全身性エリテマトーデス治療薬のサフネロー®点滴静注がありますが、2026年4月15日に新たにオートインジェクター製剤が薬価収載されました。これにより従来に比べて患者の負担を大幅に軽減させることが可能です。全身性エリテマトーデスは難病で患者も少ないので、実際に扱う機会は少ないかもしれませんが、もし扱うことになっても速やかに対応できるように、今回の記事で病態から薬がなぜ有効かまで詳しく学んでいただければと思います。
まず初めに全身性エリテマトーデスについて確認しましょう。
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus、以下SLE)は免疫異常により、免疫が皮膚、関節、肺、腎臓などの全身の様々な臓器を攻撃する自己免疫疾患です。SLEはⅢ型アレルギー(免疫複合体型)に分類されます。つまり抗体が体内組織を抗原として認識して結合し、その複合体が組織沈着して、全身症状の他に各組織で様々な症状を発症する疾患です。
症状は寛解と再燃を繰り返すのが特徴です。
発熱、全身倦怠感・易疲労感といった全身症状が初期に多く見られます。その他の症状はヒトによって様々ですが、以下の3つが最も特徴的なものになります。
・蝶形紅斑
鼻から両頬へ蝶が羽を広げたように広がる赤い発疹。SLEの最も代表的な症状。
・関節炎、関節痛
手や指、肘、膝などの関節の腫脹。日によって痛む場所が変わることがある。リウマチとは異なり、骨が破壊されて変形することはない。
・ループス腎炎
免疫複合体が糸球体で沈着し糸球体のフィルター能が破壊される。その結果タンパク質や赤血球が尿中に漏れ出て、タンパク尿や血尿が起きる。進行する浮腫が出たり腎不全に至ることもある。SLE患者の約半数に見られる。
ここまででSLEについてある程度理解できたでしょうか?それではなぜSLEになってしまうのか、その理由を免疫反応のメカニズムと一緒に確認しましょう。
・抗原に対する免疫反応
ヒトの体に細菌やウイルスなどの異物(抗原)が侵入すると、B細胞の細胞表面のB細胞受容体(BCP)が結合し、細胞内に取り込みます(エンドサイトーシス)。
B細胞は抗原をエンドサイトーシスで取り込むと、B細胞の酵素にペプチド解体し、その一部をB細胞表面のMHCクラスIIに載せて細胞外へと突き出します(抗原提示)。
提示された抗原にヘルパーT細胞のT細胞受容体(TCR)が結合すると、ヘルパーT細胞は活性化し様々なサイトカインを放出し、司令塔として機能します。
・抗原がウイルスの場合
⇒Th1細胞に分化し、マクロファージやキラーT細胞を活性化させる。
・抗原が細菌やアレルゲンの場合
⇒Th2細胞に分化し、B細胞を形質細胞に分化させ大量の抗体を産生させる。
※B細胞の一部は記憶B細胞(メモリーB細胞)として抗原情報を記憶し、同じ抗原が侵入した時に一瞬で大量の抗体を産生します。
・SLEになるメカニズム
SLEではB細胞が自身の細胞を抗原とみなしてしまいます。
B細胞は未知のウイルスや細菌にも対応できるよう、骨髄でランダムに遺伝子を組み替えて無数のバリエーションが作られます。その過程で一部は自分の細胞を抗原と認識してしまうB細胞が生まれてしまいます。
通常はそのようなB細胞は骨髄の段階でアポトーシスし、アポトーシスせず血液中に放出されたB細胞もアネルギー状態(免疫不応答状態)にあります。
また体内には制御性T細胞(Treg)が存在し、自分の体を攻撃しようとする細胞を発見すると直接破壊したり、抗炎症性サイトカインであるIL-10やTGF-βなどを放出して働きを抑制します。そのため通常はB細胞が自身の細胞を抗原として認識することはないです。
しかし紫外線によって皮膚の細胞が大量に損傷したり、アポトーシスや壊死した細胞のマクロファージによる除去能力が低下し、自己抗原となるDNAが血液中に大量に存在したり、ウイルス感染により免疫システムが過剰に刺激されたりすると、B細胞が自身のDNAを誤って抗原提示し、抗原提示を受けたヘルパーT細胞も活性化することがあります。
それによりB細胞は形質細胞に分化し大量の抗体を産生します。大量に産生された抗体は血液中のDNA(自己抗原)と結合し、免疫複合体を形成します。
腎臓や皮膚、関節などの血管は非常に細く、また毛細血管がループ状の構造をしているため、免疫複合体が詰まりやすい環境にあります。
血管に詰まった免疫複合体には補体が結合し、分解します。しかしSLEでは大量に免疫複合体が存在するため、補体は免疫複合体だけでなく自身の細胞まで破壊してしまいます。
さらに補体は好中球やマクロファージなども活性化し、補体が結合した自身の組織を破壊してしまいます。
前述したループス腎炎、関節炎、蝶形紅斑といった症状がおきるのは、腎臓・関節・皮膚が免疫複合体が沈着しやすい構造だからですね。また発熱が起きるのは好中球やマクロファージが炎症性サイトカインを産生するからですね。
女性ホルモンのエストロゲンは免疫を活性化しやすいです。そのため女性にSLEが多い傾向にあります。
ここまでで免疫反応、SLEになるメカニズムは理解できたでしょうか?
