SGLT2阻害薬の慢性腎臓病、1型糖尿病への使用

内分泌・代謝性疾患の薬

前回の記事の最後の方に、フォシーガ®錠が1型糖尿病、慢性腎臓病に適応を持っていることを書きました。前回の記事では書ききれなかったので、SGLT2阻害薬が1型糖尿病と慢性腎臓病に効果をしめす理由を考察したいと思います。

まず1型糖尿病についておさらいしましょう。糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。
・1型糖尿病
インスリンの欠乏によるものです。先天性のものや、自己免疫疾患、感染症、事故などによって膵臓の機能を失うことにより発症します。インスリンが欠乏しているので、治療にはインスリン注射が不可欠となります。
・2型糖尿病
インスリンの分泌不全や、インスリンの抵抗性によって生じます。つまりインスリンが出にくい、または効きにくいといった状態です。遺伝的な影響もありますが、生活習慣による影響も大きいのが特徴です。

さてここで糖尿病治療薬の働きについて一通りみてみましょう。下図に一通りの薬を示しました。

SU剤やDPP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬は最終的にインスリン分泌を促進していることが分かります。そのためインスリンが欠乏している1型糖尿病には使えません。
その他の薬についてはインスリン分泌と関係なく働きます。そのためこれらは1型糖尿病に有効な可能性がありますね。
実際のところはビグアナイド薬(メトホルミンなど)、チアゾリジン薬(ピオグリタゾンなど)は1型糖尿病に適応はありません。作用機序からすれば有効に見えますが、実際には有効性が確認できなかったのかもしれません。
αグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボースなど)の適応は「糖尿病の食後過血糖の改善」となっています。インスリン注射との併用で1型糖尿病にも使用が可能です。
さて今回の記事のSGLT2阻害薬はグルコースの再吸収を阻害するので、その働きはインスリンとは関係ありません。そのため1型糖尿病に有効なはずです。SGLT2阻害薬は発売当初は2型糖尿病だけでしたが、2018年12月にスーグラ®錠が、2019年3月にフォシーガ®錠が1型糖尿病への適応が追加されました。その他のSGLT2阻害薬は1型糖尿病に適応はありませんが、いずれ他の薬も使えるようになると思われます。
ただし スーグラ®錠、フォシーガ®錠 ともに「あらかじめ適切なインスリン治療を十分に行った上で、血糖コントロールが不十分な場合に限ること。」とされており、また「本剤はインスリン製剤の代替薬ではない。インスリン製剤の投与を中止すると急激な高血糖やケトアシドーシスが起こるおそれがあるので、本剤の投与にあたってはインスリン製剤を中止しないこと。」とも書かれています。あくまで1型糖尿病の治療はインスリン注射であることは変わりません。しかしSGLT2阻害薬との併用で、インスリンの使用単位を下げることは可能となります。


次に慢性腎臓病について学びましょう。
慢性腎臓病(以下CKD)は様々な疾患や加齢が原因となって、腎機能が慢性的に低下し続けている全ての腎臓病の総称です。CKDの原因となる疾患には高血圧、糖尿病、膠原病などがあります。またNSAIDsの長期使用や腎毒性のある抗菌薬などが原因となることもあります。

診断基準としては下記の①または②のいずれか、またはその両方が3ヶ月以上続いた状態です。
①尿検査、血液検査、画像診断などで腎障害が明らかである
(特に尿タンパク/尿クレアチニン>0.15以上、尿アルブミン/尿クレアチニン>30)
②GFRが60(mL/min/1.73m2)未満
※GFRについては過去記事をご覧ください ⇒ 腎機能の検査値① クレアチニン、eGFR

CKDの重症度は日本腎臓病学会がCKD診療ガイド2012を発表しています。

CKDの重症度を原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)、尿タンパク(アルブミン尿:A)によって分類します。
※タンパク尿区分では糖尿病ではアルブミン尿、それ以外では尿タンパクを用います。
 尿タンパクについてはこちらの記事をご覧ください ⇒ 尿タンパク

リスクは緑⇒黄色⇒オレンジ⇒赤の順に高くなり、赤に近づくにつれ、末期腎不全・心血管疾患発症、死亡のリスクが高くなります。
例えば原因疾患が糖尿病でGFRが50、尿アルブミン/Cr比が200の場合は、糖尿病G3aA2と表記します。

ここまでで慢性腎臓病について何となく分かったと思うので、SGLT2阻害薬の腎臓に対する働きをみてみましょう。

SGLT2阻害薬は血糖降下作用とは関係なく腎保護作用を有することが判明しています。
具体的な作用機序までは明らかになっていませんが、様々な文献の情報を総括すると
近位尿細管でナトリウムの再吸収を阻害⇒遠位尿細管に到達するナトリウムの増加⇒糸球体フィードバックの抑制⇒糸球体内の圧力が低下⇒アルブミン尿の抑制、腎肥大を抑制⇒腎保護
といった流れです。
※糸球体フィードバックとは遠位尿細管のナトリウム量によって糸球体濾過を調節する機構です。ナトリウム量が少ないと糸球体濾過が亢進されます。

またSGLT2阻害薬は糖尿病による腎機能の悪化を抑制することも報告されています。
糖尿病患者は尿中に排出されるグルコースの量が多いため、再吸収される量も必然的に多くなります。これに多くのエネルギーを消費し、酸素の消費も多くなります。SGLT2阻害薬はグルコースの再吸収を阻害することで、結果的に腎臓のエネルギー消費を抑え、腎機能の低下を抑制されると考えられています。

ここまでの説明でSGLT2阻害薬が1型糖尿病、慢性腎臓病に有効な理由は分かったでしょうか?
現在1型糖尿病、慢性腎臓病に適応をもっているSGLT2阻害薬はフォシーガ®錠だけです。
※ジャディアンス®錠と同様に慢性心不全にも有効です

最後にフォシーガ®錠の使用における注意点を確認しておきましょう。
添付文書では1型糖尿病および2型糖尿病に関連する注意に下記の記載があります。
「重度の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の血糖降下作用が期待できないため、投与しないこと。」
「中等度の腎機能障害のある患者では本剤の血糖降下作用が十分に得られない可能性があるので投与の
必要性を慎重に判断すること。」
SGLT2阻害薬は尿からのグルコースの再吸収を阻害することで効果を発揮します。そのため腎機能が著しく低下し、尿の生成が正常に行われていない状態では効果が期待できません。

eGFRが継続的に45(mL/min/1.73m2)未満に低下した場合は効果が十分に得られない可能性があるとされています。(eGFR<45は中等度腎機能低下になります)

慢性腎臓病に関連する注意事項では
「eGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性があること、本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化するおそれがあることから、投与の必要性を慎重に判断すること。」
との記載があります。eGFR<25は重度腎機能低下です。あまりにも腎機能がした状態では腎保護作用が得られないようです。添付文書の「効能又は効果」にも「慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。」と書かれています。

以上SGLT2阻害薬の1型糖尿病、慢性腎臓病に関する有効性について書いてみました。
先述したように現在1型糖尿病、慢性腎臓病、さらに慢性心不全に有効なSGLT2阻害薬がフォシーガ®錠だけですが、これをジャディアンス®錠が追いかけている感じですね。さらに海外ではカナグル®錠も慢性腎臓病にたいする承認を取得しています。SGLT2阻害薬は思っていたよりずっと大きな可能性を秘めています。今後もどんどん適応が承認され、使用量が増えていくでしょう。

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