パキロビッドパックをしっかり予習

感染症の薬

しばらく調剤報酬に関する記事ばかり書いていました。このブログは本来は薬剤師、薬学生、その他医療従事者の方に役立つ情報発信をするためのものなので、一旦調剤報酬の記事から本来の趣旨に沿った内容に戻りたいと思います。
ちょうど先日2月10日に新たな新型コロナウイルス治療薬パキロビッド®パックが承認されました。今回の記事では現在注目されている治療薬であるパキロビッド®パックについて解説します。


パキロビッド®パックの有効成分はニルマトレルビルとリトナビルの合剤です。この2つの成分について見てみましょう。
まずはニルマトレルビルですが、これは新型コロナウイルスのメインプロテアーゼ(3CLプロテアーゼ)を阻害します。新型コロナウイルスは1本鎖プラス鎖RNAウイルスです。ゲノムRNAがmRNAとしての役割を持ちます。
※参照記事 ⇒ モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル) 作用機序から取り扱いまで
この時にゲノムRNAからタンパク合成が行われますが、この時にメインプロテアーゼが働きます。ニルマトレルビルはこのメインプロテアーゼを阻害することで、タンパク合成を阻害し、結果的にウイルス増殖が抑えられるわけですね。

正確には翻訳されたばかりのタンパクはあらゆるタンパクが結合した複合タンパクです。これをプロテアーゼが切り取って、それぞれのウイルスタンパクにすることになります。この時のプロテアーゼの1種がメインプロテアーゼ(3CLプロテアーゼ)なわけです。


次にリトナビルを見てみましょう。リトナビルはHIVの治療薬であり、ウイルスプロテアーゼを阻害します。HIVは1本鎖RNAウイルスですが、正確には1本鎖RNA逆転写ウイルスといいます。ゲノムは1本鎖プラス鎖RNAであり、このRNAを逆転写することで2本鎖DNAを作り、これを宿主のゲノムに組み込みます。ゲノムに組み込まれたDNAからmRNAを作り、ウイルスタンパク質を産生します。

さてこのリトナビルですが、作用機序的にはニルマトレルビルとほぼ一緒ですが、新型コロナウイルスのプロテアーゼは阻害しません。あくまでHIVのプロテアーゼを阻害します。ではなぜリトナビルが配合されているのでしょうか?その理由はニルマトレルビルの効果を長持ちさせるためです。
ニルマトレルビルはCYP3A4で代謝されます。リトナビルはCYP3A4を阻害する作用があるため、ニルマトレルビルの代謝を阻害し、結果としてニルマトレルビルの効果持続時間が長くなることになります。

ここまででパキロビッド®パックの有効成分、作用機序は分かりました。続いて実際の使い方や注意点を見てみましょう。

・服用の仕方
添付文書をみると
「通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ニルマトレルビルとして1回300mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与する。」
とあります。なお食事の影響は受けません。

パキロビッド®パックは上の写真のようになっています。ニルマトレルビルを2錠とリトナビルを1錠飲めばニルマトレルビル300mg、リトナビル100mgになります。朝は黄色のシートを、夜は青のシートを服用するので、1シートでちょうど1日分になりますね。

用法・用量に関連する注意として
「中等度の腎機能障害患者(eGFR:30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルとして1回150mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与すること。」
との記載があります。中等度の腎機能障害の場合はニルマトレルビルを1錠、リトナビルを1錠飲めばよいことが分かりますね。
なお「重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しない。」との記載もありますので、この辺は注意が必要です。


・対象者は重症化リスクを有する患者、服用はなるべく早く
用法・用量に関連する注意に
「SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
との記載があります。基本的に発症から5日以内に服用しなくてはなりません。

効能又は効果に関連する注意に
「臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること。また、本剤の投与対象については最新のガイドラインも参考にすること。」
と書かれています。「重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者」の考え方としては、日本感染症学会の「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 13 報」で以下のように定めています。

