ヒヤリ・ハット分析 ミニリンメルトOD(25)の禁忌の見落とし

ヒヤリ・ハット

公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の事例を見ていたら、久しぶりに禁忌の見落としの事例がありました。中身を見ると私自身も同様の立場だったら見落としていたかもしれない事例でした。今回はこの事例を共有し、内容の確認をしたいと思います。

【事例の詳細】
レルベア200エリプタ30吸入用を使用中の70歳代の女性患者にミニリンメルトOD錠25μgが処方され、薬剤を交付した。その後、薬剤を交付した薬剤師は薬剤服用歴を確認した際に添付文書を見て、ミニリンメルトOD錠25μgの効能又は効果が男性における夜間多尿による夜間頻尿であること、レルベア200エリプタ30吸入用との併用が禁忌であることに気付き、疑義照会を行うべきであったことが分かった。

【推定される要因】
同成分のミニリンメルトOD錠60μg/120μg/240μgの添付文書には、効能又は効果に男性の記載はなく、併用禁忌となる薬剤の記載もない。ミニリンメルトOD錠25μgも同様であるとの思い込みがあった。知識不足と確認不足であった。

今回の事例ではミニリンメルト®について詳しく知っておけば防げそうですね。まずはミニリンメルト®についておさらいします。
ミニリンメルト®の有効成分はデスモプレシンといい、下垂体後葉ホルモンであるバソプレシンの誘導体です。この効果は抗利尿作用にあります。
バソプレシンはホルモンなので血中に存在します。ネフロンにおける集合管の近くの毛細血管を流れる際にバソプレシンV受容体に結合します。

バソプレシンV2受容体 はGs共役型受容体なので、アデニル酸シクラーゼの活性化⇒cAMPの増加⇒cAMP依存性プロテインキナーゼ(Aキナーゼ)の活性化が起こります。この活性化されたAキナーゼが集合管に存在する水チャネルを活性化し、尿細管からの水の再吸収が促進されます。これにより抗利尿効果が起きるわけですね。

バソプレシン誘導体であるデスモプレシンも当然水の再吸収による抗利尿効果を示すので、抗利尿剤として使われます。

次にデスモプレシン製剤であるミニリンメルト®について見てみましょう。
ミニリンメルト®はOD錠であり、規格は25μg、50μg、60μg、120μg、240μgがあります。当初は60μg、120μg、240μgが発売されましたが、低用量製剤である25μg、50μgが発売されました。
そして高用量製剤と低用量製剤では適応と併用禁忌が異なっているので注意が必要です。

60μg、120μg、240μgの適応は
・尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症(60μgを除く)
・中枢性尿崩症
です。 ※中枢性尿崩症はバソプレシンの欠乏による尿崩症です。

25μg、50μgの適応は
男性における夜間多尿による夜間頻尿
です。「夜尿症」ではなく「夜間頻尿」になっているところがミソですね。夜尿症は尿漏れ、いわゆるおねしょです。一方、夜間頻尿は頻繁にトイレに起きるといったイメージです。低用量になっており効果も緩徐であるため、夜尿症には用いられないのでしょう。
そして注意すべきは男性のみに適応があるということです。これは女性に全く効かないとかではなく、有意差が見られなかったためとされています。海外では女性にも用いるようです。しかし保険調剤をおこなっている以上、女性に調剤してはダメですね。

次に併用禁忌について見てみましょう。
60μg、120μg、240μgには併用禁忌はありません。しかし25μg、50μgではチアジド系利尿薬・類似薬、ループ利尿薬、副腎皮質ステロイド剤が併用禁忌になります。

利尿薬との併用はいずれも低ナトリウム血症が発現する恐れがあるからです。デスモプレシンは水分の再吸収促進により血中電解質濃度が下がります。またチアジド系利尿剤・ループ利尿剤はいずれもナトリウムの再吸収を抑制し、血中ナトリウム濃度を低下させます。そのため併用すると低ナトリウム血症のリスクが上がるためですね。

ステロイドとの併用も低ナトリウム血症が起こりやすいためとされています。これの作用機序はまだ不明のようです。ここで注意しなくてはならないのが、注射薬や経口薬だけでなく、吸入薬、注腸薬、坐剤が含まれるということですね。吸入ステロイドは見落としやすいので気を付けなくてはなりません。実際にアドエアやシムビコートなどの添付文書には併用禁忌にミニリンメルト®は記載されていません。※なお塗布薬や貼付剤は併用禁忌ではありません。

上記をみて不思議なことがあります。同じ成分、同じ剤形なのになぜ低用量の25μg、50μgだけが併用禁忌なのでしょう?これは高用量は主に小児で使用されるためとされています。低用量は主に高齢者に用いられるので特に低ナトリウム血症に注意が必要なのでしょう。高齢者ではうっ血性心不全の患者さんもいますからね。
低用量製剤、高用量製剤ともに、添付文書では警告の欄に
「デスモプレシン酢酸塩水和物を夜尿症に対し使用した患者で重篤な低ナトリウム血症による痙攣が報告されていることから、患者及びその家族に対して、水中毒(低ナトリウム血症)が発現する場合があること、水分摂取管理の重要性について十分説明・指導すること」
と記載されています。高用量製剤も併用禁忌ではないとはいえ、低用量製剤と同様の注意が必要と言えるでしょう。

以上ヒヤリ・ハットを振り返ってみました。
同じ中身なのに量によって併用禁忌が違ったり、内服薬と吸入薬の併用禁忌があったりと、現場で確実に防ぐのは難しいですね。いい再発防止策をご存知の方がいらっしゃったらコメントやメールをくれると嬉しいです。

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