ヒヤリ・ハット分析 ボナロン経口ゼリー服用中の患者ににリベルサス錠が処方

ヒヤリ・ハット

公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業に面白い事例がありました。この事例は私も想像していませんでした。今までとは違った視点でのヒヤリ・ハットの防止になりますので、今回の記事で紹介しようと思います。

【事例の詳細】
同じ医療機関のA科とB科を定期受診中の患者に、A科よりボナロン経口ゼリー35mg、B科よりオゼンピック皮下注0.5mgSDが処方されていた。今回、B科のオゼンピック皮下注0.5mgSDがリベルサス錠3mgへ変更になった。ボナロン経口ゼリー 35mgは消化管障害を防止するため多めの水で服用するが、リベルサス錠3mgは吸収率を上げるため少なめの水で服用する。両剤は胃内容物の影響を受けやすいため空腹時に服用する必要があるが、この2剤の同時服用は適切ではないと考えた薬剤師がB科の処方医へ疑義照会したところ、リベルサス錠3mgへの変更は中止になり、オゼンピック皮下注0.5mgSDが継続になった。

【推定される要因】
B科の処方医は他科が処方している薬剤について把握していなかったと考えられる。また、リベルサス3mgは服用条件によって吸収率の大きく変化する薬剤であると認識していなかった可能性がある。

【薬局での取り組み】
お薬手帳と薬剤服用歴の確認を徹底し、併用する薬剤の組み合わせに問題がないか検討する。また、この事例を薬剤師間で情報共有した。


まずA科より処方されていたボナロン®経口ゼリーについて確認しておきましょう。
ボナロン®経口ゼリーはビスホスホネート製剤です。ビスホスホネート製剤は骨吸収された骨の表面に露出したヒドロキシアパタイトに結合します。すると破骨細胞にビスホスホネート製剤が取り込まれ、破骨細胞のアポトーシスを誘導します。そのため骨粗鬆症の治療に使われます。

ビスホスホネート製剤は起床時に水で服用することになります。水以外のものでの服用は出来ません。これはビスホスホネート製剤が金属イオンによりキレートを形成してしまうからですね。キレートを形成すると吸収が著しく低下し、効能がほとんど得られません。食事やミネラルウォーター、牛乳などにはカルシウムやマグネシウムが多く含まれています。これらとの併用でキレートが形成される原因になってしまうからですね。

またビスホスホネート製剤は食道に長くとどまると食道炎や食道潰瘍を起こすことがあります。薬は飲み込んだつもりでも意外と胃に到達していなくて、食道に残っていることがあります。これを防ぐため確実に胃に落とさなくてはなりません。そのため以下のような注意書きがあるわけですね。

以上の事からボナロン経口ゼリーは空腹時に、なるべく多くの水で服用しないといけません。


続いてリベルサス®錠について見てみましょう。
リベルサス®錠の有効成分はセマグルチドといいGLP-1受容体作動薬です。GLP-1とは小腸下部のL細胞から分泌されるインクレチン(インスリンの分泌を促進するホルモンの総称)です。つまり糖尿病に使用されます。
インクレチンは体内でDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)によって速やかに分解されます。DPP-4は腸管上皮細胞や血液中などあらゆる箇所に存在するため、インクレチンを経口投与するとDPP-4によりあっという間に分解をされてしまいます。そのためGLP-1アナログは通常は注射で用いることになります。事例のB科で用いられていたオゼンピック®皮下注SDがまさにそれですね。

しかしリベルサス®錠はサルカプロザードナトリウム(以下SNAC)という吸収促進剤を添加することによって、胃からの吸収が可能になりました。
⇒セマグルチドがSNACと複合体を形成し、消化酵素による分解を防ぎます。SNACと複合体で疎水性が増加するので、胃粘膜からの吸収が可能になります

セマグルチドはSNACと複合体を形成し、脂溶性を高めた後に胃粘膜に吸着し、徐々に複合体からセマグルチドが遊離し、胃粘膜より吸収されます。

胃内に飲食物があると胃粘膜への吸着が阻害され、吸収が低下してしまいます。そのため空腹時に服用する必要があります。また水の量が多すぎるとSNACの濃度が薄まり吸収が悪くなります。そのため次のような注意書きがあります。

本剤の吸収は胃の内容物により低下することから、本剤は、1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)とともに 3mg錠、7mg錠又は 14mg錠を 1錠服用すること。また、服用時及び服用後少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避けること。

以上の事からリベルサス®錠は空腹時に、少量の水で服用しなくてはなりません。

これらをふまえて今回の事例を振り返ってみましょう。
A科でボナロン®経口ゼリーが処方されており、B科ではオゼンピック®皮下注SDからリベルサス®錠に処方変更がありました。どちらも空腹時に飲むことは変わりませんが、一方は十分な量の水で服用し、もう一方は少量の水で服用します。これでは確かに同時服用はよくないですね。そして経口薬のリベルサス®錠を注射薬のオゼンピック®皮下注SDに戻せば解決します。
今回紹介した2つの薬は薬物相互作用があるわけではありません。そのため薬理学や薬物動態学の視点や、あるいはレセコンによる相互作用の防止機能でも検出されません。あくまで服用の仕方が異なるので併用しない方がいいと分かった形になります。薬1つ1つの特性をよく理解したからこそ発見できたものです。またこのような有益な事例がありましたら、このブログで紹介したいと思います。

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