆りました。ズラノロン以外にも新しいGABAA受容体のPAMが登場すれば速効性のある抗うつ薬が出てくる日もあるかもしれません。

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