ジャディアンス錠 慢性心不全での使用について

内分泌・代謝性疾患の薬

11月25日にジャディアンス®錠が慢性心不全の治療にも用いられるようになりました。これを機に新規に採用したり、在庫を増やす薬局も増えてくるかもしれません。またその他のSGLT2阻害薬も追随してくるかもしれません。今回はSGLT2阻害薬と慢性心不全について学び直し、理解を深めていただきたいと思います。

ジャディアンス®錠の有効成分はエンパグリフロジンといい、SGLT2阻害薬です。まずSGLT2阻害薬についておさらいしましょう。

SGLT2阻害薬は腎尿細管での糖の再吸収を抑制する糖尿病治療薬です。
近位尿細管ではSGLT2という輸送体によってグルコースが再吸収されています。
SGLTとはsodium glucose cotransporterの略であり、日本語ではNa⁺グルコース共輸送体といいます。Na⁺が濃度の高い方から低い方へ流れる力を駆動力として、グルコースをNa⁺と同じ方向へと運びます。
SGLTにはいくつかのサブタイプがありますが近位尿細管にはSGLT1とSGLT2が存在します。なかでもSGLT2が90%以上を占めるので、このSGLT2を阻害することによりグルコースの再吸収が阻害され、結果として血糖値が下がるわけですね。

SGLT2阻害薬のおさらいが終わったので、次は慢性心不全について確認してみましょう。
心不全とは一言でいうと、心臓の機能低下により全身に十分な血液を送ることが出来なくなった状態です。

急激に起こった状態を急性心不全、長期間にわたって徐々に進行している状態を慢性心不全といいます。
慢性心不全の治療は心臓の負荷を軽減することを目的とします。主な治療薬には以下のようなものがあります。

ACE阻害薬、ARB⇒末梢血管抵抗の軽減、心保護作用
β遮断薬⇒心収縮力、心拍数の低下
利尿薬⇒循環体液量の低下

上記のいずれも結果として心負荷を軽減します。さて、先ほどのSGLT2阻害薬の働きを振り返ってみましょう。近位尿細管のSGLT2を阻害することによりグルコースの再吸収を阻害します。ここで再度確認してほしいのが、SGLTとはNa⁺グルコース共輸送体ということです。グルコースとナトリウムが一緒に輸送するタンパク質です。これを阻害するので、ナトリウムの再吸収も一緒に阻害されます。過去の記事(サムスカ錠を今一度おさらい)でも書いたように、ナトリウムは尿の浸透圧に最も大きく影響します。
グルコースと一緒にナトリウムの再吸収が阻害されることによって、尿の浸透圧が上昇し尿量が増加します。そのため副作用として多尿や脱水があげられるのですね。

つまりSGLT2阻害薬により利尿が促され、循環体液量が低下します。循環体液量が低下することによって、心臓への負担が軽減し、慢性心不全の進行を遅らせるわけですね。

SGLT2阻害薬の慢性心不全への有効性が分かったところで、ジャディアンス®錠について詳しく見てみましょう。

・適応、用法用量について

適応は2型糖尿病と慢性心不全の2種類です。
慢性心不全は「ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」との但し書きがついています。つまり慢性心不全の第一選択薬にはなりません。他の治療法を受けている患者に併用薬として用いられるわけですね。
また注意書きとして「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。」とあります。左室駆出率とは左心室の収縮力をさします。血液は左心室から全身に送り出されるので、全身に血液を送り出す力のことですね。左室駆出率が保たれている患者の入院リスクを低下させた試験結果もあるようですが、現在は適応には記載されていません。いずれ追加されることになると思います。

用法用量は慢性心不全には「10mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与」となっています。
2型糖尿病と慢性心不全を合併する患者においては、血糖コントロールが不十分な場合に血糖値の改善を目的として25mgに増量することができるとされています。但し書きとして「慢性心不全に対して本剤10mg 1日1回を超える用量の有効性は確認されていないため、本剤10mgを上回る有効性を期待して本剤25mgを投与しないこと。」とあります。つまり25mgに増量するのはあくまで血糖値を下げるためであって、慢性心不全の治療に使うなら10mgだけですね。

・飲水指導について
先述したようにSGLT2阻害薬はその作用機序から尿量を増やします。そのため脱水のリスクがあります。2型糖尿病の患者さんにはこまめに水分補給をするよう指導しなくてはなりません。しかし慢性心不全においてはもともと循環体液量を減らして心負荷を軽減させなくてはなりません。そのため過度の飲水は慢性心不全を悪化させることがあります。飲水指導はどうするかは医師へ相談としか記載がありませんが、基本的に脱水を起こさない程度の水分を摂ると考えてよいでしょう。

その他の副作用として効きすぎによる低血糖、尿中グルコース濃度の上昇による尿路感染症、グルコース排出によるエネルギー損失で生じる体重減少など、SGLT2阻害薬特有のものがありますね。この辺は糖尿病でも慢性心不全でも共通の指導事項になります。

ジャディアンス®錠の慢性心不全への適応追加は、フォシーガ®錠に続く2例目です。そのうち他のSGLT2阻害薬も続くでしょう。なおフォシーガ®錠においては2型糖尿病、慢性心不全の他に1型糖尿病、慢性腎臓病にも有効です。この辺についても別の記事で近いうちに紹介したいと思います。

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