・60 歳以上
・BMI 25kg/m2
・喫煙者(過去 30 日以内の喫煙があり、かつ生涯に 100 本以上の喫煙がある)
・免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与
・慢性肺疾患(喘息は、処方薬の連日投与を要する場合のみ)
・高血圧の診断を受けている
・心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、ニトログリセリンが処方された狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、頚動脈内膜剥離術又は大動脈バイパス術の既往を有する)
・1 型又は 2 型糖尿病
・限局性皮膚がんを除く活動性の癌
・慢性腎臓病
・神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)又は医学的複雑性を付与するその他
の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常等)
・医療技術への依存(SARS-CoV-2 による感染症と無関係な持続陽圧呼吸療法等)


また「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第 6.2 版」では以下のように定めています。

・65 歳以上の高齢者
・悪性腫瘍
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・慢性腎臓病
・2型糖尿病
・高血圧
・脂質異常症
・肥満(BMI 30 以上)
・喫煙
・固形臓器移植後の免疫不全

・妊娠後期

「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 13 報」、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第 6.2 版」のいずれかの項目に該当し、医師が必要と判断した患者にパキロビッド®パックが用いられることになります。
発症後5日以内、重症化リスクの高い患者に投与するといったことに関してはラゲブリオ®カプセルと同じですね。

・相互作用に注意
パキロビッド®パックで最も注意しなくてはならないのが相互作用の多さでしょう。リトナビルはCYP3A4 を阻害し、ニルマトレルビルの効果持続時間を長くしますが、CYP3A4は様々な薬物の代謝酵素であるので、リトナビルとの併用で効果が増強してしまう薬物が非常に多いです。添付文書に書かれている併用禁忌だけでもこれだけあります↓

とても覚えきれる量ではありません。パキロビッド®パックが処方されたら、現在服用中の薬の全てをチェックするべきでしょう。

・妊婦への使用は有益投与
ラゲブリオ®カプセルは妊婦には禁忌であり、服用後4日間は避妊が必要です。しかしパキロビッド®パックは有益投与です。妊婦に使用できるのは大きいですね。

・副作用に注意
重篤な副作用として肝機能障害、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群があります。
ラゲブリオ®カプセルは特有の副作用はあまりなく、重篤なものは少なかったです。しかしパキロビッド®パックは重篤な副作用が考えられますので、投薬後はフォローアップが必須となるでしょう。
その他の副作用として味覚障害、下痢、高血圧、筋肉痛があります。

・使用するにはパキロビッド対応薬局に登録が必要
令和4年2月27日までは試験運用期間となり、パキロビッド®パックを用いるにはパキロビット対応薬局に登録しなくてはなりません。各都道府県の健康福祉部に連絡し、登録します。試験運用期間におけるパキロビッド対応薬局は各都道府県で最大9までと国で定められています。(応募薬局が上限を超えた場合は各都道府県が選定します)

・各都道府県における新型コロナ病床確保医療機関と連携が取れること
・試験期間中は夜間、休日、緊急時、必ず対応し、薬剤を交付できること
・28日以降の都道府県内での運用に資するために、県から依頼する調査等に対し協力すること
・すでにラゲブリオの発注実績があること

などといった条件があり、なかなかハードルが高いです。パキロビッド対応薬局に指定されたら、発注はパキロビッドパック登録センターを通して行います。納品されるまでは1~2日程度かかります。この辺もラゲブリオ®カプセルと一緒ですね。

以上パキロビッド®パックについてたくさん書いてみました。対象患者や早めに飲まないといけないこと、発注の仕方などラゲブリオ®カプセルとそっくりです。しかし相互作用が多かったり、そもそも扱える薬局が限られていることなどから、少々扱いづらい薬であることは否めません。しかしアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、ラムダ株、オミクロン株に対して抗ウイルス活性が認められていることなどから、投与対象患者には有難い存在かもしれません。2月28日以降は取り扱いの対象となる薬局の幅も増えるでしょうし、今のうちから十分に予習しておくことは必要でしょう。また変わったことがありましたら記事にしたいと思います。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
にほんブログ村

記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。

301 Moved Permanently

サブブログもよろしくお願いします。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました