ヒヤリ・ハット分析 心筋梗塞の既往歴患者にトリプタン系薬物が処方

ヒヤリ・ハット

公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の事例でいい事例がありました。薬歴に患者既往歴がキチンと記録されていて、それにより事故を未然に防げた事例です。もし見落としていたら大きな事故になっていたかもしれません。今回はこの事例を共有して同様の事故の未然防止に役立ててもらい、またトリプタン系薬物の他の禁忌についても知ってもらいたいと思います。

【事例の詳細】
当薬局を利用している80歳代の患者が片頭痛のため医療機関を受診し、ロキソプロフェン錠60mg、レバミピド錠100mg、レルパックス錠20mgが処方された。処方監査を行った薬剤師は薬局で管理している薬剤服用歴を見て、併用薬にエフィエント錠3.75mg、既往歴に心筋梗塞の記載があることを確認した。レルパックス錠20mgは心筋梗塞の既往歴がある患者に禁忌であるため、処方医に疑義照会を行った結果、薬剤が削除になった。

【推定される要因】
片頭痛治療薬を処方する際、処方医は患者の症状に意識が向き、患者の基礎疾患や既往歴を見落とした可能性がある。

【薬局での取り組み】
患者に新たに処方された薬剤を調剤する際は、併用薬だけでなく、患者の疾患・既往歴も確認する。

今回の事例を振り返るにあたって、まずは虚血性心疾患についておさらいしましょう。
虚血性心疾患は心臓に栄養を与える冠動脈が何らかの影響で狭窄、閉塞してしまう事により、心臓に十分な血液が運ばれず心筋が虚血になってしまう病態です。

冠動脈の狭窄、閉塞の主な原因として動脈硬化や攣縮などがあります。※攣縮 痙攣様の収縮
これらの原因による心筋の虚血が一過性であるものを狭心症持続し心筋が壊死する状態のものを心筋梗塞といいます。なお心筋梗塞は冠動脈のプラーク(動脈硬化巣)が破裂し血栓が形成し、血栓性閉塞を起こしてしまう事により発症します。

さて虚血性心疾患、心筋梗塞の病態について分かったところで、今回のレルパックス®について見てみましょう。
レルパックス®はトリプタン系薬物といい、片頭痛治療薬です。トリプタン系薬物はセロトニン5-HT 1B/1D受容体を刺激します。5-HT1受容体にはいくつかのサブタイプがありますが、いずれもGi共役型受容体です。アデニル酸シクラーゼを抑制するのでcAMPの産生を抑制し、平滑筋を収縮させます。(逆にGs共役型は平滑筋を弛緩させますね)
このように血管を強く収縮させる効果があり、これにより片頭痛の発作を治療します。
また5-HT1D受容体を刺激することで三叉神経からのサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の分泌を抑制し、これらによる脳血管の拡張、神経原性炎症を抑制します。
※詳しくはこちらの記事もご覧下さい ⇒ エムカルディ皮下注

さてトリプタン系薬物を虚血性心疾患の患者に使うとどうなるでしょうか?虚血性心疾患は冠動脈の狭窄や攣縮によって心筋が虚血になった状態です。これに血管収縮作用のある薬物をもちいると当然悪化させます。狭心症の場合なら最悪、心筋梗塞に移行しかねません。
トリプタン系薬物は脳血管に選択的に作用しますが、あくまで「選択的」であり特異的ではありません。そのため冠動脈や末梢血管も収縮させてしまいます。
ここでレルパックス®の添付文書を確認しておきましょう。禁忌の内容は以下のものがあります。

いずれも血管収縮作用により悪化する病態です。今回の事例では患者に心筋梗塞の既往歴がありましたが、狭心症患者でも禁忌となります。脳血管障害の既往歴(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)も当然禁忌となり、末梢血管障害(閉塞性動脈硬化症やバージャー病などの末梢動脈疾患など)も禁忌となります。高血圧症もコントロールされていなければ禁忌です。このことから血管収縮効果がいかに強いかが分かりますね。

最後に、これらの禁忌を見落とさないようにするためには患者の現疾患、既往歴を忘れずに薬歴に記載しなくてはなりません。薬同士でみても併用禁忌にはならないからです。
(今回のレルパックス®と併用薬のエフィエント®は併用禁忌ではありません。あくまで疾患に対して禁忌です)
※同様に併用薬から疾患を推測し、禁忌を未然に防いだ事例が過去にあります ⇒ ヒヤリ・ハット分析 深部血栓塞栓症の患者にエビスタが処方
SOAPに書くのだけではなく、頭書きにも書きましょう。また今時どの電子薬歴も強調文字や背景色くらいは出せますよね?重要なものに関しては強調文字と背景色もつけて確実に見落としが無いようにしましょう。投薬に行く前に薬歴は見ると思いますが、表紙の頭書きに色付きで書いてあれば見落とし辛いですよね?患者の疾患を把握しておくことはとても大切です。併用薬をチェックするのと同じように、現病歴、既往歴も忘れずにチェックする習慣を付けましょう。

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