3月6日に医師の訪問診療に同行していたのですが、診察中に患者さんの居室のテレビからiPS細胞使った再生医療製品が承認されたというニュースが流れてきました。
⇒ iPS細胞使った再生医療製品を承認 世界初 夏以降に治療で使用
医師も思わず診察の手を止めて興奮していました。それほどインパクトのあるニュースだからです。今回の記事でiPS細胞とは何か、これによりどんな未来が期待できるかを紹介します。是非ご覧になって下さい。
iPS細胞を理解するには、細胞の分化プロセスを知ることが必要です。まず初めに細胞の分化のプロセスを見てみましょう。
・細胞の分化について
受精卵が誕生した直後から3~4日間といった短い期間、細胞は全能性幹細胞です。全能性幹細胞は胎児の体に全てになれ、かつ胎盤などの体外組織になれる状態です。その後受精卵が成熟するにつれて、全能性幹細胞は多能性幹細胞に分化します。
※自己複製能と分化能を持ち、様々な組織や器官に変化する細胞を幹細胞といいます。
多能性幹細胞は胎盤などの体外組織には分化できませんが、体内組織ならあらゆる臓器にも分化可能です。
しかし出生時には多能性幹細胞は組織幹細胞に分化しており多能性は失われています。組織幹細胞は皮膚や血液、神経など特定の組織にのみ分化する能力を持った細胞です。
・iPS細胞とは
iPS細胞とは人工多能性幹細胞のことをいいます。前述したように多能性幹細胞はあらゆる組織に分化する能力をもった万能細胞です。しかし出生後には多能性幹細胞は存在しません。そこで既に分化し終わった細胞から人工的に多能性幹細胞を作ってしまう方法が編み出されました。
京都大学の山中伸弥教授らの研究グループが、組織幹細胞に特定の遺伝子を加えることで、細胞を初期の状態に時間を戻す(つまりリセットする)することに成功しました。こうしてリセットされた細胞が人工的に作られた多能性幹細胞、つまりiPS細胞です。
※これにより2012年に山中伸弥教授はノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
iPS細胞の作り方は患者の皮膚や血液から細胞を採取し、これをシャーレに入れます。そこに山中因子と呼ばれる初期化因子を投入します(山中因子はOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4つの遺伝子です)。
遺伝子はウイルスを運び屋としてDNAに組み込む方法(ウイルスベクター法)、山中因子をプラスミド(環状DNA)に組み込んで細胞内に注入する方法(プラスミド法)があります。プラスミドはDNAには組み込まれず細胞核で独立した状態になりますが、このプラスミドの山中因子をmRNAが読み込んで必要なタンパク質を産生します。
また山中因子のmRNAを細胞内に注入し、山中因子が作り出すものと同様のタンパク質を産生する方法があります(mRNA法)。
※プラスミド、mRNAは役割を終えると分解されます。
こうして山中因子を組み込んだ細胞を一定の温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度といった条件で数週間培養します。その結果、通常の分化した細胞から多能性幹細胞にリセットされた細胞、つまりiPS細胞がコロニーから取り出されます。
・ES細胞との違い
iPS細胞と同様に多能性を持った細胞にES細胞(胚性幹細胞)があります。ES細胞は不妊治療などであまった受精卵の胚の状態から取り出したものです。
※胚とは受精卵が分裂を始めてから胎児の形が整うまでの段階をさします。ES細胞は受精から5日目くらいの胚(胚盤胞)から取り出されます。
どちらも多能性幹細胞ではありますが、ES細胞は受精卵から取り出すため倫理的な問題があるのに対し、iPS細胞は通常の細胞から作り出すため倫理的なハードルは低いです。また自身の細胞から作り出したものならば拒絶反応も起きにくい特徴があります。
今回製造承認されたものはアムシェプリ®とリハート®の2つです。この2つについて現時点で分かっていることを紹介します。
・アムシェプリ®について
アムシェプリ®の有効成分はラグネプロセルといい、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞です。これはパーキンソン病治療薬であり、効能又は効果以下のようになっています。
「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」
つまり既存のパーキンソン病治療をしても効果が得られない場合に、他人由来のiPS細胞によるドパミン神経の前駆体を投与します。
パーキンソン病はドパミン神経の変性により脳内でのドパミン量が減少してしまい、運動機能障害を生じます。これに対しiPS細胞によるドパミン神経前駆細胞を投与し、これがドパミン神経になり、ドパミンの分泌量が正常に近づくわけですね。
用法及び用量は以下のようになっています。
「通常、成人には、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として片側あたり5.4×106個を目標として、定位脳手術により、両側の被殻に移植する。頭蓋骨の小孔1箇所を通る3つの投与経路から、1投与経路あたり約1.8×106個を1~2mm間隔で6~9箇所に分けて移植する。」
定位脳手術とは頭蓋骨に小さな穴をあけ、そこから電極を埋め込んだり、目標とする組織を熱で凝固させたり、放射線を照射する侵襲度の少ない手術です。これにより脳内にiPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を移植するわけですね。
・リハート®について
リハート®の有効成分はラグネプロセルといい、非自己性iPS細胞由来心筋細胞シートです。他人由来のiPS細胞による心筋細胞を薄いシート状にしたものです。これは重度心不全の治療薬であり、効能又は効果は以下のようになっています。
「虚血性心筋症に伴う重症心不全(ただし、標準的な薬物治療及び外科的治療が困難な患者に限る)」
つまり狭心症や心筋梗塞により心筋が損傷し、ポンプ機能が著しく低下してしまっている状態です。iPS細胞で心筋を再生することで失われたポンプ機能を蘇らせるわけですね。
用法及び用量は以下のようになっています。
「1回、4枚又は8枚を左室前壁及び側壁の心外膜側に貼付する。」
左心室こそが全身に血液を送り出すのに最も重要であり、重症心不全は左心室の収縮力が低下し、ポンプ機能が低下しています。そのため左心室に対してiPS細胞を用い心筋細胞を再生させるわけですね。
今回の記事でiPS細胞とは何か、現在製造承認されているiPS細胞治療薬はどのようなものか理解できたでしょうか?
どちらもまだ添付文書もできていませんし、実際に効果がどの程度あるかもまだ分かりません。またどちらも自己の細胞を使っているわけではないので拒絶反応が起きる可能性もあります。しかしiPS細胞を用いた再生医療が現実的になってきました。個人的にはヒトは寿命で死ぬものであり、無理な延命は必要ないと思っています。しかし認知症やパーキンソン病など、QOLを低下させる病気は無くなって欲しいと思います。再生医療が発達し、最後の瞬間まで自分の望む人生を送れるようになればこれ以上嬉しいことはありません。アムシェプリ®、リハート®は早ければ今年の夏ごろから販売される見込みです。再生医療により今後の医療がどのように変わっていくか見届けましょう。
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