先日ウルソ®錠を服用していた患者さんに、初めてアミノレバンEN®配合散が処方されました。この患者さんは慢性肝不全でしたが、アミノレバンEN®配合散が処方されたということは肝性脳症を生じていることが分かります。話している感じでは全くそんな気配はなく気付きませんでした。今回の記事では肝性脳症について解説します。発症のメカニズムを学んで、治療内容を理解して頂けると嬉しいです。
まず肝性脳症の起こるメカニズムについて学びます。
そのために肝性脳症の原因となるアンモニアは、体内でどのように処理されているか見ていきましょう。
食事により摂取されたタンパク質はアミノ酸にまで分解されます。その後アミノ酸は有機酸とアンモニアに分解されます。有機酸はエネルギー産生や糖合成に用いられます。
アンモニアは人体にとって毒性の高い物質ですが、肝臓のミトコンドリア内外に存在する尿素サイクルによって、毒性の低い尿素に変えられ、腎臓を経て尿中に排出されます。
このようにして毒性の高いアンモニアを体外に排出できているわけです。しかし高度の肝機能障害になると、この尿素サイクルが正常に働かなくなり体内にアンモニアが蓄積されてしまいます。その結果、血中アンモニア濃度が上昇し、さらに脳に達していまいます。
また通常消化管から吸収された物質は門脈を通って肝臓に運ばれ、肝臓で解毒されてから肝静脈へ排出され、その後全身に回り、脳に到達します。
しかし肝硬変が進行すると、肝臓が線維化するため門脈から肝臓に血液が流れにくくなってしまいます。すると門脈から下大静脈に迂回する血管(シャント)が作られ、肝臓で解毒されないまま脳へ移行してしまいます。これを門脈大循環シャントといいます。
このように肝機能の障害によりアンモニアが増えたり、肝臓へ血液が流れにくくなることで、下大静脈に迂回する血管が作られ、腸から吸収された物質が肝臓で解毒されないまま脳へ移行してしまい、脳への障害をもたらしてしまうことになります。これが肝性脳症です。
肝性脳症を起こすと異常行動や抑うつなどの症状が出ますが、昏睡度によってⅠ~Ⅴに分類されています。
※羽ばたき振戦 腕を伸ばす際に姿勢を維持できずに、羽ばたくような動きをすること
ここまでで肝性脳症を生じるメカニズムについては分かったでしょうか?
続いて治療について紹介します。
・タンパク質摂取制限
タンパク質がアミノ酸に分解され、アミノ酸からアンモニアが産生されます。そのためタンパク質の摂取量を控えれば、アンモニアの産生量も低下します。
・便秘の改善、腸管内の酸性化
便秘を起こすと便中のアンモニアが腸から再吸収されてしまいます。そのため便秘の改善は肝性脳症の悪化を防ぐのに有効です。
合成二糖類であるラクツロース、ラクチトールは消化管から吸収されないので、腸管内の浸透圧を上昇させ、便秘を改善します。また消化管下部で乳酸菌により有機酸に分解され、腸管内のpHを低下させます(つまり酸性にします)。
その結果アンモニアがアンモニウムイオンになり、アンモニアの吸収が抑制されます。
・抗菌薬
腸管内に存在するウレアーゼ産生菌(ヘリコバクターピロリ、プロテウス、クレブシエラなど)は尿素を分解してアンモニアを産生します。
そのためウレアーゼ産生菌を殺菌することでアンモニアの産生を抑制できます。しかし抗菌薬は消化管から吸収されないものでなくてはなりません。吸収されると全身に作用してしまいますからね。
難吸収性の抗菌薬にはカナマイシンやポリミキシンBが保険適応外で使われますが、肝性脳症に適応のある抗菌薬はリファキシミン(リフキシマ®錠)のみです。
※リファキシミンの作用機序はDNA依存性RNAポリメラーゼを阻害し、抗菌作用を示します。
・アミノ酸製剤
肝機能が低下するとFischer比が低下します
Fischer比=BCAA/AAA ※Fischer比は3~4程度が正常値です。
BCAA 分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)
AAA 芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン)
この原因は以下のようになります。
BCAAは骨格筋で代謝されてグルタミンを生成します。このグルタミンを生成する過程でアンモニアが原料として使われます。つまりアンモニアを消費するので血中アンモニア濃度も低下します。
肝臓でアンモニアの代謝ができなくなると代わりに筋肉でアンモニアを代謝することになり、結果としてBCAAが不足します。
また肝機能が低下すると肝臓でのアルブミンなどのタンパク質合成ができなくなります。すると代わりに筋肉でアルブミンが合成されます。その際にBCAAが消費されてしまいます。
AAAが本来は肝臓で代謝されますが、肝機能が低下すると代謝されずに過剰になってしまいます。
Fischer比が低くなる(つまりBCAAが少なく、AAAが多い)と脳内に移行するAAAが多くなってしまいます。AAAはセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の原料になりますが、過剰になると傾眠やうつなどの精神異常の原因となります。
つまり肝機能の低下によりBCAAが不足、AAAが過剰というようにアミノ酸バランスが崩れ、その結果脳内に移行するAAAの量が増え、精神異常を引き起こすわけです。
BCAAを補充することで骨格筋で代謝されるアンモニアの量が増え、Fischer比が高くなることで脳内に移行するAAAが減ることになり、肝性脳症を改善するのが分かりますね。
アミノレバンEN®配合散、へパンED®配合内用剤が「肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善」に有効です。どちらもBCAAを多く含むアミノ酸製剤です。
以上で肝性脳症とその治療薬について分かりましたでしょうか?
肝性脳症は慢性肝炎や肝硬変などの原因疾患がある人が何らかのきっかけで発症することが多い疾患です。便秘の改善や適度な運動(筋肉でアンモニアを代謝)は予防にもつながります。健康診断で肝機能が悪かった人は便秘の改善や運動、アルコールを控えるなどして、肝性脳症の予防にも努めましょう。
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