糖尿病とアシドーシス

薬歴を書く際にハイリスク薬では、副作用の有無をしっかり確認し記録に残す必要があります。特に糖尿病治療薬の場合は低血糖や浮腫、腹部膨満感など様々な副作用があります。その中でアシドーシスの症状がないかの確認も必要だと思われます。アシドーシスは薬の副作用で起こることもあれば、糖尿病そのもののコントロール不良でも生じます。しかしアシドーシスについて知っている薬剤師はかなり少なかったです。今回はアシドーシスについておさらいしましょう。

血液のpHは約7.4に保たれています。

何らかの原因でpHが低下し酸性に傾いた状態をアシドーシスといいます。
血液中の酸塩基平衡は以下のように保たれています。
酸塩基平衡
肺からCOが十分に排出されなくなると血中にCO2が溜まり、結果としてH+が増加します。これを呼吸性アシドーシスといいます。
原因としては喘息や肺気腫、呼吸筋麻痺、麻酔薬の過量投与、その他脳血管障害などによる呼吸中枢の抑制があります。
症状としては頭痛、集中力低下、幻覚、眠気、重症化すると錯乱、痙攣、昏睡を起こします。
体内に酸性物質が増加する(Hが増加)ことによって生じる、または腎臓からHCO3-が過度に失われることによって生じるアシドーシスを代謝性アシドーシスといいます。
※HCO3-を補おうと上記の酸塩基平衡が右に偏る。結果としてH+が増加する
症状としては強い口喝、多飲、多尿から始まり、吐き気、嘔吐、倦怠感、重症化すると意識障害や昏睡を起こします。
初期のうちはアシドーシスを和らげようとして過呼吸になるのが特徴です。
今回は代謝性アシドーシスについて学んでいきたいと思います。
代謝性アシドーシスにはケトアシドーシス、乳酸アシドーシスなどがあります。
ケトアシドーシスは主にⅠ型糖尿病で起こります。
(Ⅱ型糖尿病でも重症化すると生じることがあります)
インスリンの絶対的な不足や、インスリン抵抗性の増加により血中の糖が細胞内に取り込めなくなるのが原因です。(飢餓状態と同じです)
細胞に糖が取り込めずエネルギーとして利用できないので、体は糖が足りていないのと錯覚し、脂肪細胞を分解し、遊離脂肪酸とグリセロールを産生します。
※脳はインスリン非依存的に糖を取り込めるので、脳に糖は足りている
グリセロールは糖新生に利用され、遊離脂肪酸はβ酸化しエネルギーを産生し、最終的にケトン体(アセトンやアセト酢酸など)ができます。このケトン体が酸性物質であり、アシドーシスの原因になります。
血中に増加したアセトンが肺で呼気に排出されるのでアセトン臭が生じることがあります。(甘酸っぱい香りみたいです)
アシドーシス
その他にも筋細胞ではタンパク質の分解が起こり、産生したアミノ酸が糖新生でグルコースになり、また肝臓に蓄えられたグリコーゲンもグルコースに分解されるので、さらに血糖値が上昇する悪影響を起こします。
乳酸アシドーシスは読んで字のごとく血液中に酸性物質である乳酸が異常に増加した結果、血液が酸性になってしまう事によるアシドーシスです。
糖新生はグリセロール、アミノ酸の他に乳酸からも糖が産生されます。
乳酸アシドーシスを起こす代表的な薬物はメトホルミンですね。メトホルミンは乳酸からの糖新生を抑制し血糖値を低下させます。しかしその結果、血中に乳酸が蓄積してしまいアシドーシスを起こすことがあります。
代謝性アシドーシスを見つけるには前駆症状として起こる口喝、多飲、多尿や強い倦怠感がないか、悪心・嘔吐などの消化器症状がないか沢山の所見を確認する必要があります。投薬時にそのようなケースは稀でしょうが、投薬後のフォローアップなどで患者の容態を確認する際に「のどが渇くことが多くないか」「強い疲れがないか」「気持ち悪くなっていたりしないか」などを聞いてあげるのもいいかもしれません。
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