ベタヒスチンが半夏白朮天麻湯に変更された経緯について

耳鼻科の薬

当薬局におかかりの患者さんでめまいが出たため薬が処方された方がいました。内容は以下の通りです。

Rp(1)(般)ベタヒスチンメシル酸塩錠(6) 3錠
        1日3回  毎食後  7日分

しかし1週間服用しても良くならなかったみたいで、本日別の処方になりました。薬を取りに来たのはご家族でしたが、本人曰くグルグルする感じがするそうです。

Rp(1)ツムラ半夏白朮天麻湯  7.5g
    1日3回  毎食前  7日分

この処方変更から患者さんの状態がどうであったか色々推測できると思います。今回はめまいについての解説とともに、抗めまい薬の使い方を確認して頂ければと思います。

まずめまいについて確認しましょう。
めまいは原因の箇所により分類できます。大きく前庭性非前庭性に分けられます。
前庭性めまいは内耳の前庭に何らかの障害があることによるめまいです。前庭から前庭神経が小脳や脳幹に分布していますが、前庭神経から中枢における障害も前庭性めまいに分類されます。

前庭に障害があることによるめまいを末梢性めまい、前庭神経やその先の中枢(小脳や脳幹)に障害があることによるめまいを中枢性めまいと分類します。
末梢性めまいの代表であるメニエール病は内耳のリンパ液が増えすぎ、内耳が膨れてしまう(これを内リンパ水腫といいます)のが原因です。
その他にも動揺病(乗り物酔い)は前庭や三半規管への加速刺激が繰り返すことにより、めまい症状を起こすとされています。
中枢性めまいは脳血管障害(脳梗塞や一過性脳虚血発作など)や椎骨脳底動脈循環不全による脳の血流に障害によるめまいです。
※ 椎骨脳底動脈循環不全
心臓から脳に血液を送る血管には内頸動脈、椎骨動脈、脳底動脈といったものがあるが、このうち椎骨動脈、脳底動脈の血流が低下した状態。


前庭性めまい以外のめまいを非前庭性めまいといいます。

例えば低血圧や貧血、眼精疲労、更年期障害など、他の疾患が原因でおこるめまいですね。

その他にも症状による分類もあります。回転性めまい非回転性めまいです。
回転性めまいはグルグル回転するように感じるめまいであり、非回転性めまいはふらついたりフワフワするといった感じのめまいです。
メニエール病や動揺病、脳血管障害や 椎骨脳底動脈循環不全によるめまいは回転性めまいであり、非前庭性めまいは基本的に非回転性めまいです。薬物の副作用によるめまいは中枢性めまいですが、非回転性めまいのことが多いですね。

めまいの分類が分かったことろで今回の処方を見てみましょう。
始めにベタヒスチンが処方されました。ベタヒスチンは内耳の毛細血管を拡張させ、内リンパ水腫を改善し、また内頸動脈も拡張させ脳血流を改善します。つまりメニエール病と中枢性めまいの両方に有効なのが分かると思います。
※詳しい作用機序は不明ですが、ヒスタミンH1受容体を刺激することにより、血管平滑筋を弛緩させていると考えられています。 (ヒスタミンH1受容体は血管内皮細胞に存在するので、刺激によりNOを分泌する)
この患者さんは「グルグルする感じがする」と言っていたので、おそらく前庭性めまいだったのでしょう。この場合最も多く用いられるのはベタヒスチンですが、効果が不十分だったようです。そのため漢方薬に変更になったのですね。

今度はめまいの原因を東洋医学的に見てみましょう。
脾胃の機能が低下すると水の吸収が低下します。そのため胃に津液が溜まってしまう状態になります。津液が過度に溜まると湿となり、この湿が固まって動きが悪くなったものを痰といいます。体中に湿や痰が溜まっている状態を湿痰といいます。
湿痰は体中に溜まっているような状態です。水は外気温に影響されやすいので、寒がりのうえ暑がりといった体質であり、水太りタイプの体形が多いですね。
湿痰が頭の方にあると頭重感や頭痛、めまいを生じます。

半夏白朮天麻湯に含まれる半夏は脾胃を暖め、余分な水分を乾かし、白朮は脾胃を暖め、さらに利尿作用も持つため、余分な水分を排出します。天麻は湿が上昇するのを抑えることによって頭痛やめまいを治すとされています。
半夏白朮天麻湯の効能効果が「胃腸虚弱で下肢が冷え、めまい、頭痛などがある者」となっているのは納得できますね。

この患者さんは高齢であり、胃腸の機能が低下していたのかもしれません。西洋医学的に見ればリンパ液が、東洋医学的に見れば津液が前庭やその他の頭部に溜まり、循環不全になることによってめまいが起きているの可能性が高いです。
これでも改善しなければ他にめまいの原因となる疾患があるのかもしれませんし、単に効果不足の場合はベタヒスチンと半夏白朮天麻湯の併用も考えられます。今後この患者さんのめまいが良くなるか見守ろうと思います。

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