老人ホームの薬を管理している関係で、医師、看護師、ケアマネージャーらと共に入居者のカンファレンスを定期開催しています。腎機能が悪くて薬の量を調整したり、薬剤をカットすることは何度かありましたが、今回肝機能により処方内容を見直す事例がありました。肝臓は腎臓に比べて評価が難しいことが多いですが、FIB4-indexを用いて肝機能が悪いことを見つけられました。今回はこのFIB4-indexについて紹介します。
・事例の紹介
眠れないと訴えている患者さん(89歳女性)。実際に不眠が続いているようなので、睡眠導入剤を使うことになる。初めてなのでゾルピデム(5)を1錠、就寝前につかって2週間で様子見しようとのことになる。
ゾルピデムは超短時間型であり、翌日への持ち越しがほとんどありません。高齢者にも比較的使いやすいと言えるでしょう。念のため採血データを確認しました。この方は中度腎障害ですが、年齢相応の数値であり、またほとんどの睡眠薬、睡眠導入剤は腎機能による用量調節はありません。
腎機能は問題なさそうなので、次に肝機能を確認しました。
・肝機能の検査値
現在血液検査で肝機能の評価に用いられるものにはAST、ALT、γ-GTP、ALPなどがあります。
さて今回の患者さんの採血データを見てみましょう。
年齢89歳 AST:28 ALT:30 γ₋GTP:20
一見すると肝機能にどこも以上は見られません。しかしこの年齢にしてはAST、ALTが高いと思ったので、念のためFIB-4 indexを計算してみました。
・FIB-4 indexについて
FIB-4 indexとは肝臓の線維化の進行具合を示す指標です。数値が高いほど肝細胞の線維化が進行しており、慢性肝炎が進行していたり、肝硬変や肝癌に進行しているリスクがあるといえます。
FIB-4 indexは年齢、AST、ALT、血小板数の4つの項目で計算でき、計算式は以下のようになります。
手計算でできない事もないですが、実務で使うには計算サイトをブックマークしておきましょう。
⇒ EAファーマ提供 FIB-4 index計算サイト
通常はASTより僅かにALTが高いです。肝細胞の線維化が進行するとミトコンドリア内のASTがより多く血中に放出されるためASTは上昇します。一方ALTは肝細胞の細胞質に多く存在するため、肝細胞の進行によりALTの産生量が減り、ALTは低下します。それらを補正するために分子にAST、分母にALTをおくことで線維化の進行をより正確に反映します。
また肝硬変が進むと門脈から肝臓へ血液が流れにくくなり、門脈圧が亢進します。その結果肝臓に流れなかった血液が脾臓へと流れ込みます。脾臓は腫大・機能亢進し、大量の血小板が破壊されるようになります。また骨髄で巨核球の増加・成熟を促進し、血小板数を増加させるトロンボポエチンは肝臓で作られます。このように肝硬変の進行度と血小板数は密接に関係しています。
以上のことから年齢の他にAST、ALT、血小板数を組み合わせることで肝臓の線維化の進行具合が測れるわけです。
実際にこの患者さんのFIB-4 indexはどうだったか見てみましょう(この方の血小板数は14.2です)。計算サイトに年齢、AST、ALT、血小板数を入力した結果は以下のようになりました。
FIB-4 indexは 1.3未満は低値(線維化のリスクは低い)、1.3~2.67未満は中間値(線維化が進行している可能性がある)、2.67以上は高値(肝硬変、または近い状態まで線維化している)となります。この患者さんは高値です。
・今回の対応について
この患者さんのFIB-4 indexは高値であり、肝硬変になっている可能性があります。
ゾルピデムは重篤な肝障害には禁忌です。
重篤な肝障害は一般的にChild-Pugh分類でGrade Cに相当と考えられます。
しかしChild-Pugh分類は肝性脳症や腹水など、医師の主観が必要とされます。老人ホームでのカンファレンスで話あうだけでは正確な判断は困難です。このようなケースで採血データだけで肝機能をある程度測れるFIB-4 indexは有効と言えるでしょう。
今回はゾルピデム(5)の代わりにエスゾピクロン(1)で様子を見ることにしました。エスゾピクロンもCYP3A4で代謝され、肝機能障害では血中濃度が上昇しますが、禁忌にはなっていません。また半減期も比較的短く、翌日への持ち越しも少ないと言えるでしょう。
今回の記事でFIB-4 indexによる肝機能評価は理解できたでしょうか?
FIB-4 indexは肝細胞の線維化を評価しますが、肝硬変の確定診断ではありません。肝臓の容積は肝血流量は加齢ともに徐々に減少します。またASTは肝細胞だけではなく、骨格筋や心筋にも含まれます。そのため肝臓の容積が縮小したり、筋肉量の低下した高齢者ではAST、ALTは低くなる傾向にあります。そのため肝機能の評価は医師と連携を図り慎重に行う必要があります。しかし肝機能が悪そうなことを事前に察知し、影響の少ない薬を選ぶことは可能です。患者さんの採血データがあれば是非FIB-4 indexを確認してみて下さい。処方内容を見直すきっかけがあるかもしれません。
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