ヒヤリ・ハット分析 深部血栓塞栓症の患者にエビスタが処方

ヒヤリ・ハット
少し前のものになりますが、公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の事例で記事にしようと思っていたものがありました。私の薬局でもエビスタ®も抗凝固薬も沢山処方されるので、うっかり見落とさないよう再確認する意味を含めて、事例の紹介、分析をします

【事例の詳細】
深部静脈血栓症の治療および再発抑制のためエリキュース錠を服用していた患者に、整形外科からエビスタ錠60mgが処方された。エビスタ錠60mgは深部静脈血栓症のある患者に禁忌であるため、処方医に疑義照会を行った結果、薬剤が削除になった。

【推定される要因】
患者は、複数の病院の整形外科、循環器内科、内科に通院していた。患者はエリキュース錠を服用していることを整形外科の医師に伝えていなかった。

今回の事例の分析をするにあたって、まずはラロキシフェンについておさらいしておきましょう。
ラロキシフェン(エビスタ®)は閉経後骨粗鬆症の治療薬です。女性の閉経後のエストロゲンの低下による骨代謝のバランスが崩れたものを正常に戻す作用があります。
破骨細胞においてはエストロゲン受容体にアゴニスト作用を示し、エストロゲンと同様に骨吸収を抑制するのに対し、乳腺や子宮においてはエストロゲン受容体にアンタゴニスト作用を示します。そのため選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)と呼ばれています。

閉経後骨粗鬆症に対して優れた効果を示す一方、血栓塞栓症の副作用が問題となります。
エストロゲンは血液凝固系を活性する作用があり、血栓を生じやすくなります。エストロゲン製剤(黄体ホルモン含有製剤含む)はほとんどが副作用に血栓塞栓症があります。
月経困難症治療薬のヤーズ®、ルナベル®や低用量ピルなどが該当しますね。そして喫煙により血栓のリスクが上昇します。
エストロゲン製剤は閉経後骨粗鬆症に適応がありますが、血栓塞栓症の副作用により、最近ではあまり使わなくなりました。変わってSERMが用いられることがほとんどです、SERMはエストロゲン製剤に比べて血栓塞栓症のリスクは極めて少なくなっています。しかしそれでもエストロゲン様作用がある以上、血栓塞栓症のリスクはあるので、静脈血栓塞栓症の治療中あるいは既往歴のある患者には禁忌となっています。
※今回のヒヤリ・ハットはラロキシフェンが処方されたケースですが、バゼドキシフェン(ビビアント®)でも同様ですね。

また体が動かせない状態にあると血栓ができるリスクが高まるので、「長期不動状態(術後回復期、長期安静期等)に入る3日前には本剤の服用を中止し、完全に歩行可能になるまでは投与を再開しないこと。」とされています。その他にも飛行機に長時間乗るなどの際には、足をこまめに動かして血流が滞ることを未然に防ぐことも大切です。
※静脈血栓塞栓症は手足に生じる場合を深部静脈血栓症といい、上半身より下肢に起きることが多いです。主な症状としては浮腫みや皮膚の変色、痛みなどが特徴的です。手足で生じた深部静脈血栓塞が剥がれて塞栓となり、肺動脈に詰まるケースがあり、これを肺塞栓症といいます。主な症状は呼吸困難や息苦しさ、胸痛です。

SERMと血栓塞栓症についての説明が長くなりましたが、今回のヒヤリ・ハットについて振り返ってみましょう。
今回は患者がエリキュース®を使用していたため、薬局側が血栓塞栓症と気づき、エビスタ®の使用が禁忌と判断したケースです。これは非常に素晴らしいことですね。ラロキシフェンとエリキュース®などの血液抗凝固薬は薬同士の相互作用はありません(ワーファリンはあり)。併用薬から患者の疾患を判断し、そこから処方された薬が禁忌と気づいた形になります。
一般的に抗血小板薬が動脈血栓の防止に、抗凝固薬が静脈血栓の防止に用いられます。エリキュース®、リクシアナ®、イグザレルト®などの抗凝固薬が処方された場合は、静脈血栓塞栓症を疑った方が良いでしょう。

※バイアスピリン®、プラビックス®、エフィエント®、プレタールOD®などの抗血小板薬は主にPCIやバイパス手術後の血栓の防止、動脈閉塞症の治療・再発防止に対して用いられます。PCIやバイパス手術は冠動脈に対して行われるので、抗血小板薬が用いられるわけですね。

調剤を行う際に併用薬や副作用歴、アレルギー歴は誰でもチェックしていると思います。しかし本来はそれだけでなく、服用している薬からその疾患を推定し、その疾患に対して処方薬が使用可能かも判断しないといけません。薬剤師は薬の勉強はしていても、疾患に対する勉強は足りないと思います。疾患についてはなるべくこのブログで紹介していきますので、日常の業務に役立てて下さい。

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