先日施設在宅を行っている患者さんで浮腫が目立つ人がおり、処方内容をどうすべきか話し合いました。最初に出た案は利尿剤を追加でしたが、その患者さんの処方内容に以下のものがありました。
プレガバリンOD(75) 2錠 1日2回 朝夕食後
施設看護師の方に確認すると、痛みは落ち着いているとのことなので、プレガバリンOD(75)を1錠 1日1回 朝食後にすることにしました。その結果、浮腫は多少は改善したのでこの用量で経過観察することとしました。今回の記事でなぜプレガバリンで浮腫が起きるか、なぜ利尿剤を使わなかったかを紹介します。同様のケースがあった時の参考にしてもらえればと思います。
まず初めにプレガバリンがどのように働いているか、どの痛みに有効か確認しましょう。
・プレガバリンの作用機序、効能効果について
ヒトの体は末梢から中枢に向けて神経伝達を行う求心性ニューロンと、中枢から末梢に向けて神経伝達を行う遠心性ニューロンがあります。
末梢から脊髄に神経伝達を行うのを一次性求心性ニューロンといいます。
その後、脊髄⇒視床へと神経伝達を行う二次性求心性ニューロン、視床⇒大脳皮質へと神経伝達を行う三次性求心性ニューロンへと続き、これにより脳が痛みを認識します。
プレガバリンは一次性求心性ニューロンの神経終末に存在するCaチャネルのα2δサブユニットに結合し遮断します。
一次性求心性ニューロンの神経終末からは主にグルタミン酸やサブスタンスPといった神経伝達物質が放出され、これにより痛覚情報が二次性求心性ニューロンに伝達されます。これらの神経伝達物質の放出にはCa²⁺が必要です。Caチャネルのα2δサブユニットを遮断することで神経伝達物質の放出が抑制され、痛みの抑制につながります。
このような作用機序により鎮痛効果を発揮します。NSAIDsなどの鎮痛剤はプロスタグランジン(PG)の産生を抑制し、ブラジキニンの侵害受容器に存在する受容体への感受性を弱めます。つまり末梢性の鎮痛薬です。一方プレガバリンは前述したように一次性求心性ニューロンの神経終末で作用します。そのため中枢性の鎮痛薬といえます。
そのためプレガバリンの効能効果は「神経障害性疼痛」と「線維筋性疼痛」になります。
・浮腫が起きるメカニズム
前述したようにプレガバリンは神経細胞終末に存在するCaチャネルのα2δサブユニットに結合し遮断します。基本的には一次性求心性ニューロンに作用しますが、一部は血管平滑筋に存在するCaチャネルにも作用してしまいます。その結果、Ca拮抗薬で浮腫が起きるのとほとんど同じメカニズムで浮腫が起きます。
ここでCa拮抗薬で浮腫が起きるメカニズムを確認しましょう。
アムロジピンなどの多くのCa拮抗薬はL型Caチャネルを遮断させます。L型Caチャネルは主に細動脈に存在します。
血液は毛細血管で酸素と二酸化炭素のガス交換が行われます。
(毛細管の手前の血管を細動脈であり、毛細血管の後の血管を細静脈)
アムロジピンなどのCa拮抗薬は主にL型Caチャネルを遮断するので細動脈を拡張させますが、細静脈は拡張させません。その結果、毛細血管に流れ込む血液量は増えるのに、毛細血管から排出される血液量は変わらず。その結果毛細血管から水分が漏れ出て浮腫につながります。
※Ca拮抗薬のシルニジピンはL型の他にN型Caチャネルも遮断します。N型Caチャネルの遮断で細静脈を拡張させるので、毛細血管圧の上昇、浮腫を防止できます。
(N型Caチャネルは血管平滑筋ではなく血管に伸びる神経終末に分布します。N型Caチャネルを遮断することでノルアドレナリンの分泌が抑制され、細静脈の収縮が抑制されます)
プレガバリンの場合もメカニズムはCa拮抗薬の場合と非常に似ています。
毛細血管の手前の細動脈の血管壁には何層にも重なった厚い平滑筋が存在しますが、毛細血管の後の細静脈の平滑筋は1~2層、あるいは不連続と非常に薄い状態です。
そのためCaチャネルのα2δサブユニットを阻害しても、拡張するのは細動脈で細静脈はほとんど拡張しません。その結果、Ca拮抗薬の時と同様に毛細血管で血液が渋滞、毛細血管圧が上昇し、水分が漏れ出て浮腫が生じるわけです。
ここまででプレガバリンによる浮腫が起きるメカニズムが理解できたと思います。それではどのように対処していくかを考察しましょう。
通常は浮腫が起きた場合は利尿剤を追加することがほとんどでしょう。
浮腫がおきる代表的な疾患である心不全と肝硬変では次のようなような状態になっています。
・心不全の場合
心臓のポンプ機能の低下により腎血流量が減ります。すると腎臓が血液量が不足していると勘違いし、抗利尿ホルモンの分泌やRAA系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)が活性化します。その結果、体全体の水分量が増加します。
・肝硬変の場合
肝臓の線維化により門脈圧が上昇します。これにより門脈から水分が漏出し腹水になります。また肝臓でのアルブミンの産生の低下により血液の浸透圧が低下し、水分が漏出します。これらにより抗利尿ホルモンの分泌やRAA系が活性化し浮腫になります
