ネクセトール錠

内分泌・代謝性疾患の薬

2025年9月19日に大塚製薬からネクセトール®錠の製造販売が承認されました。高コレステロール血症および家族性高コレステロール血症治療薬としては新しい作用機序のものになります。販売されたら使用頻度が高くなりそうな気がする薬ですので、今回の記事で是非学んで下さい。


・家族性高コレステロール血症について
家族性高コレステロール血症(以下FH)は先天的にLDLコレステロールが高くなる疾患です。血中LDLコレステロールはLDL受容体を介して肝細胞やその他の細胞に取り込まれます(約70%は肝細胞に取り込まれます)。
しかしLDL受容体を産生する遺伝子に異常があるとLDL受容体が欠損したり、あるいはその機能が大きく損なわれてしまいます。これにより血中のLDLコレステロールが回収されずに血中に溜まってしまいます。そのため若年齢でもLDLコレステロールが高くなり、動脈硬化のリスクが高くなります。
自覚症状は特にありませんが、肘や膝、臀部、瞼といった箇所に皮膚黄色腫と呼ばれるコレステロールが沈着した隆起物が見られます。アキレス腱には腱黄色腫が見られることもあります。

FHの薬物治療は現在はスタチン系が基本です。LDLを肝細胞に取り込むLDL受容体はmRNAの転写によって産生されますが、コレステロールがこの転写にnegative feedbackをかけています。

スタチン系がコレステロールの産生を阻害することでこのnegative feedbackが抑制され、LDL受容体が増えるわけですね。


それでは今回の記事で紹介するネクセトール®錠について見てみましょう。

・作用機序について
ネクセトール®錠の有効性分はベムペド酸といい、これはATPクエン酸リアーゼ阻害剤です。この作用機序を詳しく見てみましょう。
前述したようにコレステロールが生合成される際には、まず初めにアセチルCoAが2分子結合し、アセトアセチルCoAになることから始まります。このアセチルCoAがどのように合成されているか確認しましょう。

グルコースは解糖系によりピルビン酸になりますが、ピルビン酸は好気的条件下ではアセチルCoAに代謝され、嫌気的条件下では乳酸に代謝されます。好気的条件下で合成されたアセチルCoAはミトコンドリア内でTCAサイクルに組み込まれます。TCAサイクルはエネルギーを産生しながら回転しますが、このサイクル内のクエン酸はATPクエン酸リアーゼにより再びアセチルCoAに戻されます
ベムペド酸はATPクエン酸リアーゼを阻害することでアセチルCoAの合成を阻害します。

アセチルCoAの合成が阻害されることで、結果的にコレステロールの合成が阻害されるわけですね。

・効能、効果および用法、用量について
効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」と記載されています。

用法・用量は「通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する」と記載されています。食前食後の記載はありません。
※空腹投与に比べて食後投与の場合はCmaxが0.88倍、AUCが0.98倍となっています。ほとんど食事による差はないと言っていいでしょう。
ネクセトール®錠の規格は180mgなので、1日1回、1回1錠という事になりますね。

また「用法及び用量に関連する注意」に”HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用すること”と書かれています。
レクビオ®皮下注300mgシリンジやレパーサ®皮下注140mgペンと一緒ですね。FHの治療はあくまで基本はスタチン系というのは変わらなそうです。

・相互作用について
ベムペド酸はそのままでは薬理効果を発揮せず、肝臓でアシルコエンザイムAシンテターゼ1(ACSVL1)という酵素によって、活性体のETC-1002コエンザイムA(ETC1002-CoA)になって薬理作用を示します。
また「ベムペド酸の代謝へのCYPの寄与は小さく、主にNADPH依存性の酸化及びUGT2B7によるグルクロン酸抱合により代謝される」と記載されています。
そのため薬物相互作用が少ないです。プロベネシドと併用した場合、ベムペド酸のCmax、AUCがそれぞれ1.23倍、1.74倍になったとされています。プロベネシドはUGT(UDP-グルクロン酸転移酵素)を阻害するからですね。

・副作用について
高尿酸血症が5%以上となっており、1~5%の副作用は肝機能異常のみです。
アセチルCoAの合成を阻害すると様々な副反応が起きそうな気もしますが、今のところ重大な副作用もなく、その他の副作用も少なめです。
コレステロールの合成をスタチン系より上流で阻害しますが、横紋筋融解症の記載はありません。しかしスタチン系と併用が原則なので、併用した場合は横紋筋融解症のリスクは上がるでしょう


今回の記事でネクセトール®錠について理解できたでしょうか?
FHの薬物治療はスタチン系が基本であることは変わりませんが、その後PCSK9阻害薬(レパーサ®皮下注、レクビオ®皮下注)、MTP阻害薬(ジャクスタピッド®カプセル)、ANGPTL3モノクロナール抗体(エヴキーザ®点滴静注液345㎎)と次々に新しい治療薬が登場しました。ここにきてさらに新しい作用機序の薬が登場しました。また内服薬であり、用法も1日1回のみで増減もありません。FH治療薬では今までで最も使いやすいでしょう。今後はFHの治療のハードルが下がっていくに違いありません。

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