※以前に書いた記事が消えてしまったので再アップします。既に読んだ方はご了承ください。
久しぶりに疾患の解説をしたいと思います。当ブログではなるべく幅広い知識を得るために活用してほしいので、あまり目立たない疾患を選ぶことにしました。今回は骨軟化症についての解説にします。骨粗鬆症はみんなそれなりに勉強していますが、骨軟化症についてはあまり勉強していない人が多いのではと思います。そのため骨粗鬆症と比べながら見ていきましょう。
骨軟化症は骨粗鬆症と同様に骨の脆弱化を起こす疾患です。骨粗鬆症は骨量そのものが減少し骨が脆弱化するのに対し、骨軟化症は骨の石灰化が障害されることにより骨の脆弱化を生じます。
まず骨の形成についておさらいしておきましょう。
骨は骨芽細胞が骨基質を産生することにより形成します。この時の骨基質のことを類骨といいます。類骨はまだ柔らかくてグニャグニャな骨と想像して下さい。この類骨に骨塩と呼ばれるカルシウムやリンが沈着し石灰化します。石灰化した骨は強度をもった強い骨になるわけです。骨軟化症ではこの石灰化の障害により、骨が強度を持つことが出来ずに脆弱化するわけです。
⇒骨量は正常だが骨塩が少なく、骨の脆弱化
※骨粗鬆症は骨代謝の異常により、骨吸収が骨形成を上回ります。その結果、類骨、骨塩共に生成が障害されます。
⇒骨組成は正常だが、骨量そのものが少なくなる(骨密度の低下)
骨は子供の頃には骨の端に骨端線(別名:成長軟骨)と呼ばれる軟骨があり、これが増殖することで骨が成長していきます。
⇒身長が伸びたりと体が大きくなる骨端線はいずれ閉鎖し、骨の成長が止まることになります。
この骨端線の閉鎖後(つまり成人)に発症したものを一般的に骨軟化症といい、閉鎖前(つまり小児)に発症したものをくる病といいます。
骨軟化症では骨は成長しきっているので、症状としては骨痛や骨の脆弱化による歩行障害などがあります。くる病では骨の成長段階で骨障害が起きるので低身長、下肢の変形(O脚、X脚)、虫歯、頭蓋骨が柔らかくなる(押したら凹む)などの症状があります。
病態については分かりました。次はその原因について見てみましょう。
・ビタミンDの不足
ビタミンDは腸管からカルシウム、リンの吸収を高め、骨形成および骨の石灰化を促進します。このビタミンDが不足することによって石灰化が障害を受けることになります。ビタミンDの不足の原因としては日照不足、肝臓・腎臓の障害(ビタミンDは肝臓、腎臓で活性化される)、薬剤(ステロイドなど)があります。
なおビタミンDが通常量あっても上手く機能せず骨軟化症になるものをビタミンD依存性くる病・骨軟化症といいます(難病指定です)。これは遺伝によるもので1型と2型に分かれます。
1型:腎臓でのビタミンDの活性化ができない。
(ビタミンDは腎臓で1α位が、肝臓で25位が水酸化され活性化される)
2型:ビタミンD受容体が遺伝子異常で正常に働かない
・FGF23による低リン血症
FGF23とは線維芽細胞増殖因子23といい、骨細胞で産生されます。近位尿細管でリン輸送体の産生を抑制し、その結果リンの再吸収が抑制、また腸管でのリンの吸収を抑制し、血中リン濃度を低下させます。血中リン濃度が低下することにより骨の石灰化が抑制され骨が脆弱化します。遺伝子異常により先天的にFGF23が過剰に産生されることがあり、最も多いのがX染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症です。後天的異常でFGF23が過剰になることもあります。腫瘍が原因でFGF23が過剰になることもあり、これを腫瘍性くる病・骨軟化症といいます。
・ファンコーニ症候群
ファンコーニ症候群とは近位尿細管の機能低下を起こす疾患です。近位尿細管ではブドウ糖、リン、重炭酸イオン、カリウム、アミノ酸などが再吸収されていますが、これらが再吸収されなくなり尿中に過剰に排出されることになります。リンの再吸収に障害が起きることによって骨軟化症を起こすことになります。その他にもアミノ酸の再吸収阻害による発達障害、重炭酸イオンの再吸収阻害によるアシドーシス、ナトリウムの再吸収阻害による脱水を起こします。
骨軟化症の治療薬についてみてみましょう。
薬剤性や腫瘍性の場合は原因となる薬剤や腫瘍の除去を行います。
それ以外の骨軟化症・くる病の治療薬は活性化ビタミンD3製剤、リン製剤、カルシウム製剤などです。
※活性化ビタミンD3製剤はアルファカルシドールやカルシトリオールは骨軟化症に適当がありますが、エルデカルシトール(エディロール®)は骨粗鬆症のみです。
骨粗鬆症治療薬は数多くありますが、骨軟化症においては治療薬の種類が限られています。しかし2019年11月に骨軟化症に対する初の生物学的製剤がでました。
それがクリースビータ皮下注(一般名:ブロスマブ)です。
ブロスマブはFGF23に対するヒト型IgG1モノクローナル抗体であり、FGF23の過剰な作用を阻害します。クリースビータ皮下注の適応は「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」と「腫瘍性骨軟化症」です。先の説明で書いたようにFGF23がリンの吸収を低下させるので、これを阻害することにより骨の石灰化が促進されることが分かりますね。骨軟化症治療薬は少なかったですが、ようやく治療の幅が少し広がりました。これを機にもっと沢山の治療法が出てきて欲しいですね。クリースビータ皮下注については別の記事でまた詳しく解説したいと思います。
にほんブログ村
記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。
コメント