つまり心不全や肝硬変の場合は全身の水分量の増加により浮腫になっている状態です。そのため利尿剤が有効なわけです。
しかしCa拮抗薬やプレガバリンによる浮腫は利尿剤はあまり効きません。Ca拮抗薬やプレガバリンの場合は毛細血管圧が上昇し、血管から水分が漏出している状態です。これは毛細血管の局所的な現象であり、全身の現象ではありません。そのため体全体の水分量は増加しておらず、利尿剤の効果はあまり期待できません。
今回のケースにおいてはプレガバリンによる副作用の懸念があったので、利尿剤を使わず以下のような対策を考えました。
①プレガバリンの減量
プレガバリンによる浮腫の副作用は1日量150mg、300mg、600mgと増加するに従って頻度もあがります。つまりこの副作用は用量依存的です。
※PubMed Centralの文献で確認が取れます ⇒ 痛みを伴う糖尿病末梢神経障害に対するプレガバリン治療の有効性、安全性、耐容性
薬用量を減薬すれば浮腫が改善する可能性もあがります。
②ミロガバリンへの変更
同じ神経障害性疼痛治療薬のミロガバリンは浮腫の頻度がプレガバリンに比べて低めになっています。
※プレガバリンが13~17%程度 ミロガバリンは5%程度
Caチャネルのα2δサブユニットはα2δ-1とα2δ‐2の2つのサブユニットが存在します。
α2δ-1は脊髄や末梢神経に多く分布しており、また神経障害があると過剰に増える特徴があります。つまりα2δ-1の遮断が神経障害性疼痛に有効になります。
α2δ-2は主に脳に分布しており、これを遮断すると神経活動を抑制し、めまいや傾眠の原因となります。
ミロガバリンはα2δ-1に対する選択性がプレガバリンに比べて高いです。これがミロガバリンの方がめまいや傾眠になりにくい原因です。
またミロガバリンはα2δ-1からの解離速度がプレガバリンに比べて非常に遅いです。
※解離半減期 受容体に結合した薬が解離して半分に減るまでの時間
つまりミロガバリンはプレガバリンに比べて非常に長い時間α2δ-1を遮断します。一見ミロガバリンの方が血管を長く拡張させてしまい浮腫になりやすそうに感じます。しかしミロガバリンは解離半減期長いため、プレガバリンに比べて非常に少ない量で鎮痛効果を発揮します。
投与量が少ないため、その多くが神経障害によって過剰発現しているα2δ-1に対して結合し、末梢血管に分布しているα2δ-1に結合するのは極めて少なくなります。これによる浮腫が起きにくくなっていることが理解できると思います。
今回のケースではプレガバリンの減量をすることにしました。理由としては以下のようなものがあります。
・痛みの訴えが酷くない
痛みの訴えが酷くないなら減量が最も理にかなっています。前述したように浮腫の副作用は用量依存的です。実際に今回はプレガバリンOD(75)2錠 1日2回でしたが、1錠 1日1回にすることにしました。
・ミロガバリンへの切り替えは用量が難しく手間がかかる
プレガバリン300mgの鎮痛効果に対する等価用量はミロガバリン17.7mgと報告されています。
参考文献 ⇒ 糖尿病末梢神経障害性疼痛患者におけるミロガバリン(DS-5565)の平均1日の痛みスコアおよびめまいおよび眠気の曝露反応モデリング
今回のケースではプレガバリン150mgだったので、ミロガバリンの等価用量は8.85mgです。タリージェ®錠の規格は2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mgです。この場合タリージェ®錠は7.5mgか10mgにするのが近いでしょう。しかし完全に等価にはできないですし、また急な切り替えも出来ません。
切り替えをする場合はプレガバリンを急にやめると離脱症状を起こすリスクがあるので、一旦プレガバリンを減薬して、その後ミロガバリンを少量から開始するといった手順が必要になります。
それなりの時間がかかってしまうので、プレガバリン⇒ミロガバリンに切り替えるのは鎮痛効果が不十分で、さらに浮腫やめまい、傾眠などの副作用があるため増量ができないなどのケースでしょう。
※ただしプレガバリンの1日量が150mg以下の場合は減量不要とする文献もあります。
⇒ 慢性痛患者におけるプレガバリンからミロガバリンへの変更による副作用の検討
・保険適応の違い
プレガバリンは神経障害性疼痛と線維筋性疼痛に保険適応がありますが、ミロガバリンは神経障害性疼痛のみです。今回のケースでは神経障害性疼痛でしたが、線維筋性疼痛だった場合は切り替えは不可です。
今回の記事でプレガバリンで浮腫になるメカニズム、それに対してどう対応していくか参考になったでしょうか?このやり方が必ずしも最適とは限らないですし、「痛みが辛い、しかし副作用がある」といった状況ではミロガバリンへの切り替えが必要なケースもあると思います。心不全や腎機能障害を併発している場合は利尿剤を用いるでしょう。それらのケースに遭遇した時にどう対応していくか、今回の記事が参考になればと思います。
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