セタネオ点眼液 新しい作用機序で眼圧の低下

眼科の薬

久しぶりに新薬について書こうと思います。2025年8月25日に参天製薬のセタネオ®点眼液の製造販売の承認がされました。これは今までのプロスタグランジン誘導体点眼薬と異なる作用機序になります。個人的には大きな効果が期待できそうな気がするので、今回の記事で紹介します。是非ご覧になって下さい。


まず初めに眼の中に存在する液体である眼房水がどこで産生され、どこから流れ出ているか確認しましょう。
眼房水は毛様体の突起部分に存在する毛様体上皮細胞で産生されます。(眼房水は角膜・水晶体など血管のない組織に酸素や栄養を供給したり、眼内の老廃物を排出したり、眼の圧力を保つことで眼の形を維持しています)
産生された眼房水は虹彩の後ろ側から前側に移動します。眼房水の約90%は隅角の線維柱帯を通りシュレム菅から排出され、約10%はぶどう膜強膜から排出されます
※ぶどう膜強膜とは虹彩、毛様体、脈絡膜の3つをまとめていいます。

このように眼房水は線維柱帯やぶどう膜強膜から排出するわけですが、何らかの原因で眼房水の排出が妨げられたり、あるいは眼房水が過剰に産生されると、眼房水が滞留して眼圧が上昇します。眼圧の上昇により視神経が圧迫され傷つくことで視野障害を引き起こすことがあります。これが緑内障です。


眼房水の産生から排出までが分かったところで、眼房水の排出に関連する受容体について見てみましょう。

・FP受容体
プロスタグランジン(以下PG)F2αの受容体です。FP受容体はGq共役型受容体であり、脈絡膜を除く眼内に分布しています。詳しい作用機序は分かっていませんが、FP受容体を刺激することでぶどう膜強膜から房水の流出が促進します。
※コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスを分解する細胞外マトリックス分解酵素(MMP)を活性化し、眼房水のぶどう膜強膜からの流出を促進するという説が有力です。
FP受容体作動薬にはラタノプロスト、タフルプロスト、トラボプロスト、ビマトプロストがあります。

・EP2受容体
PGE2の受容体でありGs共役型受容体です。こちらも作用機序は不明ですが、EP2受容体の刺激で線維柱帯流出路とぶどう膜強膜流出路の両方の房水流出が促進されます。
EP2受容体作動薬にはオミデネパグ イソプロピル(エイベリス®点眼液)があります。

FP受容体およびEP2受容体は毛様体、虹彩、線維柱帯、角膜、結膜、網膜と様々場所に分布しており、これまでのプロスタグランジン関連薬はFP受容体かEP2受容体のいずれかに作用していました。今回の記事で紹介するセタネオ®点眼液は角膜、結膜、線維柱帯、シュレム管上皮細胞、毛様体などに分布するEP3受容体に作用します。

・EP3受容体
EP2受容体と同様にPGE2の受容体です。EP2受容体がGs共役型であるのに対しEP3受容体はGi共役型です。EP3受容体を刺激すると線維柱帯流出路とぶどう膜強膜流出路の両方の房水流出が促進されます。こちらも詳しい作用機序は不明です。EP2受容体がGs共役型、EP3受容体がGi共役型と逆の細胞応答をするのにどちらも眼圧を下げることから、様々なシグナル伝達が複雑に関連しているのでしょう。


眼房水の排出に関連する受容体が分かったところで、今回の紹介するセタネオ®点眼液について見てみましょう。

・セタネオ®点眼液について
セタネオ®点眼液の有効成分はセペタプロストといいます。セペタプロストは角膜中で加水分解されて活性代謝物のONO-AG-367になります。この活性代謝物がFP受容体およびEP3受容体を刺激することで、線維柱帯とぶどう膜強膜の両方から眼房水の排出を促進し、眼圧を低下させます。
※EP3受容体作動薬はセペタプロストが初になります。



・効能、効果および用法用量について
適応は「緑内障」と「高眼圧症」です。用法・用量は「1回1滴、1日1回点眼」です。
この辺は従来のFP受容体作動薬やEP2受容体作動薬と一緒ですね。

・副作用について
重大な副作用として虹彩色素沈着(0.3%)があり、5%以上の副作用に結膜充血(29.6%)、睫毛の異常(18.2%)があります。この辺も従来のプロスタグランジン誘導体点眼薬と一緒です。

・その他の注意
無水晶体眼又は眼内レンズ挿入眼の患者(いわゆる白内障手術をした患者です)では”嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫、及びそれに伴う視力低下を起こすおそれがある”とされています。これも従来のFP受容体作動薬と一緒です。
一方EP2受容体作動薬のエイベリス®点眼液は無水晶体眼又は眼内レンズ挿入眼の患者には使用が禁忌です。理由としては同じく黄斑浮腫が起きやすくなるからです。EP3受容体の刺激では禁忌にならないようです。この辺のメカニズムは不明ですので、早く解明されて欲しいですね。ただプロスタグランジン誘導体が黄斑浮腫を起こしやすいことには変わりません。ものが歪んで見える、霧がかかったように見える、視野の一部が欠けるなどの黄斑浮腫を疑わせる症状があれば早めの相談が必要になります。


今回の記事でセタネオ®点眼液について理解できたでしょうか?初のEP3受容体作動薬であるだけでなく、FP受容体刺激作用も有することから、これまでの緑内障治療薬に比べて高い効果が期待できます。緑内障は中途失明の原因の1位です。高い眼圧低下作用が認められれば、失明する人が大幅に減少する可能性もあります。セタネオ®点眼液はまだ製造販売の承認が下りただけで販売はされていません。販売開始されるのを楽しみに待ちましょう。

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