コララン錠

循環器系の薬

※以前に書いた記事が消えてしまったので再アップします。既に読んだ方はご了承ください

先日うちの薬局にコララン®錠の投与制限が解除されたとのお知らせが届きました。うちでは扱ったことがなかった薬なので、この機会にコララン®錠について勉強しました。今回の記事ではコララン®錠について解説したいと思います。
コララン®錠は有効成分をイバブラジンといい、慢性心不全の治療薬です。慢性心不全治療薬は今まではβ遮断薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬などが用いられてきました。これらの慢性心不全治療薬は基本的には心負荷を減らすことを目的とし、β遮断薬では心拍出量の低下、ACE阻害薬、ARBでは血圧低下による心臓の後負荷の低下、心保護作用、利尿剤では循環体液量の減少による心臓の前負荷の低下などを行ってきました。

今回のイバブラジンは今までと異なった作用機序で慢性心不全を抑制します。
⇒洞結節にあるHCNチャネルを阻害し、心拍出量を低下させることにより心負荷を軽減します。
今回の記事はイバブラジンの作用機序に関する内容を多めに解説していきます。

まずは洞結節についておさらいしましょう。
心臓は右心房上部に存在する洞結節という部位で自発的に興奮が生じ、それが心臓内を伝わることにより心房・心室が収縮、拡張します。

洞結節において自発的に興奮が生じ、心房が収縮。⇒ 洞結節で生じた興奮が洞房結節に伝わる。(心房は弛緩)⇒ 洞房結節の興奮がヒス束、プルキンエ線維を通って心室筋に伝わる。(心室が収縮)⇒ その後心室筋は弛緩

この一連の流れの一番初めである洞結節の興奮について見てみましょう。
①洞結節においてCaチャネルが開口することによって脱分極します(第0相)。この時の電流をCa電流(Ica)といいます。
②その後Caチャネルが閉じ、Kチャネルが開口することにより再分極します(第3相)。この時の電流をK電流(Ik)といいます。
③その後細胞外から細胞内にNaイオンなどの陽イオンが流入することによって、再び緩徐な脱分極が起きます(第4相)。この時の電流をペースメーカー電流、又は過分極活性化陽イオン電流(If)と言います。

洞結節はこの繰り返しで自発的興奮を繰り返しているのですが、イバブラジンはこのIfを阻害することによって、洞結節の活動電位を遅らせています。

Ifが生じる際にHCNチャネルというものが関与しています。
HCNチャネルは正確には過分極活性化環状ヌクレオチドチャネルといい、細胞膜が過分極することによって開口する非選択的陽イオンチャネルです。第3相において膜電位が静止膜電位にまで下がるとHCNチャネルが開口し、再び脱分極を生じるわけです。HCNチャネルはいくつかのサブタイプがありますが、イバブラジンは主にHCN4チャネルを阻害するようです。

ここまでの説明でお分かりだと思いますが、イバブラジンは洞結節での活動電位を遅らせることにより、心拍数を低下させます。心室筋には作用しないため、心拍出量や血圧には影響しません。(ただし高度の低血圧患者には血圧低下の恐れがあり、禁忌になっています)
コララン®錠の適応は以下のようになっています。

「洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全。ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

この事から分かるように、コララン®錠は慢性心不全に対するファーストチョイスではないようです。標準的な治療をしてなおかつ心拍数が高い患者に用いることになっています。コララン®錠の特徴を他にも見てみましょう。

・併用禁忌の薬が多い
イバブラジンはCYP3A4で代謝されます。そのためCYP3A4を阻害する薬とは併用禁忌になっています。併用禁忌の薬は以下のものがあります↓

リトナビル含有製剤、ジョサマイシン、イトラコナゾールクラリスロマイシン、コビシスタット含有製剤、インジナビル、ボリコナゾール、ネルフィナビル、サキナビル、テラプレビン、ベラパミル、ジルチアゼム

いずれもCYP3A4を強く阻害する薬物です。これによりイバブラジンの代謝が阻害され、血中濃度が上昇し、効果が強く出てしまう事になります。特にクラリスロマイシンは風邪などでも多く処方されるので注意が必要ですね。なおベラパミル、ジルチアゼムはCYP3A4阻害作用は他の薬物に比べて弱いですが、それ自体が心拍数を下げる効果もあるので、イバブラジンの代謝阻害、薬力学的な効果増強の2つの意味で併用禁忌なっています。CYP3A4阻害作用が中等度のフルコナゾール、グレープフルーツジュースなどは併用注意です。

・注意すべき副作用は徐脈
作用機序が心拍数を低下させるものなので、当然徐脈が起きるリスクがあります。添付文書をみると副作用の中で最も多く、8.0%の頻度で生じます。そのため「洞不全症候群、洞房ブロック又は第三度房室ブロックのある患者」では禁忌となっています。
※徐脈の次に多い副作用は光視症です車の運転には注意が必要ですね。

以上コララン®錠について書いてみました。コララン®錠は心拍数のみを下げるといった、一見変わった治療薬ですが、心不全の悪化による入院数を下げるとされています。今までは生命予後の改善を目的とした治療でしたが、これに新たにQOLの改善を目的とした治療が追加になったことによって、治療目的の選択肢を増えました。新たな治療概念が生まれたことにより、心不全の治療が今後も変わっていくかもしれません。

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