前回に引き続き新薬の記事です。2025年6月30日に新しい経口避妊薬のスリンダ®錠28が発売されました。従来の経口避妊薬とは少し違うだけですが、副作用も低減し非常に使いやすくなっています。今回の記事で排卵のメカニズムとスリンダ®錠28がどのように働くかを紹介します。是非ご覧になって下さい。
過去に何度も紹介していますが、まず初めに性ホルモンの分泌調節機構についておさらいしましょう。視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LHRH)が分泌され、これにより下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。

卵胞は卵巣で作られますが、卵胞の最初の段階を原始卵胞と言います。この原始卵胞が卵胞刺激ホルモン(FSH)によってグラーフ卵胞(成熟卵胞)になり、グラーフ卵胞は黄体形成ホルモン(LH)によって卵子を放出します。これが排卵です。

この卵胞からエストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌され、黄体になるプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されるわけです。

エストロゲンは子宮内膜を増殖し、LHサージ(大量のLHが分泌されること)の引き金になります。
プロゲステロンは増殖した子宮内膜を受精卵が着床しやすいようにします。またプロゲステロンは体温を上げるので、排卵後は基礎体温が上昇します。

エストロゲンの量が増えると、その分泌を抑えるように視床下部にnegative feedbackがかかり、LHRHの分泌が抑制され、その結果FSH、LHの分泌が抑制され、さらにはエストロゲン、プロゲステロンの分泌が抑制されるます。
ここまでが性ホルモンの分泌機構です。
・スリンダ®錠28について
スリンダ®錠28の有効成分はドロスピレノンです。これは合成黄体ホルモン(プロゲスチン)です。
プロゲスチンを投与することによって視床下部にnegative feedbackがかかり、LHRHの分泌が抑制され、その結果FSH、LHの分泌が抑制されます。これらの作用により卵胞が成熟されなくなります。
卵胞が成熟しないことによりエストロゲンの分泌も抑制されます。エストロゲンの分泌が抑制されると、子宮内膜の増殖ができなくなり受精卵の着床ができなくなります。
また排卵はLHの大量分泌(LHサージ)により生じるので、LHの分泌阻害により排卵が抑制されます。
エストロゲンが子宮内膜を増殖させるのに対し、黄体ホルモンは子宮内膜の増殖を抑制します。つまりプロゲスチンであるドロスピレノンは子宮内膜の増殖を直接抑制します。
これらの作用によってスリンダ®錠28は避妊に有効なことが分かります。
経口避妊薬(Oral Contraceptives:OC または低用量ピル)はこれまではエストロゲンとプロゲステロンの合剤である混合型経口避妊薬(COC)が用いられてきました。これに対してスリンダ®錠28の有効成分はドロスピレノンのみ、つまりプロゲスチンのみです。黄体ホルモンのみの経口避妊薬はスリンダ®錠28が国内初となります。
※ノルレボ®錠はプロゲスチンであるレボノルゲストレルの単剤ですが、これは緊急避妊薬なので経口避妊薬には該当しません。
※経口避妊薬は実薬に含まれるホルモンの量、プロゲスチンの種類によって分類されます。

スリンダ®錠28は一相生の第4世代の経口避妊薬になりますね。
・用法、用量について
用法・用量は以下のようになっています。
「1日1錠を毎日一定の時刻に白色錠から開始し、指定された順番に従い28日間連続経口投与する。以上28日間を投与1周期とし、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返す。」
まず初めに覚えておかなくてはならないのが、経口避妊薬には休薬期間が存在します。
経口避妊薬の服期間中はnegative feedbackの影響で卵巣はほとんど活動しません。しかし休薬によってLHRH、FSH、LHが分泌され、再び卵胞は活動を再開します。卵巣の機能を正常に保つために休薬期間が設けられています。
また子宮内膜はエストロゲンにより増殖し、プロゲステロンにより柔らかくなり、着床の準備を整えます。エストロゲンとプロゲステロンの低下が低下すると子宮内膜が剥がれ落ち、膣から血液と一緒に排出されます。これを消退出血といいます。経口避妊薬は休薬期間によりエストロゲンとプロゲステロンが低下するため消退出血を生じます。消退出血が起こることによって、妊娠していないことが確認できます。
スリンダ®錠28は実薬の白色錠の他にプラセボの淡黄色錠でなっており、毎日服用します。
淡黄色のプラセボ薬を服用している期間が実際には休薬期間になります。
また前述したように、スリンダ®錠28の有効成分はドロスピレノンのみでありエストロゲンは含まれません。エストロゲンが含まれないため子宮内膜の増殖が抑えられ、出血量が少なくてすみます。
・副作用について
副作用は以下のようなものになります。
不正性器出血は89.9%と非常に高いですが、作用機序からすれば当然でしょう。不正性器出血とは通常の月経周期以外の時期に性器出血があることです。外部から性ホルモンを摂取するため、ホルモンバランスが崩れ、子宮内膜が剥がれ落ち、出血につながります。
その他の副作用で頭痛や悪心、乳房不快感等がありますが、これもどの経口避妊薬でも共通した副作用です。
・禁忌について
禁忌は以下のようになっています。
ここにスリンダ®錠28の最大の特徴があります。
他の経口避妊薬はいずれも血栓に関連する疾患に罹患している、または既往歴のある患者には禁忌になっています。
これは混合型経口避妊薬(COC)に含まれるエストロゲン誘導体が含まれているためです。
肝臓では血液凝固因子が作られており、肝臓でのエストロゲン受容体刺激作用は血液凝固因子の産生を促進し、血栓を生じやすくなります。そのため血栓症を起こすリスクがあります。
しかしスリンダ®錠28にはエストロゲン誘導体が含まれていないため、禁忌に血栓症に関連した項目がありません。そのためCOCに比べて格段に使いやすくなったと言えるでしょう。
・その他の特徴
ドロスピレノンはプロゲスチンですが、スピロノラクトン誘導体でもあります。そのため利尿作用があり、さらに弱いですが抗アンドロゲン作用もあります。
スピロノラクトンと同様の作用をしめすので高カリウム血症のリスクがある一方、利尿作用により浮腫の軽減につながります。
また抗アンドロゲン作用は皮脂の分泌を抑制するため、本来であればざ瘡(ニキビ)を改善するはずです。しかしスリンダ®錠28ではざ瘡の副作用が報告されています。これは服用初期にみられ、ホルモンバランスが乱れることが原因と言われています。
今回の記事でスリンダ®錠28について理解できたでしょうか?
経口避妊薬はこれまでも使用されていましたが、副作用の多くがエストロゲンに由来するものです。しかしプロゲスチンのみのスリンダ®錠28が登場することで、副作用や禁忌が格段に減り使いやすくなりました。今後はプロゲスチン単剤の経口避妊薬が増えていくことでしょう。
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