モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル) 作用機序から取り扱いまで

感染症の薬

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。年明け早々資格試験の受験で忙しかったのですが、ようやく記事を書けるようになりました💦
私のブログの読者の方は薬剤師が多いですが、皆さまの薬局ではラゲブリオ®登録センターに登録をしたでしょうか?ここに登録をすることによって、ラゲブリオ®カプセルの入荷が可能になります。ラゲブリオ®カプセルは2021年12月に承認された新型コロナウイルス治療薬です。初の飲み薬と言うことで世間でも注目されていましたね。今後使う機会も出てくるかもしれませんので、今回はラゲブリオ®カプセルとその有効成分のモルヌピラビルについて解説します。

まずモルヌピラビルについて見てみましょう。モルヌピラビルはRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬であり、これによってコロナウイルスの増殖を抑制します。
初めにコロナウイルスが増殖するメカニズムについて確認しましょう。
ウイルスは単体では増殖できないので、必ず宿主細胞に侵入、寄生して増殖します。コロナウイルスは細胞表面のACE2受容体に結合することにより侵入します。
※こちらの記事も参考にして下さい ⇒ ロナプリープ点滴静注

侵入したウイルスからゲノムRNAが脱殻して放出されます。
ここでコロナウイルスについて少し詳しく解説します。コロナウイルスは1本鎖RNAウイルスです。(ヒトはDNAが2重らせん構造になっていますが、コロナウイルスはRNA鎖が1本だけです。)
1本鎖RNAウイルスにはプラス鎖とマイナス鎖があります。プラス鎖はゲノムRNA自体がmRNAとしての働きをもち、ゲノムRNAから直接タンパク合成が行われます。マイナス鎖はゲノムRNAからmRNAが作られて、そこからタンパク合成が行われます。
コロナウイルスは1本鎖プラス鎖RNAウイルスです。そのためゲノムRNAから直接タンパク合成が行われます。
ゲノムRNAはRNA依存性RNAポリメラーゼにより複製されます。こうして大量のタンパク合成、RNA複製が行われてウイルスが増殖します。新たに合成されたウイルスは再び細胞から放出され、感染を繰り返していきます。

モルヌピラビルはRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害することでRNAの複製を阻害します。これによりウイルス増殖が抑制されるわけですね。作用機序は既にあるファビピラビル(アビガン®)、レムデシビル(ベクルリー®)と一緒ですね。

モルヌピラビルの作用機序が分かったところで、次はラゲブリオ®カプセル使い方と注意点について見てみましょう。

・用法・用量について
添付文書のおける用法・用量では「18歳以上の患者には、モルヌピラビルとして1回800mgを1日2回、5日間経口投与する」とされています。ラゲブリオ®カプセルの規格は200㎎なので、1回に4カプセルを服用することになります。18歳未満についての安全性はまだ確認できていないようですね。ちなみに食事とは関係なく服用できます。

・妊婦には禁忌
動物実験で催奇形性が認められてるため妊婦には使用できません。女性の場合、最終服用日から少なくとも4日間は避妊をしなくてはなりません。

・対象者は軽症~中等症、服用はなるべく早く
用法・用量に関連する注意で
「重症度の高いSARS-CoV-2による感染症患者に対する有効性は確立していない」
との記載があります。使えるのは軽症~中等症までとなります。また
「SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
と書いてあります。インフルエンザ治療薬と同様に、発症してから速やかな服用が必要となります。この辺は処方するかどうかの医師の速やかな判断が求められそうですね。

なおラゲブリオ®カプセルは「重症化リスクを有する患者」に用いられることになります。日本感染症学会が「COVID-19に対する薬物治療の考え方第11報」でラゲブリオカプセルの対象となる患者を以下のように示しています。

・61歳以上
・活動性の癌(免疫抑制又は高い死亡率を伴わない癌は除く)
・慢性腎臓病
・慢性閉塞性肺疾患
・肥満(BMI30Kg/m2以上)
・糖尿病
・重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)
・ダウン症
・脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)
・コントロール不良のHIV感染症及びAIDS
・肝硬変等の重度の肝臓疾患
・臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後

・腎障害、肝障害でも用量の調節は不要
モルヌピラビルは リボヌクレオシド類似体のNヒドロキシシチジン(以下NHC)に代謝され、さらにNHCがリン酸化され三リン酸化したNHC-TPが活性を示します。添付文書と医薬品リスク管理計画では腎クリアランスはNHCにとって意味のある排除ルートではないとされ、また肝機能障害者におけるモルヌピラビル及びNHCの薬物動態の評価は実施していないとされています。さらに
「非臨床試験の結果、NHCの主要な消失経路は肝代謝ではないと考えられた。また、モルヌピラビルは主に消化管及び肝臓でNHCへ代謝される一方、モルヌピラビルの加水分解に必要な代謝酵素は広範な組織に分布しているため、肝機能障害がモルヌピラビル及びNHCの曝露量に影響を及ぼす可能性は低い。」
との記載があります。腎臓で排泄されるわけではなく(腎排出率は3%)、主に肝臓で代謝されるわけでもないようなので、一体どうやって体から排出されるのかと思いましたが、添付文書の代謝の項目に
「NHCは内因性ピリミジンの代謝と同じ経路でウリジン及びシチジンへ代謝され、消失する。」
との記載がありました。核酸の代謝について確認すると、プリン塩基(アデニン、グアニン)は尿酸になって尿から排出されます。ピリミジン塩基(RNAではシトシン、ウラシル、DNAではシトシン、チミン)は脂肪酸の材料になります。モルヌピラビルはピリミジン塩基の類似体なので、分解されて体外に排出されるのではなく、体内で再利用されるのでは?と考えています。この辺はいずれ詳しい動態パラメーター等が出てくれば分かるでしょう。


最後にラゲブリオ®カプセルを発注する手順を確認しておきます。
まずラゲブリオ®登録センターにログインし、画面下にある「初めての方はこちら」をクリックし、医療機関登録をします。※Internet Explorerでは使えないので注意して下さい。

そこでID、パスワードを取得し、再度ログインすると発注画面になるので、必要な項目を入力して、画面一番下にある「注文確認画面へ」をクリックします。

ラゲブリオ®カプセルは発注してから納品されるまで1~2日程度を要します。先述したように基本的に発症5日以内に服用しなくてはならないので、発注の手順は覚えておき、すぐに手配できるようにしましょう。

ラゲブリオ®カプセルは院外処方による薬局での調剤が認められています。厚生労働省では院外処方では、感染対策の観点から、患者が薬局を直接訪問するのを避けさせるため、医療機関は患者に帰宅を指示するように求めています。
この場合、医療機関から患者が希望した対応薬局に、処方せん・適格性情報チェックリストをFAX等で送付します。処方せんを受け取った対応薬局が患者のところまで配送又は持参することが原則となっています。

オミクロン株の感染爆発により、しばらくは患者数が増えていくでしょう。入院施設に限界がある以上、院外処方せんによるラゲブリオ®カプセルの需要が増えるのは容易に想像できます。今のうちにしっかり予習して、いざという時に冷静に対処できるようにしましょう。

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