ダーブロック錠

血液系の薬

2021年9月よりダーブロック®錠の投薬期間制限が解除されました。これを機に今まで採用していなかった薬局でも取り扱うところが増えるかもしれません。今回はダーブロック®錠について詳しく解説してみようと思います。

ダーブロック®錠の有効成分はダプロデュスタットといい、腎性貧血の治療薬です。
貧血とは赤血球が不足した状態です。まず赤血球ができるメカニズムについておさらいしましょう。
赤血球は下図のように骨髄から産生された造血幹細胞が分化することによって生成されます。

この過程で何らかの原因で赤血球の分化・成熟が阻害されることで貧血が生じます。
一通りの貧血の原因を下図に示します。

今回のダプロデュスタットは貧血の中でも腎性貧血を改善します。
腎臓では酸素分圧が下がると造血因子であるエリスロポエチンを産生します。このエリスロポエチンが赤芽球前駆細胞と前赤芽球の赤芽球への分化、成熟を促進します。
このエリスロポエチンの産生が腎機能の低下に伴って減少してしまう事により、起きる貧血が腎性貧血です。

エリスロポエチンが産生されるメカニズムを少し詳しく見てみましょう。
血中の酸素分圧が低下するとHIF(hypoxia-inducible factor:低酸素誘導因子)という転写因子が産生されます。HIFはDNAの転写領域に結合してエリスロポエチン等の産生を促進することになります。


HIFは低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)によって水酸化され、分解されます。
ダプロデュスタットはこのHIF-PHを阻害することによってHIFの分解を抑制します。これによってHIFによるエリスロポエチン産生が促進され、腎性貧血が改善されるわけですね。
このためダプロデュスタットはHIF-PH 阻害薬と呼ばれます。

ダプロデュスタットの作用について分かったことろで、ダーブロック錠の特徴について見てみましょう。

・服用方法が簡潔
ダーブロック®錠は1日1回、内服です。

これは腎性貧血治療薬の中では画期的なことです。エリスロポエチン製剤(エスポ―®、エポジン®、ミルセラ®など)やダルベポエチン製剤(ネスプ®)は注射剤です。エリスロポエチンはタンパク質なので内服は不可であり、注射剤になるのは仕方ありません。しかしHIF-PH阻害薬は間接的にエリスロポエチンの産生を促進するので内服が可能になりました。

・最も注意すべき副作用は血栓塞栓症
これはダーブロック®錠に限らず、他のHIF-PH阻害薬、エリスロポエチン製剤などでも共通です。赤血球を増加させる関係で、どうしても血液がドロドロになり血栓塞栓症が起こりやすくなります。
どの製剤も添付文書の「警告」に「本剤投与中に、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓等の重篤な血栓塞栓症があらわれ、死亡に至るおそれがある。」と記載されています。患者の状態をキチンとモニタリングしながら使う必要があるでしょう。
他にも赤血球が増えることによって高血圧を生じることもあります。

・血管新生による副作用の恐れあり
HIFはエリスロポエチンの転写を促進しますが、他にも様々なタンパク質の転写を調節します。その中の1つに血管内皮細胞増殖因子(VEGF)があります。
※VEGFについては過去に記事も参考になると思います。読み返してみて下さい。
アバスチン点滴静注での副作用

これは血管新生を促進します。VEGFの産生が亢進されることで悪性腫瘍が増悪する可能性や、眼の血管新生の亢進により網膜出血を起こしやすくなる可能性もあります。そのため悪性腫瘍、増殖糖尿病網膜症、黄斑浮腫、滲出性加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症等を合併する患者は注意が必要とされています。ただしこれらはあくまで可能性があるだけです。今後多くのデータが集まれば明らかになるでしょう。

以上ダーブロック®錠の働きや特徴について書いてみました。
HIF-PH阻害薬には他にもバダデュスタット(バフセオ錠®)、モリデュスタット(マスーレッド®錠)、エナロデュスタット(エナロイ錠®)、ロキサデュスタット(エベレンゾ®錠)があります。これらについても機会があれば書いてみたいと思います。
しかし薬物治療の進化も目覚ましいですね。常に勉強していかないとあっという間に知らないことだらけになってしまいそうです。

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