現在SLEの治療法はプレドニゾロンなどのステロイド、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、シクロスポリンなどの免疫反応剤、ヒドロキシクロロキンなどの免疫調節剤、ヒト型抗BLysモノクローナル抗体のベリムマブなどがあります。
現在は1型インターフェロン阻害薬であるアニフロルマブが標準治療に追加されています。アニフロルマブ製剤はサフネロー®点滴静注がありますが、今回新たにオートインジェクター製剤であるサフネロー®皮下注120㎎オートインジェクターが薬価収載されました。それではサフネロー®皮下注120㎎オートインジェクターについて詳しく見てみましょう。
・作用機序について
アニフロルマブはヒト抗I型IFN受容体1モノクローナル抗体です。I型インターフェロン受容体サブユニット1(以下IFNAR1)に結合し、I型IFNのシグナル伝達を遮断する働きがあります。
抗原に対する免疫反応で前述したように、B細胞は抗原を取り込むと形質細胞に分化し、抗体を産生します。
B細胞が形質細胞に分化するには、1型インターフェロン(IFN-αやIFN-βなど、以下1型IFN)がB細胞の表面にある受容体(以下IFNAR)に結合する必要があります。
IFNARはIFNAR1とIFNAR2の2つのサブユニットで構成されています。
※IFNAR1:TYK2が結合 IFNAR2:JAK1が結合
IFNARに1型IFNが結合すると受容体が二量体化し、TYK2とJAK1が互いに近づいて活性化します。
活性化したTYK2とJAK1はSTATタンパクをリン酸化し、これがIRF9というタンパクと結合し、ISGF3(STAT1 + STAT2 + IRF9の複合体)を形成します。ISGF3はDNA上にあるISRE配列に結合します。これによりB細胞は形質細胞になる前段階の状態になります(プライミング)。
※最終的にはT-betという転写因子が形質細胞に分化させる
アニフロルマブはIFNAR1のモノクロナール抗体であり、IFNAR1に特異的に結合します。これにより1型IFNがIFNARに結合できなくなり、1型IFNの生理活性が失われます。さらにアニフロルマブはIFNAR1に結合すると、IFNAR1ごと細胞の内部に移行させ、分解してしまいます(エンドサイトーシス)。
このように1型IFNの生理活性を失わせてしまうため、B細胞が形質細胞に分化するのを阻害し、結果としてSLEの発症や症状進行を抑制するわけですね。
・用法及び用量について
サフネロー®点滴静注は「通常、成人にはアニフロルマブ(遺伝子組換え)として、300mgを4週間ごとに30分以上かけて点滴静注する」でした。つまり4週間おきに受診し、さらに30分以上かけて点滴する必要がありました。
今回薬価収載されたオートインジェクターは以下のようになっています。
「通常、成人にはアニフロルマブ(遺伝子組換え)として、1回120mgを1週間ごとに皮下注射する。」
サフネロー®皮下注120㎎オートインジェクターは1本につきアニフロルマブが120mgです。つまり週に1回、1本を注射すればよいことになります。オートインジェクターなので在宅での自己注射が可能です。初めて使用する人は点滴静注から開始して、容態が安定してきた場合に自己注射への切り替えとなるでしょう。”用法及び用量に関連する注意”には「アニフロルマブ点滴静注製剤から皮下注製剤に切り替える場合、点滴静注製剤の最終投与から約2週間後に皮下注製剤の投与を開始すること」と記載されています。
注射する部位は上腕部、大腿部、または腹部であり、同じ部位に注射する場合は前回の注射箇所から少なくとも3cm以上離す必要があります。また腹部へ投与する場合はへそ回りを外さなくてはなりません。
”使用上の注意”に「投与60分前に冷蔵庫から取り出し、本剤を外箱に入れたままの状態で室温に戻しておくことが望ましい。」と書かれています。インスリン製剤が15~30分なのに対して長めですね。
・効能又は効果について
点滴静注と同様で「既存治療で効果不十分な全身性エリテマトーデス」です。
”効能又は効果に関連する注意”に
「過去の治療において、ステロイド、ヒドロキシクロロキン、免疫抑制薬等による全身性エリテマトーデスに対する適切な治療を行っても、疾患活動性を有する場合に、本剤を上乗せして投与すこと」
書かれており、SLEのファーストチョイスにはなりません。あくまで標準治療で効果不十分の時に上乗せして使うことになります。
・副作用について
重大な副作用にアナフィラキシー(頻度不明)、重篤な感染症(2.3%)があります。注射なのでアナフィラキシーがあるのは当然ですし、B細胞の分化を阻害するので感染症があるのは当然ですね。これは点滴静注と同じであり、オートインジェクター特有のものはありませんでした。
今回の記事でサフネロー®皮下注120㎎オートインジェクターについて理解できたでしょうか?
SLEは難病であり、根治治療がなく寛解維持療法が中心となります。治療法も複雑であり手間もかかります。そんな中で通院して点滴しなければならなかった治療が在宅での自己注射が可能になったのは素晴らしいことです。このように治療の手間を減らす製剤がどんどん登場してくれると嬉しいですね。
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