漢方の適応外処方 緑内障に柴苓湯

漢方薬
前回まで4記事連続で漢方薬、東洋医学について書きてきました。ちょうどいいタイミングで漢方の適応外処方の事例がありましたので、紹介したいと思います。過去の4記事を読んだ後なら理解しやすいと思います。

当薬局に以前からおかかりの患者さんが眼科処方箋を持ってきてくれました。

その処方内容がこちらです↓

Rp(1)ツムラ柴苓湯      6g

    1日2回 朝夕食前  30日分
Rp(2)ミケランLA点眼液2%  2.5mL
    1日1回 両目点眼

緑内障なのは分かりましたが、柴苓湯が処方されているので、胃腸炎や下痢気味なのかと思いました。しかしどちらでも無いようです。患者さんに話を聞くと「眼科の先生がこれを飲んでいた方が眼圧にいいと言っていた」とのことです。この理由について考えます。

柴苓湯は一言でいえば「体の水の流れが悪いことによる症状」に有効です。
主に水様性の下痢に用いますが。この原因について見てみましょう。
外部からの要因で病気になる時は、外邪(がいじゃ)が体に入ってくることで生じると考えられています。
風邪、火邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪の6個です。六邪ともいいます。
この中で寒邪が侵入すると気の温煦作用が阻害されます。これにより冷えが生じます。

また寒邪は経絡の流れを阻害します。

経絡とは気と血の流れ道と思ってください。
経絡のうち体を縦に流れる太いものを経脈といい、12本の正経十二経脈(左右にあるので正確には24本)と、経脈から枝分かれした細い8本の奇経八脈があります。
経絡
気や血は経絡を通って全身を循環し、全身に栄養を行きわたらせ、また五臓六腑と体の各器官をつなぎ、その機能を整えます。
気・血の通り道になる経絡ですが、外邪の侵入を許すと、外邪の通り道にもなってしまうやっかいな性質があります。
寒邪は特に少陽経に侵入しやすく、少陽経は三焦を循環するため、結果として津液の循環が悪くなります。
※三焦は五臓にまたがって津液を循環させています。東洋医学の理論① 五行説、五臓六腑の記事を読み返してください)

腎への津液の循環が悪くなることで膀胱で不要な水が排泄されにくくなるため、尿量の減少や浮腫を起こします。また上半身で津液の循環が悪くなると口喝を起こします。

津液は体を冷やす作用があるため、津液の循環不良により体の各臓器が熱を持つようになります。
少陽経は胆も循環しているため、津液の循環が悪くなることにより胆肝が熱を持つようになります。熱をもった胆肝は脾胃の働きを低下させてしまい、結果として悪心・嘔吐、下痢を起こすことになります。(五行説を確認してみて下さい)
五行説
柴苓湯に含まれる茯苓は脾胃の機能を高める補益剤です。柴胡は胆肝を冷やし、また三焦の働きを改善します。猪苓は腎、膀胱の機能を高めます。黄芩は清熱作用が強いです。これらの作用により柴苓湯の適応が以下のようになっているのは理解できたと思います。
「吐き気、食欲不振、のどのかわき、排尿が少ないなどの次の諸症:水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ」

さて柴苓湯本来の説明は終わりました。

今回は緑内障に用いられたケースです。
緑内障の病態について確認してみましょう。眼房水が毛様体上皮細胞で産生され、シュレム管やぶどう膜強膜などから排出されます。この過程で眼房水が上手く排出できず眼圧が上がり、結果として視神経が障害されるのが緑内障です。
眼房水がどのようにできているのか、またどのように排出されているかは厳密なメカニズムはまだわかっていません。
ここで柴苓湯の働きを確認してみましょう。柴胡や猪苓やその他多くの生薬により水の循環や代謝が改善させる効果を持ちます。
眼房水にもその効果は及ぶようです。実際に柴苓湯が緑内障に有効とした論文は存在します。
今回紹介した患者さんも眼圧低下のメインはミケランLA点眼液でしたが、それだけでは不十分なので、眼房水の代謝に効果の期待できる柴苓湯を併用しているわけですね。

患者さんも「何で薬情に水様性下痢に効くと書いてある漢方がいいの?」と思っていたようですが、「この漢方は体の水の代謝を良くし、眼の水の流れもスムーズにしてくれます。そのため眼に水が溜まらなくて眼圧を下げる効果が期待できます」と説明し、理解してもらえました。漢方は理解するのが本当に難しいです。今回のようないい事例があったら紹介し、読者の方にメカニズムをなるべく分かりやすく説明できるよう頑張ります。

記事が良かったと思ったら、ランキングの応援お願いします。

1

コメント

タイトルとURLをコピーしました