先日うちの薬局に小学生のお子さんとそのお父さんが来られました。処方された薬はメトリジン®錠(2)でした。詳しく話を聞くとどうやら起立性調節障害のようです。今回の記事で起立性調節障害について紹介します。薬局ではあまり目の当たりにする機会は少ないと思うので、是非知っておいて欲しいと思います。
起立性調節障害とは自律神経の異常により循環器系の調節が上手くいかなくなり、体に不調をきたす疾患です。循環器系が正常に働かなくなると、血流不全が生じます。これにより全身、特に脳に血が行きわたらなくなるので、めまい、立ち眩み、朝に起きられなくなる、倦怠感などの症状が出ます。
ここで自律神経の働きについて見てみましょう。
自律神経は交感神経と副交感神経があり、交感神経は心身を興奮させ、副交感神経は心身をリラックスさせます。
通常朝起きてから日中にかけて交感神経が優位になり、夕方から就寝前にかけて副交感神経が優位になります。しかしこの日内変動が異常をきたすと、日中に副交感神経が優位になったり、夜間に交感神経が優位になってしまうことがあります。そのため朝に起きられない、夜に眠れないといった状態になり、また朝はやる気がなく、夕方になると元気になるといった状態になります。
”起立性”調節障害というと立っている時に不調が生じる疾患のように感じますが、立ち上がる時だけでなく、上記のように日常生活に支障をきたす症状が多く存在するわけですね。
起立性調節障害は症状により以下の4つのタイプに分類されます。具体的に見てみましょう。
・起立直後性低血圧
起立時に血圧が大幅に低下し回復が遅いため、脳の血流が低下するタイプです。これにより立ちくらみ、めまいが生じます。起立性調節障害で最も多いタイプです。
・体位性頻脈症候群
起立中に血圧の低下はないものの、心拍数が増加するタイプです。動悸や冷や汗が生じます。
・神経調節性失神
起立中に血圧が大幅に低下し、失神するタイプです。失神の他に冷や汗、徐脈、けいれん発作を起こすこともあります。
・遷延性起立性低血圧
起立直後の血圧は正常であるものの、徐々に血圧が低下していくタイプです。倦怠感、頭痛などをへて、最終的には失神します。
ここまでで起立性調節障害の概要は分かったでしょうか?
それでは治療法を見てみましょう。基本的な治療は水分・塩分の摂取になります。
起立性調節障害の患者は一般的に循環血液量が少ない傾向があります。循環血液量が少ないと、自律神経の調節障害が起きた際に脳に十分な血液が循環せず、たちくらみ・めまい・失神などが出やすいわけですね。一般的に水分は1日2L、塩分は10g少々必要となります。
その他気を付けることは
・起立時にゆっくり立ち上が(急激な血圧低下を避けるため)
・適度な運動をする(運動をすることで日中に交感神経優位にする。また適度な筋力をつける)
・夜更かしを避ける(夜間の交感神経優位を避ける)
などがあります。いずれも自律神経の働きを正常に近づけたり、血圧低下による症状を避けるものですね。
さてこのブログは薬剤師・薬学生向けなので薬物療法についても触れておきましょう。
起立性調節障害の主な治療薬は以下のものになります。
・ミドドリン(メトリジン®)
血管収縮作用による昇圧効果を示します。これにより血圧低下を防ぐわけです。起立性調節障害では最も多く使われています。α1受容体刺激による血管収縮作用により血圧を上昇させるので、副作用は比較的少なく使いやすいと言えます。今回の患者さんもメトリジン®を使っていますね。
・アメジニウム(リズミック®)
ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用とMAO阻害作用を有します。これによりシナプスにおけるノルアドレナリンの濃度を上昇させ、昇圧作用を示します。
MAO阻害作用を有するので、ミドドリンに比べて少し禁忌が多いのが特徴ですね。
・プロプラノロール(インデラル®)
β遮断作用により心拍数を低下させます。また心拍出量の低下により血圧も低下します。血圧低下作用を有するので、起立性調節障害では体位性頻脈症候群に用いられ、その他のタイプには使いません。
以上の3つが代表的な薬ですね。その他にも漢方を用いることもあります。
・半夏白朮天麻湯(めまい、頭痛) ・苓桂朮甘湯(たちくらみ) ・補中益気湯(倦怠感) ・小建中湯(動悸・倦怠感)
以上のものがよく用いられますね。
薬物療法は非薬物療法を行っても効果不十分の時に用います。あくまでも基本は水分・塩分の摂取や生活習慣の改善がメインとなることは忘れないようにしましょう。
ここまでで起立性調節障害の病態、治療法は理解できたでしょうか?
起立性調節障害は一見すると朝に起きられず、やる気もなく、夕方になると元気になるという、怠けや仮病に間違えられることも多い疾患です。しかし自律神経の異常となると、本人の意志ではどうにもならないこともあります。多くの知識をもって見解を広げ、たんなる怠けではなく病気かもしれないと気付けるようになりたいものです。
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