先日うちの薬局をずっと懇意にしてして頂いている患者さんの奥さんが、本人の代わりに薬をもらいに来局しました。今まで使っていなかったイーケプラ®錠が処方されています。どうされたのか尋ねたところ、先月脳出血を起こし入院していたそうです。最近になって退院し、現在はリハビリをしながら通院も続けているようです。
さて今回処方されているイーケプラ®錠はてんかんの治療薬です。脳出血の再発を予防に用いたりしません。なぜイーケプラ®錠が処方されたのでしょうか?結論から言うと脳出血による続発性てんかんの防止に用います。今回は続発性てんかんについて説明します。
てんかんは脳内で過剰な興奮が起き、意識障害やけいれんなどを生じます。先天的なものも多く、多くの患者さんは幼少期から治療をしています。
一方後天的な原因により二次的にてんかんを生じることがあります。これが続発性てんかんです。
続発性てんかんは脳血管障害、脳外科手術、頭部外傷などにより脳に器質的な異常が生じ、これが脳の過剰興奮の原因となり、てんかんを生じます。
てんかんの分類についておさらいしましょう。
てんかんは脳内の過剰興奮の起きる部位、その原因で分類できます。
部位による分類
・部分性てんかん(焦点性てんかん)
脳内の一部で過剰興奮が起きる。部分発作が起きやすい。
・全般性てんかん
脳内の全体で過剰興奮が起きる。全般発作が起きやすい
原因による分類
・特発性てんかん
原因がハッキリしないもの。
・症候性てんかん
原因がハッキリしているもの。(脳の器質的異常が主)
※何らかの原因が疑われるが、現時点で原因の特定できないものを潜因性てんかんといいます。
今回のテーマである続発性てんかんは症候性てんかんに分類されますね。
今回の患者さんは脳出血を生じたため、出血した脳血管およびその周辺部位に損傷があります。私の母も脳梗塞を起こしたため、病変部位は脳虚血により損傷を受けています。これが原因でてんかんを起こす可能性があるわけですね。今回の患者さんも私の母もイーケプラ®錠を使用しています。
また以前に私が勤めていた薬局で、過去に交通事故にあった患者さんにずっとエクセグラン®錠が処方されていました。薬剤師になりたての頃だったので当時は理解できずにいましたが、途中で交通事故による頭部損傷でてんかんの防止に用いていることが分かりました。
なお続発性てんかんにはイーケプラ®が使われることが多い気がします。
基本的に何らかの基礎疾患をもっているので、その治療を行っていることがほとんどです。イーケプラ®の特徴としては他剤との相互作用が少ないことがあげられます。そのためイーケプラ®が使い易いわけですね。
イーケプラ®の有効成分であるレベチラセタムの作用機序としては、神経細胞におけるシナプス小胞のSVA2というタンパク質に結合します。SVA2はシナプス小胞からグルタミン酸の遊離を促進するので、これを阻害することによってグルタミン酸の遊離を阻害し、過剰興奮を抑制します。
他剤に同様の作用機序の物はなく、チトクロームP450によって代謝されません。グルクロン酸抱合もされず、また酵素誘導や酵素阻害もないので、相互作用が少ないわけですね。
※添付文書を隅々まで見ましたが、薬物相互作用を起こす薬物の記載はありませんでした。
この患者さんは今のところ、てんかん発作は起きていません。歩行はなんとか自分でできる程度ですが、指先の細かい動きはまだ難しいようです。幸いなことに記憶や言語に関しては異常はなく、ご家族とのコミュニケーションもとれています。リハビリは続くでしょうが、1日も早く回復されることを祈っています。
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