レイボー錠

神経系の薬

久しぶりに新薬の記事を書きたいと思います。近日中に日本イーライリリーから新たな片頭痛治療薬レイボー®錠が発売されます(2022年4月20日に薬価収載されました)。新たな作用機序の薬として注目されています。今回の記事でレイボー®錠を紹介しますので、是非予習しておいて下さい。


レイボー®錠の有効成分はラスミジタンコハク酸塩といい、セロトニン5-HT1F受容体作動薬です。作用機序を理解するために、まずは片頭痛の起こるメカニズムについておさらいしましょう。
片頭痛が起こる原因として考えられているのが、血管説三叉神経説です。

・血管説
脳血管の血小板から何らかの原因でセロトニンが大量に放出されます。脳血管には5-HT1B受容体が発現しているので、このセロトニン刺激で血管が収縮します。血小板から大量にセロトニンが放出された結果、セロトニンが枯渇します。すると今度は脳血管の拡張が起こり、血管周辺組織を圧迫し頭痛が生じます。

・三叉神経説
脳血管には三叉神経が分布しています。光刺激や気候変動などが原因となり、三叉神経からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPが分泌されます。CGRP受容体はGs共役型受容体なので、三叉神経から分泌されたCGRPが血管のCGRP受容体を刺激することによって、血管拡張が生じます。
CGRPにより血管拡張が生じることによって血管透過性が亢進し、血管内成分の血管外への漏出します。CGRPは肥満細胞から炎症性サイトカインを放出する働きもあるので、さらに三叉神経が刺激されます。(神経原性炎症
神経原性炎症を生じた三叉神経は大脳皮質に痛みのシグナルを伝達し、また侵害受容器へのニューロンを刺激し、痛みを増強します。

※ここまでの説明は過去の記事でも紹介しています。 ⇒ エムカルディ皮下注


現在有力視されているのは三叉神経説です。そしてレイボー®錠の有効成分であるラスミタジンはこの三叉神経説に基づいた作用機序を示します。
冒頭でラスミジタンは5-HT1F受容体を刺激すると書きましたが、この5-HT1F受容体は三叉神経終末に存在します。5-HT1F受容体はGi共役型受容体であり、この受容体の刺激で三叉神経からCGRPの放出を抑制します。

ラスミジタンが5-HT1F受容体を刺激することで、三叉神経からのCGRPの放出がより強力に抑制され、結果として血管の拡張、神経原性炎症が抑制されることになります。
トリプタン系薬物は血管に存在する5-HT1B/1D受容体を刺激し、直接血管を収縮させますが、ラスミジタンは三叉神経を介して、間接的に血管の拡張を抑制、神経原性炎症を抑制させることになります。
この血管の拡張を抑制というのがミソです。CGRPは血管を拡張させる作用をもつので、これを阻害しても血管が収縮するわけではありません。
またラスミジタンは5-HT1F受容体に対する親和性が、5-HT1B/1D受容体に対する親和性の2600倍もあるため、5-HT1F受容体に対する選択性が極めて高くなっています。そのためラスミジタンは血管収縮作用を示しません。

ここまでの説明でラスミジタンの働きは分かってでしょうか?
続いて使い方と特徴について見てみましょう。

・用法用量について
レイボー®錠の使い方は次のようになっています。
「通常、成人にはラスミジタンとして1回100mgを片頭痛発作時に経口投与する。ただし、患者の状態に応じて1回50mg又は200mgを投与することができる。頭痛の消失後に再発した場合は、24時間あたりの総投与量が200mgを超えない範囲で再投与できる。」
エムカルディ®皮下注は片頭痛の予防に用いられていますが、レイボー®錠は発作時の頓服薬です。レイボー®錠の規格は50㎎と100㎎がありますが、基本は100㎎です。
トリプタン系薬物は1回使うと、次に使うのはナラトリプタン以外は2時間あけることになっていますが(ナラトリプタンは4時間)、レイボー®錠では特にそのような記載はありませんでした。しかし24時間あたりの総量が決められているはトリプタン系と一緒必要ですね。

・禁忌がほとんどない
レイボー®錠の禁忌は「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」だけです。一方トリプタン薬物には多くの禁忌があります。例えばレルパックス®錠の場合は以下のようになります。

2.2~2.5に関してはいずれも血管収縮作用によるものです。これに対してラスミジタンは前述したように血管収縮作用を示しません。そのため圧倒的に使い易くなっています。

・主な副作用はめまい
添付文書をみると副作用では浮動性めまいが18.8%となっています。なかなかの頻度で生じますね。その他にも1%以上の副作用で悪心、筋力低下、傾眠などがあります。トリプタン系薬物にも様々な副作用がありますが、いずれも「1%未満」とか「頻度不明」ばかりです。この辺は三叉神経に作用するので仕方ないのかもしれません。重大な副作用にはセロトニン症候群があります。
※セロトニン症候群については過去記事をご覧ください ⇒ セロトニン症候群

ここまでの説明でレイボー®錠について理解できたでしょうか?レイボー®錠はもう間もなく発売されると思われます。片頭痛の発作治療薬であり、予防効果はありませんが、従来のトリプタン系に比べて使い易いのがいいですね。どの程度効果があるかも気になります。発売後に患者の感想を聞けた方がいらっしゃいましたら、コメント等を頂けると嬉しいです。

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