ヒヤリ・ハット分析 MAO阻害薬とOTCの相互作用について

ヒヤリ・ハット

昨年のものになりますが、公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業で現在服用中の薬とOTC薬の併用禁忌を未然に防止した事例がありました。内容としては基本的なものですが、薬の内容をしっかり理解していないと見過ごす可能性が極めて高い事例だと感じたので、今回の記事で紹介し、共有したいと思います。

【事例の詳細】
パーキンソン病の患者が、鼻閉の症状が出現したため、介護者に一般用医薬品の購入を依頼した。介護者は、鼻づまりに効果があると外箱に記載されているナシビンMスプレーを購入したが、使用に問題がないか気になり、パーキンソン病治療薬の調剤で利用している当薬局に相談した。薬剤師がナシビンMスプレーの添付文書を確認したところ、モノアミン酸化酵素阻害剤等を服用している人には使用しないでくださいと記載があった。患者はエフピー OD錠2.5を服用しているため、ナシビンMスプレーは使用しないよう介護者に説明し、購入した薬局に返品するよう伝えた。さらに、薬剤師が主治医に症状を伝えて往診を依頼した結果、ナゾネックス点鼻液50μg56噴霧用が処方された。

【背景・要因】
患者にエフピー OD錠2.5を交付した薬剤師は、一般用医薬品を購入する前に薬剤師に相談するよう伝えていなかった。患者は、以前にも一般用医薬品の点鼻薬を使用したことがあり、問題なく使用できると思っていた。介護者は、外箱に記載された効能・効果だけを見て薬剤を購入した。

【薬局から報告された改善策】
本事例の患者や介護者には、一般用医薬品を購入する前に主治医や薬剤師に相談するよう説明した。
エフピー OD錠2.5は併用禁忌の薬剤が多いため、一般用医薬品を含め、併用に注意する必要がある薬剤をスタッフ間で共有した。


この事例は患者がMAO阻害薬を服用していたことが原因です。まずはMAO阻害薬についておさらいしましょう。

MAOとはモノアミンオキシダーゼ(Mono Amine Oxidase:MAO)の略です。
カテコールアミンとはカテコール環とアミンをもつ神経伝達物質の総称で、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンなどがあります。

カテコールアミンの中でもアミノ基を1つだけ含むものをモノアミンといい、MAOはこれを代謝し不活性化します。

MAOにはMAOAとMAOBが存在し、MAOAはアドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニンなどを代謝しMAOBはドパミン、ヒスタミンなどを代謝します。
MAO阻害薬はMAOを阻害することでカテコールアミンの代謝が抑制され、薬理効果を発揮するわけですね。主なMAO阻害薬には以下のようなものがあります。

上記はいずれもMAOB阻害薬です。MAOBを阻害することでドパミンの分解を抑制し、パーキンソン病に効果を発揮するわけですね。
※MAOA阻害薬にはクロルギリンがありますが、臨床適応はありません。

MAO阻害薬の働きについて分かったでしょうか?それではMAO阻害薬による副作用、相互作用について見てみましょう。

・副作用について
MAOを阻害することでカテコールアミンの分解が抑制されますが、裏を返せばカテコールアミンの効果が強く発揮されることになります。

上記はエフピー®OD錠の副作用ですが、精神神経系、消化器、循環器の副作用はいずれもカテコールアミンの過剰な働きによるものです。
MAOB阻害薬はMAOBを選択的に阻害しますが、あくまで選択的であって特異的ではないので、MAOAの一部も阻害してしまいます。そのためノルアドレナリンやセロトニンの過剰な働きによる副作用もあるわけですね。(不随意運動、悪心・嘔吐、頭痛、高血圧など)

・相互作用について
MAO阻害薬でカテコールアミンの分解が阻害されるわけなので、カテコールアミン系を増強する薬物はほぼ使えません。
エフピー®OD錠の添付文書に記載されている併用禁忌は以下のものです、

この他にもMAO阻害薬も併用禁忌となっています。同一作用機序なので当然ですね。

なおアジレクト®錠、エフィクナ®錠の添付文書には上記の他に以下の記載もあります。

これらはα受容体刺激作用をもつ血管収縮剤です。つまりアドレナリンと同じようなものと思って結構です。構造式からカテコールアミンには分類されませんが、非常に近い構造式をしているので、MAOでも代謝されるのでしょう。エフピー®OD錠では併用禁忌になっていませんが、併用しないのが賢明でしょう。
全てを暗記するよりこのように理屈で考えれば、おのずと併用してはならない薬が分かってくるはずです。


さて今回の事例であげられたOTCのナシビンMスプレーについて見てみましょう。

ナシビンMスプレーの有効成分はオキシメタゾリンであり、これもα受容体刺激作用をもつ血管収縮剤です。MAO阻害薬との併用で効果が増強し、血圧上昇などの副作用が起きる可能性があります。医療用医薬品の添付文書にはオキシメタゾリンの記載はありませんが、よく考えれば併用禁忌ということは理解できると思います。
OTCには血管収縮剤を含有した商品が非常に多いです。特に鼻炎薬に多いですね。内服薬にはフェニレフリンが、点鼻薬や点眼薬にはオキシメタゾリン、ナファゾリンなどが含有されたものが多く存在します。
また残念なことにOTCの添付文書でMAO阻害薬との併用に関する記載があるものはほとんどありません。ナシビンMスプレー、ナシビンメディの添付文書には記載がありましたが、その他の商品ついては内服薬ですら書いてあるものを見つかられませんでした。添付文書を鵜呑みにしてはいけないということが分かると思います。たしかに添付文書は唯一の法的効力をもった文書ですが、記載が不十分なことはよくあります。今回のMAO阻害薬のような相互作用が理解しやすいものに関しては、自分の頭で考察し、相互作用をあらかじめ予想することで健康被害を未然に防がなくてはなりません。

今回の記事で紹介したMAO阻害薬の相互作用は大学の薬理学で習う基本的な事ですが、基本をおろそかにせず、薬がどうやって効果を発揮するのかを理解して、適正な薬学管理が出来ればと思います。

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