アバスチン点滴静注での副作用

癌の薬

先日私のかかりつけの患者さんで副作用がありました。この事例で多くの事が学べるので紹介したいと思います。

直腸癌の患者さんで、過去に直腸癌の治療をしていましたが一度治癒しました。しかし数年後に再発し、また私にお世話になりたいと言ってきて下さり、現在もかかりつけ薬剤師として対応させて頂いています。その方の治療内容は病院でアバスチン®を点滴し、院外処方箋でゼローダ®錠を処方されます。

まずはアバスチン®についておさらいしましょう。
アバスチン®は有効成分をベバシズマブといい、抗VEGF抗体(VEGFに対するヒト化モノクロナール抗体)です。癌細胞はVEGFという血管内皮増殖因子を分泌し、血管新生を促進します。これにより栄養素を大量に得て、過剰な増殖をするわけです。
ベバシズマブはVEGFに結合し、その作用を阻害することによって癌細胞の血管新生を阻害します。よくベバシズマブは「癌細胞を兵糧攻めにする」と表現されることがありますが、まさにその通りですね。
アバスチン®はそれ単体では癌細胞に対する効果はなく、必ず他の化学療法薬と併用します。私の患者さんの例ではゼローダ®錠を併用していますね。

アバスチン®と化学療法剤との併用は極めて効果が高く、治療を開始してから直腸癌の腫瘍マーカーであるCEAは一気に下がってきました。最初のころはアバスチン®とオキサリプラリン®を点滴していましたが、途中からアバスチン®だけでよくなりました。そんな状態で2年ほどが経過しました。

そんなアバスチン®でも当然副作用はあります。
この患者さんは尿タンパクが増加しました。血管新生を阻害するのは当然正常細胞でも起こります。特に腎臓の毛細血管で起こりやすく、ほとんどの例で尿タンパクの出現を認めます。
この患者さんは当初から尿タンパクの出現があり、2+でした。
尿タンパクは-、±、+、2+、3+、4+があります。先日ずっと2+だったのが3+になりました。あまり進行するとネフローゼ症候群を起こし、アバスチン®を中止せざるを得ないので、1回休薬することになりました。来月受診時に検査して、それによってアバスチン®を再開するか、もうしばらく休薬するか判断するそうです。

血管新生阻害薬による尿タンパクに対する治療は確立されていないので、定期的に検査し、早期発見するしか方法がありません。もちろんこの患者さんも受診の度に検査しています。
次回来局時に結果を聞かせてもらいますが、尿タンパクが改善し、また治療が再開できることを祈っています。

ちなみにベバシズマブなどの血管新生阻害薬は高血圧も起こします。
血管内皮増殖因子であるVEGFを阻害するので、血管内皮細胞から血管拡張因子のNOの分泌阻害起こることなります。その結果血圧上昇が起こるわけですね。
この患者さんでも血圧上昇が起きましたが、カンデサルタン(8)が処方されました。ARBは腎保護作用があり、カンデサルタンは腎実質性高血圧にも適応があることを考えれば、カンデサルタンが処方されたのは最適と言えます。カンデサルタン(8)を服用するようになってから、血圧は正常値を維持しています。

患者さんに寄り添っていく過程で学べることは沢山あります。この患者さん1人からでもこれだけ多くの事を学べます。癌や慢性心不全、認知症などいろいろ不安になりやすい疾患の患者さんにはこのように寄り添って一緒に学び、得られた知識を還元していくスタイルは今後も続けたいと思います。

記事が良かったと思ったら、ランキングの応援お願いします。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました