ヘルネクシオス錠について 肺がんと一緒に詳しく理解

癌の薬

明けましておめでとうございます。少し遅くなりましたが、早速今年も記事を書いていこうと思います。2025年11月25日に初の経口HER2阻害剤であるヘルネクシオス®錠が発売されました。今回の記事でヘルネクシオス®錠と肺がんについて詳しく解説しようと思います。


まずは肺がんについておさらいします。
肺がんは顕微鏡による病理診断で小細胞肺がん非小細胞肺がんに分けられます。これを詳しく見てみましょう。

・小細胞肺がん(SCLC)
成熟したリンパ球の3倍未満(約20〜30μm以下)と極めて小さな細胞によるガンです。
細胞質がほとんどなく、核が細胞の大部分を占めます隣接する細胞の同士が互いに押し潰し合い、核が変形しあった形を指します。これを核のモルディングといいます。

小細胞肺がんは神経細胞と内分泌細胞の両方の性質を併せ持った神経内分泌細胞から発生します。そのためACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やADH(抗利尿ホルモン)を勝手に産生し、高血圧、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (SIADH)、クッシング症候群、低血糖、ほてりなどの副腫瘍症候群起こすことがあります。

非小細胞肺がんに比べて増殖が極めて速く、転移しやすい特徴があります。
※発見した時には既にリンパ節や脳、骨、肝臓に転移していることが多いです。
喫煙との関連が極めて強く、非喫煙者が発症することはあまりありません。

ガンが片肺と周辺組織までに留まっている限局型では化学療法と放射線治療の併用を行います。
ガンが広く転移してしまっている進展型では化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用を行います。※骨転移による痛みを抑えるために放射線治療を行うこともあります。


・非小細胞肺がん(NSCLC)
成熟した リンパ球の3倍以上の大きさの細胞によるガンです。肺がん全体の約80〜85%を占めます。非小細胞肺がんは組織の形によって以下のように分類されます。

・扁平上皮がん
皮膚の表面や粘膜、一部の臓器に存在する平らで薄い細胞が何層にも重なった扁平上皮細胞に出来るガンです。肺門部(肺の入口)にできやすいです。喫煙との関連が強いとされています。喫煙の刺激が長期間加わることで、肺門部の繊毛細胞が扁平上皮細胞に化生してしまうからです。

・腺がん
分泌機能を有する腺細胞にできるガンです。非小細胞肺がんで最も多いタイプです。肺の奥にできやすいです。肺の最も奥にある肺胞で肺サーファクタントの分泌がされているからですね。
非喫煙者にも多く発症し、遺伝子変異との関連が高いとされています

大細胞がん
扁平上皮がん、腺がんのどちらの特徴も持たない未分化なガンです。細胞が非常に大きく形が歪なのが特徴です。非小細胞肺がんの中では増殖が速く、転移しやすい傾向があります。

非小細胞肺がんは小細胞肺がんと比較すると、増殖速度は比較的緩やかです。早期であれば手術による切除で完治することもあります。
そのため早期治療は手術が基本です。周辺組織に転移がある場合は手術と化学療法、放射線治療を合わせて行い、他臓器への転移がある場合は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬による治療を行います。


ここまでで肺がんの分類について分かったでしょうか?
ヒトの細胞には特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質である成長因子に対する受容体が存在します。成長因子受容体は他のタンパク質と同様に特定の遺伝子の情報をもとに作られます。
これらの特定の遺伝子に変異があると非小細胞肺がんの発症に関わることがあり、それらの遺伝子変異をドライバー遺伝子変異と呼びます。
※ドライバー遺伝子は細胞の増殖をコントロールするスイッチであり、遺伝子変異により細胞増殖が常に活性化してしまい、細胞がガン化します。

主なドライバー遺伝子変異には以下のようなものがあります。

上記の遺伝子により作られる成長因子受容体はいずれもチロシンキナーゼ内蔵型受容体です。
リガンドが結合すると受容体が2量体を形成しチロシンキナーゼを活性化し、細胞の分化、増殖、遊走が起きます。

受容体に変異があるとリガンド非依存的に2量体化します。これによりシグナル伝達が異常活性し、細胞の癌化の原因となったり、癌細胞の成長や増殖を促進します。


これまでの説明で肺がんの種類と、ドライバー遺伝子変異が細胞のガン化を起こすメカニズムについてある程度理解できたと思います。
それでは今回の記事で紹介するヘルネクシオス®錠について解説します。


・作用機序について
ヘルネクシオス®錠の有効成分はゾンゲルチニブといい、これはHER2阻害薬です。
HER2のチロシンキナーゼ領域に結合し、ATPの結合を不可逆的に阻害します。


・効能、効果について
効能・効果は以下のようになります。
「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」
作用機序から分かるように、HER2遺伝子変異がある肺がんでなくてはなりません。
前述したように非小細胞肺がんが他臓器への転移がある場合は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬による治療を行います。そのため小細胞肺がんではなく、非小細胞肺がんであることが分かると思います。またファーストチョイスにはならず、他の化学療法を先に行っている必要があります。

・用法、用量について
「通常、成人には、ゾンゲルチニブとして1日1回120mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。」
となっています。ヘルネクシオス®錠の規格が60mgなので1回2錠ですね。
また副作用が発現した場合には、GradeはNCI-CTCAE ver5.0により評価し、休薬、減量、中止を考慮します。
CTCAEとは Common Terminology Criteria for Adverse Eventsの略であり、有害事象共通用語規準を意味します。有害事象の重症度をGrade1~5で分類します。
(1:軽症 2:中等症 3:重症 4:生命を脅かす 5:死亡)
日本語版CTCAE ver5.0はこちらです ⇒ 有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版



・副作用について
頻度の高いものとして肝機能障害(35.2%)、悪心・発疹(20~30%)、口内炎・皮膚膚乾燥・そう痒症・爪の障害(10~20%)、貧血(17.8%)、駆出率減少(10%未満)、重度の下痢(3.0%)があります。

HER2は表皮や消化管粘膜、気管支・肺胞などの上皮細胞に多く分布し、また肝細胞や心筋細胞にも分布しています。そのためこれらの副作用が起きるのが分かりますね。

・薬物動態について
吸収については
「食事の影響健康成人(16例)に本剤240mg注1)を単回経口投与したとき、空腹時投与に対する高脂肪食後投与におけるゾンゲルチニブのAUC0-t及びCmaxの幾何平均値の比は、それぞれ1.27及び1.26であった。」
とされています。食事の影響はさほど大きくなさそうです。

代謝・排泄についてはゾンゲルチニブは主にCYP3A4/5による酸化、UGT1A4によるグルク
ロン酸抱合及びグルタチオン抱合によって代謝され、排泄は糞便中には93%、尿中に1.3%が排泄されます。このことから代謝・排泄はほとんど肝臓で行われており、腎臓の影響は極めて少ないでしょう。


今回の記事でヘルネクシオス®錠について理解できたでしょうか?
これまでの非小細胞肺がんでにおけるHER2阻害薬は注射薬のエンハーツ®点滴静注用しかありませんでした。今回のヘルネクシオス®錠で経口投与が可能となりました。しかしエンハーツ®点滴静注用と違い乳がんや胃がんには使えません。今後は非小細胞肺がん以外のがんにも使える経口HER2阻害薬が登場するといいですね。

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