初の経口SERD製剤のイムルリオ錠の製造販売が承認

癌の薬

またまた前回記事から間隔が空いてしまいました。棚卸しや薬価改定など対処しなくてはならない仕事が多くてブログまで手が回りませんでした💦本当はもっと早く紹介しようとしていた記事がようやく完成しました。
2025年12月22日にイムルリオ®錠の製造販売が承認されました。選択的エストロゲン受容体分解薬として初の経口薬です。今回の記事で乳がんのタイプ、イムルリオ®錠がなぜ効くか、どのような特徴があるかを解説します。病態と一緒にセットで覚えて下さい。


まず初めに乳がんについておさらいしましょう。乳がんは日本の女性が最も罹患数が多い癌です。早期の場合は手術により癌を切除し、再発防止のため薬物療法や放射線療法を行います。これにより予後良好なケースが多いです、しかし再発や遠隔転移があると完治は難しく、薬物療法による延命、OQLの向上が目的となります。
乳がんの癌細胞が増殖する原因は主に以下のようなものがあります。

・HR陽性
乳がんの約70%は女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)を取り込んで増殖するホルモン依存性腫瘍といいます。※女性ホルモンに関係なく増殖するものをホルモン非依存性腫瘍といいます。
乳房の細胞に存在するホルモン受容体、特にエストロゲン受容体(以下ER)にエストロゲンが結合することにより増殖します。乳房にERが過剰に発現している乳がんをER陽性といいます。

※プロゲステロン受容体(PgR)が過剰に発現している場合はPgR陽性といいます。ER、PgRをまとめてHRといい、ERまたはPgRが陽性なものをHR陽性といいます。

・HER2陽性
ヒトの細胞には特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質である成長因子に対する受容体が存在します
HERはヒト上皮細胞成長因子といい、細胞膜に分布しています。HERは1~4のサブタイプがありますが、乳房細胞では特にHER2が発現しています。

HER2にリガンドが結合すると、HER2は2量体を形成します。HER2はチロシンキナーゼ内蔵型受容体であり、このチロシンキナーゼが活性化します。チロシンキナーゼの働きにより様々なシグナル伝達が行われ、細胞の増殖が行われることになります。
※現在HER2のリガンドが何であるかは不明です

成長因子受容体は他のタンパク質と同様に特定の遺伝子の情報をもとに作られます。
これらの特定の遺伝子に変異があるとがんの発症に関わることがあり、それらの遺伝子変異をドライバー遺伝子変異と呼びます。
※ドライバー遺伝子は細胞の増殖をコントロールするスイッチであり、遺伝子変異により細胞増殖が常に活性化してしまい、細胞がガン化します。

HER2過剰発現や変異があると、最終的にはリガンドが結合していなくても2量体を形成してしまい、細胞増殖が制御できなくなり、癌化してしまいます。


以上に紹介したように乳がんの癌細胞増殖の原因は主にHR、HER2によります。
乳がんは癌細胞増殖の原因のHRとHER2の組み合わせにより4つのサブタイプに分類できます。

・HR陽性 / HER2陰性
ホルモン受容体が過剰で、ホルモンをエサにして増殖するタイプです。乳がんで最も多いタイプであり、がんの増殖も穏やかなのが特徴です。ホルモン療法が主体となります
主にKi-67の値によりルミナルA型とルミナルB型に分類されます。

※Ki-67とは細胞の増殖能力を示すタンパク質マーカーで、休止期(G0)以外の全ての細胞核に発現します。活発に分裂している細胞の割合を示すマーカーとして利用さます。この値が高いほどがんの増殖スピードが速いことを示唆します。

・HR陽性 / HER2陽性
ルミナルHER2型ともいい、HRとHER2の両方が過剰な状態です。そのため増殖スピードが速いです。
ホルモン療法と抗HER2抗体の分子標的薬の組合わせで治療します。

・HR陰性 / HER2陽性
HER2リッチ型ともいい、ホルモンには依存せず、HER2の増殖シグナルだけが原因となります。そのためホルモン療法は効果がありません。トリプルネガティブ型の次に増殖速度が速いタイプです。
抗HER2抗体の分子標的薬と化学療法を合わせて治療します。

・HR陰性 / HER2陰性
トリプルネガティブ型ともいい、ER、PgR、HER2のいずれも陰性のタイプです
乳がんになる原因としてはBRCA遺伝子変異、もとの細胞のバサール様性質、生活習慣や環境因子が原因と考えられています。乳がんの中で最も増殖速度が速いタイプです。
※BRCA遺伝子については過去記事を参照してください ⇒ ターゼナカプセル
ホルモン療法、分子標的薬のどちらも無効なため、化学療法による治療が中心となります


前置きが長くなってしまいましたが、乳がんの癌細胞が増殖するメカニズム、乳がんのタイプについて理解できたでしょうか?それでは今回の記事のイムルリオ®錠について見てみましょう。

・作用機序について
イムルリオ®錠の有効成分はイムルネストラントといい、これは選択的エストロゲン受容体分解薬(以下SERD)です。
SERDはERに結合してその働きを阻害するだけでなく、ERそのものを分解します

エストロゲン受容体にはERαとERβが存在しますが、イムルネストラントはERαを分解します。
※ERαは乳腺、子宮、卵巣、肝臓などに分布し、細胞増殖を促進する

長期間ホルモン療法を続けるとERαの遺伝子(ESR1)に変異が起き、変異型ERαを産生しますERαはリガンドがなくても活性化し、増殖シグナルを出し続けます。これが乳がんの治療抵抗性の一つです。イムルネストラントなどのSERDはERだけでなく変異型ERαも強力に分解します。これによりESR1遺伝子変異陽性の治療抵抗性乳がんにも効果を発揮するのが特徴です。
※他のSERDのフルベストラント(フェソロデックス®筋注)は変異型ERαに対して結合力が弱まり、効果が減弱します。

