クレセンバカプセル・点滴静注用

感染症の薬

昨年末には新薬の製造販売の承認が立て続けにありました。なかなか書けなかったのですが、ようやく少しずつ書けそうです。前回の記事のタリバス®と同じ日の2022年12月23日に、抗真菌薬のクレセンバ®カプセル・点滴静注用の製造承認がありました。今回の記事ではクレセンバ®カプセル・点滴静注用について紹介します。

クレセンバ®カプセル・点滴静注用の有効成分はイサブコナゾールといい、これはトリアゾール系抗真菌薬です。まずはトリアゾール系抗真菌薬について確認しましょう。
トリアゾール系抗真菌薬はイミダゾール系抗真菌薬とともにアゾール系抗真菌薬と言われます。窒素原子(N)を1個以上含む5員環構造をアゾール環といいます。この中で窒素原子が2個含まれるものをイミダソール環といい、窒素原子が3個のものをトリアゾール環といいます。

イミダゾール系抗真菌薬はミコナゾール、クロトリマゾールなどがあり、トリアゾール系抗真菌薬はフルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾールなどがあります。

続いてアゾール系抗真菌薬の作用機序を見てみましょう。
※イミダゾール系とトリアゾール系抗は構造式の関係で別の系統になっていますが、どちらも同じ作用機序をします。
真菌の細胞膜はエルゴステロールという脂質で出来ています(人間などの哺乳動物はコレステロールで出来ています)。このエルゴステロールの産生を阻害することで真菌の殺菌につながるわけです。

エルゴステロールは上記の図のような過程で合成されますが、アゾール系抗真菌薬はエルゴステロールを作る最終段階のC-14αラノステロール脱メチル酵素を阻害します。
C-14αラノステロール脱メチル酵素はシトクロムP450(CYP)の1種です。アゾール系抗真菌薬は真菌のシトクロムP450だけでなくヒトのシトクロムP450も阻害してしまいます。そのためアゾール系抗真菌薬は薬物相互作用が多いのですね。

ここまででアゾール系抗真菌薬の作用機序は理解できたでしょうか?
続いてトリアゾール系抗真菌薬の特徴を見てみましょう。トリアゾール系はイミダゾール系に比べて生体内で代謝されにくい特徴があります。そのため内服や注射薬として用いられるわけです。
※イミダゾール系は生体内で代謝されやすいので、主に外用薬として用いられます。
そのためトリアゾール系抗真菌薬は表在性真菌の他に深在性真菌症にも有効です。

トリアゾール系抗真菌薬の特徴が分かったところで、今回の記事で紹介するクレセンバ®カプセル・点滴静注用について学びましょう。

・効能効果について
イサブコナゾールの適応はアスペルギルス症ムーコル症クリプトコックス症の3つです。
これらの真菌は主に土壌などに存在し、空気中に飛散したものが肺から侵入します。その結果肺炎や髄膜炎を引き起こす原因となります。つまり深在性真菌症に用いることが分かりますね。

・用法、用量について
錠剤、点滴静注用の用法はそれぞれ以下のようになっています。

どちらも同じ用法、用量ですね。特に点滴静注用は体表面積によって用量が変わったりもしないので分かりやすいです。クレセンバ®カプセルの規格は100㎎なので1回2カプセルですね。

静注用は1バイアルで200㎎なので、1回に1バイアルを使うことになりますね。

・副作用について
重大な副作用にStevens-Johnson症候群、肝機能検査異常、肝機能異常、肝損傷、肝炎、急性腎障害、腎不全、ショック、アナフィラキシーの記載があります。どの薬でも起こりうる副作用であり、目立った特徴はありません。
しかし肝機能検査異常が13.7%、肝機能異常が6.8%とそれなりの頻度です。定期的に肝機能の検査は必要でしょう。その他の副作用は頻度不明か1%少々です。

・併用禁忌について
前述したようにアゾール系抗真菌薬は真菌だけでなくヒトのシトクロムP450も阻害します。その他にもP糖タンパク阻害作用もあります。そのため併用禁忌が多いです。使用時には併用薬を1つ1つ確認する必要があるでしょう。ただトリアゾール系抗真菌薬の中では併用禁忌は少なめと言えます。



総合的に見るとクレセンバ®カプセル・点滴静注用は今までのトリアゾール系抗真菌薬と大きく異なるわけでもなく、目立った特徴がありません。しかしムコール症に有効なのは大きな意味があると思います。ムコール症の治療薬は少なく、第一選択薬はアムホテリシンBです。アムホテリシンBは優れた効果を発揮しますが腎毒性が強い欠点があり、腎障害がある患者さんでは使い辛いです。
アムホテリシンBが使えない場合、トリアゾール系抗真菌薬のポサコナゾール(ノクサフィル®)くらいしか代替薬がありません。しかしこれにクレセンバ®カプセル・点滴静注用が加わることによって、新たな選択肢が追加されます。また腎機能障害患者への使用も可能です。
また侵襲性アスペルギルス症に有効な抗真菌薬もイトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール、ミカファンギン程度しかありませんでしたが、ここにもクレセンバ®カプセル・点滴静注用が追加されます。
またイサブコナゾールはトリアゾール系抗真菌薬の中では併用禁忌が比較的少なめです。このように少しでも治療の選択肢が広がるので、深在性真菌症の治療がやりやすくなるでしょう。

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