昨日父が徐脈で気分が悪くなり緊急入院しました。幸い意識もしっかりしているし、歩くこともできます。診断の結果、完全房室ブロックでした。今後はペースメーカーの植え込みが必須となります。自身の身内に降りかかった病気なので、今回の記事を利用して詳しく学ぼうと思います。薬とは関係ない知識がほとんどですが、病態について詳しく理解するきっかけになればと思います。
房室ブロックについて学ぶ前に、心筋はどのように収縮しているか確認しましょう。
心筋が収縮するは洞結節で興奮が生じ、それが心房や心室に伝わる必要があります。
①最初に右心房に存在する洞結節で自発的な興奮(自発的活動電位)が起き、これが心房全体に伝わることで心房が収縮します。
②洞結節で生じた興奮は房室結節に伝導します。
③房室結節に伝わった興奮は、房室結節から左右に分岐した線維の束であるヒス束によって心室に伝導します。
④ヒス束から分岐した線維が細かく分岐し、心室壁に広がったプルキンエ線維により、心室全体に興奮が伝導し、心室が収縮します。
ここまでが心筋への刺激伝導系です。
このような刺激伝導系で心筋の電気的変化が生じますが、この心筋の電気的変化を皮膚に装着した電極から検出し、波形として記録したものが心電図です。
P波は心房の興奮を表し、PQ時間(またはPR時間)は房室間の興奮の伝導時間を表します。QRSは心室全体に興奮が広がっている時間を表し、T波は心室の興奮が消退していく際に生じます。QT時間は心室の興奮の開始から興奮の消退までの時間を表します。
・房室ブロックについて
房室ブロックとは心房と心室の間で何らかの原因により、電気刺激が上手く伝わらなくなってしまう状態です(心房が収縮しても心室が収縮せず、脈がなくなってしまいます)。通常PR時間が延長します。
房室ブロックは重症度により1度から3度に分けられます。
房室ブロックは基本的に徐脈、心拍出量の低下につながるため以下のような症状を生じます。
めまい、立ち眩み:血圧の低下、脳への血流の低下により生じる。
疲労感・倦怠感:全身への血液循環が悪くなり、酸素が行きわたらなくなるため生じる。
動悸:心房と心室の収縮の不調和により生じる。
失神:心臓から脳への血流量が急激に減少するため生じる(アダムス・ストークス発作)。
その他:浮腫、胸痛などが生じることがある。
1度の場合はほとんど症状が見られません。
2度になるとめまい、立ち眩み、疲労感などの症状が出ます。
3度になると徐脈を生じるようになり、めまい、立ち眩み、疲労感の他に酷い時は失神を起こすこともあります。
・房室ブロックの治療について
房室ブロックのための薬物療法は基本的に存在しません。緊急時の一時的な対応や、ペースメーカー植え込み手術までの繋ぎとして薬物治療が用いられることはあります。
イソプレナリンはアダムス・ストークス症候群の発作防止に用いられます。アトロピンは心房と心室の間で刺激伝導に異常が生じているケースでは有効な場合があります(心房-心室間にはムスカリン受容体が存在し、刺激伝導を抑制している)。
ドパミンは徐脈が重度の場合に用いられることがあります。
また抗不整脈薬が原因で房室ブロックになっているケースでは、抗不整脈の使用を中止します。
※Naチャネル遮断薬(Ⅰa群)、β遮断薬、Kチャネル遮断薬、Ca拮抗薬、ジギタリス製剤はいずれも心房-心室間の刺激伝導を抑制します。
房室ブロックの治療は基本的にペースメーカー植え込み治療です。
(1度や症状のない2度の場合は経過観察になります)
局所麻酔を行い、ペースメーカー本体を胸の皮下に埋め込みます。その後リードと呼ばれる細い電線を鎖骨下静脈を通して心臓に挿入します。最後にリードをペースメーカー本体と接続します。
ペースメーカー本体はリードを介して心臓のリズムて監視します。リズムを調節する必要があるときには、電気信号を送ることで心臓のリズムを調整します。
現在はリードの存在しないリードレスペースメーカーも存在します。これはカテーテルによってリードレスペースメーカー本体を右心室に留置させます。電池の寿命は10年少々であり、電池が切れると新しいリードレスペースメーカーを追加で留置させます。
従来の植え込み式ペースメーカーに比べて以下のような利点があります。
・本体を皮下に植え込まないので胸部に傷が残らない
・感染症のリスクが低い(リード線がないため)
・侵襲が少ない(カテーテルを入れる際の脚の付け根の穿刺のみ)ため、術後の回復が早い
・手術時間が短い
なおペースメーカーには恒久的ペースメーカーと一時的ペースメーカーがあります。最終的には恒久的ペースメーカーを使うことになりますが、恒久的なペースメーカーの手術までの期間や一時的な不整脈の治療には一時的ペースメーカーが用いられます。
一時的ペースメーカーは主に体外式であり、リードは体内に挿入されますが本体は体外にあります。
今回の記事で房室ブロックについて理解できたでしょうか?
父はまだ入院しておりMRIを行った後、ペースメーカー植え込み手術の日程を決めます。ペースメーカーを装着すれば、携帯電話等の電子機器を植え込み部位から15cm以上離すなどの注意点はありますが、通常通りの日常生活を送れます。早く退院して楽しい毎日を送って欲しいです。
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