うっ滞性皮膚炎について 

疾病・病態

先日平素より当薬局を利用している患者のお薬手帳に、以下のような記載が追加されていました。

Rp(1)アレロック錠(5) 2錠
    1日2回 朝夕食後 30日分
Rp(2)シナール配合錠 3錠
    1日3回 毎食後 30日分
Rp(3)アンテベート軟膏 25g
    ヒルドイドソフト軟膏 25g
    混合 1日2回 下肢に塗布

これを見てたんに乾燥肌による脚の痒みだと思い聞いてみました。実際はうっ滞性皮膚炎で治療を受けているとの事でした。うっ滞性皮膚炎の患者にあったのはほとんどありませんでした。今回の記事でうっ滞性皮膚炎について紹介したいと思います。


うっ滞性皮膚炎とは下肢の静脈の流れが悪くなることで皮膚の痒み、硬化、色素沈着などを生じる疾患です。まずはこれらの症状が起きる原因とメカニズムについて理解しましょう。

・うっ滞性皮膚炎の症状とそのメカニズム
冒頭で説明したように、主に下肢の静脈の流れが悪くなることでうっ滞が生じ、静脈血が血管外に流出します。その結果、どのような症状を起こすか見てみましょう。

うっ滞により血管から水分やタンパク質などが漏出します。 
下肢の浮腫


漏出するタンパク質にはフィブリンが含まれています。フィブリンは網目構造を形成し、白血球の遊走、接着、活性化の足場となることで、白血球が炎症部位に集合し、さらに炎症性サイトカインを放出します。
炎症、痒み

また炎症が慢性的に続くと、炎症⇒修復を繰り返すことで皮膚の線維化が生じます。
皮膚の硬化

赤血球が漏出すると赤血球中に含まれるヘモグロビンが分解され、ヘモジデリンが生成されます。ヘモジデリンが沈着することにより、皮膚が色素沈着を起こします。
皮膚の色素沈着

静脈のうっ滞により皮膚組織へ酸素、栄養素の供給が低下し、皮膚は乾燥しやすくなり、ターンオーバーも抑制されます。
バリア能の低下

バリア能の低下により感染症を起こしやすくなり、また血流不全により酸素や栄養素の供給が低下しているため、感染部位が壊死を起こすことがあります。
皮膚の壊死、潰瘍の形成
 
いずれも 血液のうっ滞⇒血液中の水分、タンパク質の漏出 によって生じていることが分かりますね。血液の血管外への漏出が原因なので、血管のある足首やふくらはぎに生じやすいです。


・うっ滞性皮膚炎の原因
ここまで書いてきたようにうっ滞性皮膚炎は静脈のうっ滞が原因で生じます。この静脈の血流不全を起こす原因はどのようなものがあるか見てみましょう。

 ・下肢静脈瘤
うっ滞性皮膚炎の最も多い原因です。静脈血は心臓に戻るため、ふくらはぎの筋肉が収縮して静脈血を押し上げています。また静脈には静脈弁が存在し血液が逆流しないようになっています。しかしふくらはぎの筋力の低下や、静脈弁の機能が低下すると、静脈がうっ滞してしまいます。脚の静脈が瘤のように膨らむのが特徴です。


 深部静脈血栓症
体の深部の静脈内に血栓ができる疾患です。血栓があると血流が悪くなり、また血栓が弁を損傷させ、うっ滞性皮膚炎の原因となることがあります。


 ・うっ血性心不全
心臓のポンプ能の低下により慢性的な血流不全になりやすい状態にあります。そのため下肢で浮腫が起きやすく、うっ滞性皮膚炎を発症することがあります。下肢静脈瘤が原因の場合は片脚に症状が起こることが多いですが、うっ血性心不全の場合は両脚にことが多いです。

その他に長時間の立ち仕事、長時間の座位、肥満などもうっ滞性皮膚炎の原因となることがあります。

・うっ滞性皮膚炎の治療
うっ滞性皮膚炎の治療の基本は弾性ストッキングによる圧迫療法です弾性ストッキングの圧力は足首が最も強く、上に向かって徐々に弱くなるようになっています。これにより下肢にたまった血液を上に押し出し、静脈血が心臓に帰るのを補助する働きがあります。

また下肢静脈瘤など原因疾患がある場合はその治療を行います。下肢静脈瘤では血管内焼灼術で原因になっている静脈を熱で焼灼し閉塞させることもあります。

薬物療法は対症療法がメインです。主に外用ステロイド、保湿剤、抗アレルギー剤などが用いられます。また浮腫が酷い場合は利尿剤を用いることもあります。

冒頭で紹介した患者さんにはシナール®配合錠が処方されていました。シナール®配合錠は血管を強化するために処方されます。
血管壁の主要構成成分はコラーゲンです。コラーゲンの合成には補酵素としてビタミンCが必要になります。そのためビタミンCを補充することでコラーゲンの合成が促進され、血管壁が強化されるわけですね。
※ビタミンCが極端に不足すると血管や骨に異常が起きる壊血病を起こすことがあります。
その他にもビタミンCは抗酸化作用を有するため活性酸素を除去することで血管内皮細胞を保護し、またメラニン色素を還元することで色素沈着を軽減します。そのためビタミンC剤のシナール®配合錠が用いられるわけですね。


今回の記事でうっ滞性皮膚炎について理解できたでしょうか?
お薬手帳を見ただけでは乾燥肌なのか、うっ滞性皮膚炎なのかは分かりません。やはり患者とよく話し、情報を得ることが大切ですね。もしうっ滞性皮膚炎の原因が深部静脈血栓症ならラロキシフェンやバゼドキシフェンは禁忌になりますし、下肢静脈瘤の場合は添付文書上は禁忌になっている薬はありませんが、経口避妊薬などのホルモン剤はなるべく避けるべきでしょう。今後もなるべく多くの情報を聞いて、薬歴に残すことで適切な薬物治療に役立てたいと思います。

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