先日老人ホームでのカンファレンスに参加したのですが、ある患者さんの尿酸値が元々は7.5程度だったのに8.0と高くなっていました。この患者さんはフェブキソスタット10㎎を1日1回服用してます。老人ホームなので食事はキチンと管理されており、食事の影響は少ないはずです。他の検査値を確認して原因が分かりました。この患者さんのeGFRは39であり、ずっと40前後で推移しています。つまりこの患者さんは慢性腎臓病です。そのため尿酸値が上がってきたのでしょう。そのため処方内容をどうするか話し合いました。
今回の記事で慢性腎臓病と高尿酸血症の関係について解説します。また治療薬の特徴についても紹介しますので、日々の業務にも役立ててくれると幸いです。
まず初めに慢性腎臓病について確認しましょう。
慢性腎臓病(以下CKD)は様々な疾患や加齢が原因となって、腎機能が慢性的に低下し続けている全ての腎臓病の総称です。
診断基準としては下記の①または②のいずれか、またはその両方が3ヶ月以上続いた状態です。
①尿検査、血液検査、画像診断などで腎障害が明らかである
(特に尿タンパク/尿クレアチニン>0.15以上、尿アルブミン/尿クレアチニン>30)
②GFRが60(mL/min/1.73m2)未満
CKDの重症度は日本腎臓病学会がCKD診療ガイド2012を発表しています。
CKDの重症度を原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)、尿タンパク(アルブミン尿:A)によって分類します。
※タンパク尿区分では糖尿病ではアルブミン尿、それ以外では尿タンパクを用います。
尿タンパクについてはこちらの記事をご覧ください
リスクは緑⇒黄色⇒オレンジ⇒赤の順に高くなり、赤に近づくにつれ、末期腎不全・心血管疾患発症、死亡のリスクが高くなります。
例えば原因疾患が糖尿病でGFRが50、尿アルブミン/Cr比が200の場合は、糖尿病G3aA2と表記します。
・慢性腎臓病と高尿酸血症の関係
尿酸は体外から摂取されたプリン体や、体内のプリン体が肝臓で代謝されることで産生されます。産生された尿酸の70~80%は腎臓で尿中に排泄されることになります(残りは主に腸から排泄されます)。
このように尿酸は産生と排泄により体内の尿酸は常に一定の量に保たれており、これを尿酸プールといいます。
尿酸は糸球体でろ過された後、近位尿細管において再吸収および分泌が行われています。CKDになると尿酸の分泌が低下してしまい、高尿酸血症になりやすくなります。
また過去に何度も紹介したように腎臓には非常に細い腎血管が沢山存在しています。
血中尿酸値が高くなると尿細管内で尿酸結晶が沈着し腎血管が閉塞したり、腎血管で炎症を生じることで腎虚血の原因になり、腎機能が悪化します。
このようにCKDと高尿酸血症は密接に関係しており、CKDが高尿酸血症を起こしやすくなり、高尿酸血症がCKDを悪化させるという悪循環に陥ることになります。そのためCKDでの尿酸値のコントロールは重要であるといえます。
ここまででCKDと高尿酸血症の関係については分かったでしょうか?それではCKDにおける高尿酸血症の治療薬について見てみましょう。
・尿酸産生抑制薬
CKDにおける高尿酸血症患者にてアロプリノールが腎機能低下の防止に有効であるという複数報告があり、これまで最も用いられてきたのはアロプリノールです。
しかしアロプリノールは腎不全患者では重篤な副作用の頻度が高いことが報告されています。アロプリノールは全身のあらゆる臓器で代謝され、活性代謝物であるオキシプリノールになります。オキシプリノールは腎排泄型であり、半減期が長く体内に蓄積されやすくなります。そのため腎機能障害ではオキシプリノールの血中濃度が上昇しやすく、副作用が発現しやすいとされています。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」では腎障害におけるアロプリノールの投与量は以下のようになっています。
一方、非プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるフェブキソスタット、トピロキソスタットはいずれも肝代謝によりグルクロン酸抱合され、尿中及び糞中に約50%ずつ排泄されます。そのため軽度~中等度腎機能障害では用量調節をすることなく使用できます。
ただしフェブキソスタットは軽度、中等度、重度腎機能障害でいずれもAUCが上昇することが確認されています。そのため少量から慎重に投与する必要があります。
一方トピロキスタットでは軽度、中等度腎機能障害では腎機能正常の場合と比較して有意な差は認められません。
以上のことから尿酸産生抑制薬ではトピロキスタットが最も使いやすいと言えるでしょう。
・尿酸排泄促進薬
CKDステージG3a程度までの高尿酸血症にはベンズブロマロン、ドチヌラドなどで尿酸値をコントロールすることは可能ですが、CKDステージG3b~G4では尿酸排泄促進薬の使用は避けるべきとされています。腎機能障害では尿酸の排泄機能が低下しているため高尿酸血症になりますが、尿酸排泄促進薬の使用により残存尿細管の負荷が増加が増すためとされています。
※ただし尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬の少量併用は有効であるといわれています。
尿酸排泄促進薬は近位尿細管での尿酸の再吸収を阻害することで、尿酸低下効果を発揮します。重度腎機能障害では尿を生成する能力自体が低下しているので、効果が期待できません。そのため重度腎機能障害患者には用いません。

・尿アルカリ化薬
尿アルカリ化薬はウラリット®配合錠、ウラリット®‐U配合散があります。
尿をアルカリ化することで尿酸の溶解度が上昇し、尿酸結晶の析出が抑制されます。尿酸産生抑制薬で効果不十分の時は尿アルカリ化薬の併用が考慮されます。
ただし重度腎障害時には注意が必要です。ウラリット®配合錠、ウラリット®‐U配合散の有効成分はクエン酸カリウムとクエン酸ナトリウム水和物です。クエン酸カリウムが含有されているため、血清カリウム値が上昇する原因になります。重度腎障害ではカリウムの排泄が低下し、血清カリウム値が高くなる傾向にあるので、高カリウム血症に注意しなくてはなりません。
今回の記事で慢性腎臓病と高尿酸血症の関係、高尿酸血症の治療薬について分かったでしょうか?
冒頭で紹介した患者さんはフェブキソスタット10㎎を使用していたので、20㎎に増量することにしました。前述したように中等度腎機能障害ではフェブキソスタットは用量の調節が不要ですからね。今後血液検査をして尿酸値が下がっていればいいです。期待した結果が得られなかった場合は、尿酸排泄促進薬や尿アルカリ化薬などの併用も考慮して話し合っていくつもりです。
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