公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の事例を読み返している中で、非常に優れた事例がありました。私もハッとさせられる内容だったので、この事例を共有し、検査値をより深く知っていただければと思います。
【事例の内容】
患者は90歳代で、1か月ほど前から意識消失を起こすようになった。往診時、医師が血液検査を行った。薬剤師が血液検査の結果を確認したところカルシウム値は正常値であったが、アルブミンの値が低かったため、補正カルシウム濃度を計算すると、12.9mg/dLとなり基準値を超えていた。カルシウム値を上昇させる可能性のある薬剤の服用の有無を確認すると、他の診療科からL-アスパラギン酸Ca錠200mg「サワイ」とエディロールカプセル0.75μgが処方されていた。往診医に伝えたところ、これら2種類の薬剤が中止となった。
【背景・要因】
患者に複数の診療科から薬剤が処方されていた。
【薬局が考えた改善策】
薬剤師も血液検査の結果を確認する。特に、多剤併用している患者の場合は、他の診療科の処方薬も含め、服用している全ての薬剤の副作用の可能性を検討する。
これは血清カルシウム濃度が正常であったため、医師も高カルシウム血症を見落としていたのかもしれません。薬剤師が血清アルブミン値まで考慮して計算したことろ、高カルシウム血症を発見できたものになります。
高カルシウム血症は過去の記事(高カルシウム血症)で解説しています。
簡単におさらいすると血清カルシウム値が高濃度になることによって、悪心、嘔吐、多尿、口喝、筋力低下が起き、酷い時には精神症状を起こし情緒不安定、めまい、昏睡を生じます。
患者は1ヶ月ほど前から意識消失を起こしていたようなので、この時点で高カルシウム血症の疑いを持っていたのかもしれません。しかし血清カルシウム値を見ると正常でした。これだけでは高カルシウム血症を疑わないでしょう。しかしこの報告をしてくれた薬剤師はアルブミン値が低値であることに気付きました。
アルブミンについて確認してみましょう。
アルブミンとは血中に含まれるタンパク質で最も多いものです(約6割を占めます)。アルブミンは肝臓で作られ、血中で無機イオン、アミノ酸、脂肪酸、薬物など様々な物質と結合します。アルブミンはこれらの物質と結合して輸送体として働く一方、アルブミンと結合している薬物は薬理作用を示さないといった特徴もあります。⇒ 受容体に結合できない
低アルブミン血症になると効果が増強してしまう薬物があるのはこのためですね。(アルブミンに結合した薬物が減り、遊離型薬物が増え、結果として薬理作用を示す薬物が多くなる。)
カルシウムもタンパク質に結合していない遊離型カルシウムがセカンドメッセンジャーなどの生理活性を示します。
そのためアルブミン値が低い状態では遊離型カルシウムの量が増え、結果として高カルシウム血症を起こすことがあります。今回のケースでは患者は低アルブミン血症でした。そのため血清カルシウム値が正常であったにもかかわらず、高カルシウム血症を生じていたのでしょう。
血清カルシウム値は遊離型のみを測定するのは困難なため、通常は総カルシウム値(アルブミンなどのタンパク質との結合型+遊離型+リン酸・クエン酸などとの複合型)を測定することになります。
しかし血清アルブミン値が4g/dL未満の場合は補正カルシウム値を用いることで、血清カルシウムの評価します。
血清総カルシウム値:8.4~10.4(mg/dL)
血清アルブミン値:3.8~5.2 (g/dL)
補正カルシウム値:実測血清カルシウム値(mg/dl)+4-血清アルブミン値(g/dl)
今回のケースでは補正カルシウム値が12.9(mg/dL)だったため、カルシウム濃度が基準を超えており、高カルシウム血症と判断できたのですね。
アルブミンは肝臓で作られるため、肝機能障害で産生が低下し、低アルブミン血症を生じます。またネフローゼ症候群などの腎機能障害で糸球体から濾過されることにより、血清アルブミン値の低下を起こします。肝機能や腎機能が低下している人には血清カルシウム値とセットでアルブミン値もチェックするよう習慣付けた方がいいでしょう。
その他にも炎症性サイトカインのILやTNFαなどはアルブミンの分解を促進するため、感染症や手術後はアルブミン値が低下しますし、栄養状態が悪いとアルブミンの産生能も低下します。単に検査値を見るだけでなく、患者背景も含めて見ていくと意外な気づきあるかもしれません。
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