IgA腎症の事例紹介

疾病・病態

 

しばらく前に本人のお母さんのお願いで私がかかりつけ薬剤師として対応した患者さんが、久しぶりに来局しました。この患者さんはIgA腎症にかかりしばらく治療していましたが、最終的には定期的な検査だけでよくなり、現在は治療は終了しています。(この時はたまたま頭痛があったのでカロナール®錠(300)だけ処方されていました)IgA腎症の治療が上手くいって、今のところ予後良好の嬉しい事例です。今回はIgA腎症について解説したいと思います。

IgA腎症はなんらかの原因でIgA抗体が糸球体のメサンギウム領域に沈着することによって発症する疾患です。詳しいメカニズムは明らかになっていませんが、感染症などの何からの抗原が異常な形をしたIgAを過剰に産生します。(IgAが大量に存在する上気道や腸管粘膜で起こりやすいようです)
このIgAと抗原の免疫複合体が血流で腎臓に運ばれ、糸球体のメサンギウム領域に沈着し、炎症を生じます。

沈着した大量の免疫複合体によって生じた炎症で糸球体のバリア能が低下し、血尿と尿タンパクが持続的に生じることになります。  
血尿に関しては見た目では分かりにくいものから、ハッキリと分かるものまで様々です。感染症を起こした際にはコーラ色の血尿になるもの特徴です。 酷いケースではネフローゼ症候群を起こし、浮腫、乏尿、高脂血症を併発することもあります。

IgA腎症の治療にはステロイドが用いられることが多いです。 免疫複合体の沈着で炎症を起こしているので、この炎症をステロイドによって抑えるわけですね。 最も多いのはステロイドパルス療法です。メチルプレドニゾロンを点滴で3日間投与したのち、内服のステロイドを服用します。この患者さんはプレドニン®錠(5)を30㎎、1日おきに服用でした。これを3クール繰り返します。
※パルスとは繰り返すという意味です
その他にもパリエット®錠(10)、ボナロン錠®(35)が処方されました。ステロイドの服用で胃腸障害が起きることがあり、またステロイドの長期服用で骨密度の低下も生じます。それを防ぐためにPPIとビスホスホネート製剤が処方されているわけですね。(この患者さんは当時17歳でしたが、まさか高校生にビスホスホネート製剤の飲み方を説明するとは思ってもみませんでした。)

ステロイド以外にも扁桃腺摘出手術を行うこともあります。
IgA腎症の発端は上気道や腸管粘膜において細菌やウイルスなどの抗原が異常なIgAを産生することは先述しました。つまり抗原が増殖しやすい扁桃腺をとってしまう事によって発症の原因を取り除いてしまうわけですね。なおこの患者さんは過去に既に扁桃腺は摘出済みでした。

その他にもACE阻害薬やARBを用いることがあります。どちらも腎保護作用があり、尿タンパクを減少さるためですね。この患者さんはACE阻害薬もARBも用いませんでした。

さて治療をして1ヶ月程度したところ、夜中にお母さんから電話がかかってきました。聞くところによると娘(患者本人)の生理が2週間経ってもおさまらないとのこと。IgA腎症による血尿を生理と見間違えた可能性もありますが、おそらくプレドニン®の副作用でしょう。ステロイドホルモンなので僅かではありますが、性ホルモンにも影響し、月経異常を起こすこともあります状態としては僅かな出血が続いていて、それによる貧血などの症状も無いようでした。プレドニン®の副作用による可能性があるが、僅かな出血なのでさほど心配ない旨を伝え、受診してもらいました。結果プレドニン®の副作用だろうとのことで、特に心配ないので経過観察となりました。その後1週間ほどしておさまり、特に問題もなかったようです。

現在治療も終了し、定期的な検査を行っているだけですが、医師からは腎臓への負担を避けるためNSAIDsの使用はやめるよう言われているようです。NSAIDsはプロスタグランジンの産生を抑制します。プロスタグランジンは血管拡張作用があるため、これを阻害すると腎血管の収縮につながります。これによって腎血流が低下し、腎機能の低下につながるわけですね。(NSAIDsを長期で服用すると高血圧を起こしたり、胎児の動脈管閉塞を起こすのも同じ理屈ですね)この患者さんは現在も頭痛時などはカロナール®を使っています。

IgA腎症は健康診断で尿タンパクを指摘されて発見されるケースが多いようですが、それ以外にも場合によっては血尿や浮腫など異常なサインを出してくれる疾患です。もし肉眼的血尿があったら早めに泌尿器科で調べてもらって下さい。早期発見で予後良好になる可能性が高くなります。 IgA腎症は治療は済んでも腎機能が緩やかに低下するため、長期の経過観察、療養が必要です。(20年で約40%が腎不全に移行すると言われています) 当時高校生だったこの患者さんも現在は大学生(すごく美人です)。今後も病気を気にする必要はあるでしょうが、何事もなく楽しい毎日を送って欲しいです。

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