腎機能の悪い患者さんがOTCの胃薬を使っていた 問題点と代替薬

調剤業務

先日在宅の患者さんのケアマネージャーさんから連絡がありました。訪問診療で処方された薬の他にOTCのパンシロン01を服用しているとのことでした。この患者さんの処方は以下の内容です。

アムロジピン(2.5) 1錠
タケキャブ(10)   1錠
 1日1回 朝食後
センノシド(12)  2錠
アミティーザ(24) 1錠
 1日1回 夕食後

この患者さんの状態は次のようになります。
95歳女性 体重:50kg 血清クレアチニン値:1.8mg/dL 
血圧コントロール良好。排便問題なし。多少の物忘れはあるが認知症ではない。

この患者さんがOTCのパンシロン01を服用するとどのような問題があるのでしょうか?今回の記事で紹介し、またパンシロン01の代替薬に何を選んだか紹介したいと思います。


まず初めにこの患者さんの腎機能を見てみましょう。
この患者さんの腎機能はCCr:14.8mL/min eGFR:20.4mL/min/1.73m²です。
これは重度腎機能低下に相当します。透析も検討しなければならないくらい腎機能が低下していますが、すでに95歳と高齢なので透析は選択せず、なるべく腎機能を低下させないように気を付けている状態です。

ここでパンシロン01の有効成分を見てみましょう。

上記のは3包(1日量)の含有量です。ここで問題となる有効成分はどれになるでしょうか?
これはマグネシウムとアルミニウムがこの患者にとっては望ましくないといえます。

・腎障害とマグネシウム
マグネシウムは約1/3が腎臓から排泄されます。糸球体でタンパク非結合型のマグネシウムは大半が濾過され、尿細管でその95%が再吸収されます。しかし重度腎障害になると糸球体の機能が低下してしまい、マグネシウムが濾過されにくくなってしまいます。その結果高マグネシウム血症を起こす可能性が高くなります。

2015年頃に酸化マグネシウムを製剤の長期投与で高マグネシウム血症が起きたことによる注意喚起がPMDAから出ています。⇒ 酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い

高マグネシウム血症は軽度では悪心・嘔吐、倦怠感、筋力低下が生じ、中等度になると徐脈、眠気、血圧低下、重度になると意識障害や呼吸抑制、最悪の場合は昏睡や心肺停止になることがあります。

・腎障害とアルミニウム
アルミニウムもマグネシウムと同様に大半が腎臓で濾過されます。ただし血中のアルミニウムは多くがタンパク結合型で存在するため、遊離型として存在しているアルミニウムは10%程度です。そのため一度吸収されたアルミニウムは極めて体外へ排泄し辛いといえます。(タンパクと結合したアルミニウムは分子量が大きくなり、糸球体で濾過されません)

腎障害患者ではマグネシウムと同様に糸球体の機能低下により、アルミニウムが濾過されにくくなっています。アルミニウムは腸管から吸収されるのは僅か1%程度ですが、アルミニウム含有製剤を長期間に渡って服用することで、高アルミニウム血症になる可能性があります。アルミニウムが蓄積することによる体への影響は以下のものがあります。

・アルミニウム脳症
吸収されたアルミニウムの一部は脳に移行します。アルミニウムは活性酸素の産生による細胞の酸化・損傷などにより、言語障害、意識障害、昏睡などの認知症状、ミオクローヌス、 けいれんなどの運動障害が起きることがあります。

・アルミニウム骨症
骨は骨芽細胞が骨基質(類骨)を形成します。この類骨に骨塩と呼ばれるカルシウムやリンが沈着し石灰化し、強い骨になるわけですが、アルミニウムはカルシウムやリンの石灰化を阻害します。つまり骨軟化症と同様の状態になります。またアルミニウムは骨芽細胞の働きを抑制します。そのため骨代謝が抑制され、骨量も低下します。その結果、骨の痛み、骨の変形、骨折、筋力低下を生じます。

・貧血
アルミニウムはヘモグロビンの合成を阻害したり、エリスロポエチンに対して抵抗性をしめします。これにより貧血を起こすことがあります。


以上の説明で腎障害患者ではマグネシウム、アルミニウムが望ましくない事は理解できたと思います。ではどの程度の量がダメなのでしょうか?残念ながら腎障害患者への許容量というものは存在しません。患者ごとに個別に判断する必要があります。
マグネシウムにおいては血清マグネシウム値が正常値におさまっているのならとりあえずは問題ないでしょう。

アルミニウムについてはFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)による耐容週間摂取量(TWI)というものが存在します。これは生涯摂取しても健康に影響のない量のことです。これによると体重1kgあたり、1週間で1mgまでとされています。この患者さんは50kgなので、1週間で50mgまでとなります。

パンシロン01に含まれるアルジオキサとメタケイ酸アルミン酸マグネシウムにアルミニウムが含有されています。パンシロン01、1日量(3包)に含まれるアルジオキサは150mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは240mgです。
これに含まれるアルミニウム量はアルジオキサに約18mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムに約30mgです。パンシロン01 1包あたりにすると (18+30)÷3=16㎎ です。1週間につき3包までなら大丈夫と言えるでしょう。
しかし耐容週間摂取量(TWI)はあくまで腎機能正常患者に対する量です。腎障害患者では少ないにこしたことは無いです。そのため重度腎障害では可能な限り取り除くのがよいことに違いありません。


そもそもこの患者さんは平素からタケキャブ®錠10㎎を服用しているのに、なぜパンシロン01を使うのでしょうか?話しを聞いたところ胸やけがした時に飲んでおり、”飲むと胃がスッと楽になる”とのことでした。これはパンシロン01に含まれる制酸剤の効果でしょう。ここまでの情報が集まったところで医師を含めて話し合いました。
タケキャブ®錠10㎎を服用していることから分かるように、この患者さんは逆流性食道炎です。逆流性食道炎では食べ物を胃から十二指腸へ送り出す力が弱まってます。そのため食べ物が胃に留まる時間が長くなり、胃酸が過剰に分泌され、胃粘膜や食道を刺激します。これに対してPPIやH2ブロッカーで胃酸の分泌を抑えて対処しますが、胃酸分泌抑制薬が効いてくるまでは時間がかかります。
これに対して制酸剤は服用すると速やかに胃酸を中和します。そのため”胃がスッと楽になる”といった感覚になるのでしょう。パンシロン01では炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムがこれにあたります。患者さんが時折胸やけを感じることは間違いなそうなので、パンシロン01に対する代替薬を考える必要がありそうです。

・代替薬について
医療用医薬品の制酸剤は炭酸水素ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、水酸化マグネシウムなどがあります。
マグネシウム、アルミニウムを含有する制酸剤ではパンシロン01と変わりません。カルシウムを含有する沈降炭酸カルシウムはどうでしょう?医師と話し合ったのですが、カルシウム剤もあまり使いたくありません。
重度腎障害ではリンの排泄が低下しています。血中リン濃度が高いとカルシウムがリンと結合してリン酸カルシウムとなり血管壁に沈着し血管石灰化を起こすリスクがあります

そのため今回は炭酸水素ナトリウムを選ぶことにしました。ただし炭酸水素ナトリウムも注意が必要です。炭酸水素ナトリウムにはナトリウムが含まれます。高度腎障害ではナトリウム排泄が低下しているため、浮腫や血圧上昇、体重増加のリスクがあります。また浮腫と血圧上昇は心不全を悪化させます。

今回の患者さんには心不全はなく、血圧コントロールも良好です。そのため炭酸水素ナトリウムは頓服使用にするなら問題ないだろとの結論になりました。
パンシロン01には1日量(3包)に炭酸水素ナトリウムが1200mg含有されています。1包あたり400㎎です。そのためパンシロン01と同様にし、炭酸水素ナトリウムを1回0.4g、胸やけ時に頓服服用としました。
なお炭酸水素ナトリウム1gに含まれる塩分量は約0.7gとなります。
※この計算方法は以下のようになります。




炭酸水素ナトリウム0.4gを塩分換算すると 0.4×0.7=0.28g となります。この程度の塩分量なら頓服で飲む分には問題ないだろうとなりました。さらに炭酸水素ナトリウムは1日1回までという条件もつけました。


今回の記事でパンシロン01の代わりに、より安全性の高いと思われる炭酸水素ナトリウムに変更してもらいました。今回の変更は患者さんの疾患と症状の訴えから、患者さんが制酸剤を必要としていると判断しての対応です。制酸剤は逆流性食道炎による胸やけを一時的に抑え込んでいるに過ぎず、根本的な解決にはなっていません。そのため今後はタケキャブ®錠を増量するのか、あるいはモサプリドを追加するのかなど考えなくてはなりません。その後も患者さんの様子を観察し、訴えをよく聞きて最適な処方を医師と話し合っていこうと思います。

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