・効能又は効果について
効能又は効果は以下のようになっています。
「内分泌療法後に増悪したESR1遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」

SERDはERを分解するのでHR陽性乳がんに効果を発揮します。しかしHER2阻害作用はないので、HER2陽性乳がんには効果がありません。そのためHR陽性/HER2陰性、つまりルミナルA型またはルミナルB型に対して用います。
またESR1遺伝子変異が無い場合はアロマターゼ阻害薬やタモキシフェンなどのSERM、CDK4/6阻害剤などが用いられます。治療を行っていく途中で治療抵抗性が確認されたらSERDに切り替わるわけですね。

・用法及び用量について
用法は以下のようになっています。
「通常、成人にはイムルネストラントとして1日1回400mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。」

イムルリオ®錠の規格は200mgなので1回2錠ですね。
これまでのSERDにはフルベストラント(フェソロデックス®筋注)がありましたが、イムルリオ®錠は初の経口SERDです。

「用法及び用量に関連する注意」に
「本剤は食事とともに服用すると血中濃度が上昇することがあるので、本剤服用の1時間前から服用後2時間は食事をしないこと」
と記載があります。これはイムルネストラントが脂溶性薬物であるからですね。エストロゲン受容体は細胞膜にも存在しますが、主に細胞質や核内に存在します。つまちり細胞膜を通過しなくてはなりません。細胞膜を通過するには特定のトランスポーターを介するのでなければ、脂溶性が高い必要があります。脂溶性薬物は食後に服用すると胆汁酸によりミセル化し、吸収量が増加します。そのため胆汁酸の影響を受けないように空腹時に服用するわけですね。

また詳しくは後述しますが、中等度又は重度の肝機能障害(Child-Pugh分類B又はC)に投与する場合強いCYP3A阻害剤と併用する場合は1回量を200mgに減量する必要があります

また「閉経前乳癌及び男性に対しては、LH-RHアゴニスト投与下で使用すること」との記載があります。これはエストロゲンの阻害によるフィードバック機構を防ぐためですね。
性ホルモンに限らず、ホルモン分泌にはフィードバック機構が存在します。

エストロゲンの働きを阻害すると、本来のnegative feedback機構が阻害され、LH-RHの分泌が促進されます。その結果FSH、エストロゲンの分泌も促進され、本来のイムルネストラントの効果が発揮できなくなってしまいます。また閉経前女性のでは卵巣が刺激され、大量のエストロゲンが産生されます。その結果、子宮内膜症や子宮体がんのリスクが高まります。
男性の場合は精巣が刺激され、テストステロンの産生が促進されます。その結果、前立腺がんのリスクが高まります。
LH-RHアゴニストを投与しておくことで、LH-RH受容体をあらかじめ占拠してしまい、negative feedbackの抑制による影響を受けなくします。

・代謝、排泄について
代謝、排泄については以下のような記載があります。
「イムルネストラントは、硫酸化、CYP3A4による酸化、並びにUGT1A1、1A3、1A8、1A9及び1A10による直接グルクロン酸抱合によって代謝される」
「健康成人5例に14C-イムルネストラント400mgを単回経口投与したとき、投与量の97.3%(未変化体として61.8%)が糞便中に排泄され、0.278%が尿中に排泄された」

このことから分かるように、イムルネストラントは主に肝臓で代謝され、胆汁を介して糞中に排出されます。また「中等度又は重度の肝機能障害(Child-Pugh分類B又はC)を有する患者に投与する場合は、本剤の1回用量を200mgに減量すること。」との記載もあります。肝臓で代謝されるので、肝機能が低下している場合は減量が必要になるわけですね。

「用法及び用量に関連する注意」に「強いCYP3A阻害剤と併用が避けられない場合には、本剤の1
回用量を200mgに減量すること」
との記載もあります。前述したように肝臓で代謝されますが、特にCYP3Aにより代謝されることが分かります。

腎機能障害患者に対する記載は「母集団薬物動態解析の結果、腎機能が正常(448例)、軽度(482例)及び中等度(108例)の腎機能障害患者においてイムルネストラントの薬物動態に大きな影響は見られなかった。」との記載があります。

以上のことから分かるように、イムルネストラントは肝臓で代謝され糞中に排出されるので、腎臓の影響はほとんど受けないと言えるでしょう。

・相互作用、副作用について
前述したようにイムルネストラントは主にCYP3Aで代謝されます。そのためCYP3Aの阻害薬や誘導体との併用に注意しなくてはなりません。CYP2D6やP糖タンパクとは異なり、”可能な限り避け”と書かれていることからも、相互作用の影響が大きいことが分かります。強いCYP3A阻害薬との併用では減量も必要となります。



副作用は下痢と疲労が10%以上とかなりの高頻度で生じます。エストロゲン受容体は腸管粘膜にも存在します。これを分解してしまうので下痢になるわけですね。1~10%の副作用に悪心、嘔吐、
便秘、腹痛があるのも同様の理由です。
エストロゲンの働きを阻害することで更年期障害のような状態になります。これにより疲労感がでることが分かると思います。1~10%の副作用にほてりがあるのも同様の理由でしょう。


今回の記事で乳がんの種類およびイムルリオ®錠について理解できたでしょうか?
SERDは筋注しかなかったので経口薬ができたのは患者のアドヒアランス向上につながるでしょう。またこれまでのSERDであるフルベストラント(フェソロデックス®筋注)に比べて、ESR1遺伝子変異を有するタイプにも高い効き目を発揮します。このように治療抵抗性乳がんに対して有効な薬がどんどん登場し、乳がん患者がなるべく元気に長い期間過ごせるようになるといいですね。

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