イベルメクチンについて冷静に考えてみる

感染症の薬

最近SNSでイベルメクチンに対する期待が高まっています。「奇跡の治療薬」とか「これでコロナは終焉を迎える」などといったキャッチフレーズが溢れているので、期待するのも無理はありません。しかし専門家の人ならこういう時こそ自分の頭で考え、冷静な判断をして欲しいものです。今回はこのイベルメクチンについて解説します。

イベルメクチンは駆虫薬として開発され、2015年に大村智博士がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。商品名はストロメクトール®といい、線虫と疥癬の治療に用いられます。
※線虫とは細長い形をした線形動物の総称であり、植物に寄生したり、土壌にいたりと自然界のあらゆるところに存在します。イベルメクチンの治療の対象となるのは小腸に寄生する糞線虫です。
疥癬はビゼンダニによる皮膚感染症であり、激しい痒みを伴います。


イベルメクチンの作用機序について見てみましょう。
イベルメクチンは線虫の神経細胞のClチャネルを活性化することにより、動きを麻痺させるとされています。完全に解明されたわけではないので、シナプス前膜からGABAの放出を促進するという考えもあるようです。あるいはそのどちらかもしれません。いずれにせよ抑制性神経を活性化することにより、線虫やビゼンダニの動きを麻痺させ、殺傷するようです。
人間などの哺乳類に対しては中枢神経に浸透しません。これにより選択毒性を生じるわけですね。

イベルメクチンはウイルスに対しても効果があることは以前から言われていました。
HIVやインフルエンザ、デング熱などに効果があるようです。
ウイルスに対してはタンパク質を核内に移送するタンパク質と、mRNAによって作られたタンパク質を切り離して機能性タンパク質にする際の酵素を阻害するようです。

まだ解明されていないことが多いですが、ここまでの説明でイベルメクチンが寄生虫だけでなく、ウイルスに対しても効果を発揮する可能性があることは理解できたと思います。
新型コロナウイルスに対して特異的な作用を示すわけではないのですが、なぜここまで騒がれているのでしょう?
北里大学の花木秀明教授の論文で、ペルーでイベルメクチンを新型コロナウイルスの予防薬として配布した州で新規感染者と死亡者が一気に減少したことが発表されました。これが注目されて一気に拡散されたと思われます。
現在世界各国で臨床試験が行われていますが、期待度に関しては地域差があるようです。
東南アジアでは先述したように「奇跡の治療薬」と報道され、入手困難になっていたり、個人輸入する人も出てきています。一方アメリカでは回復を大幅に早める効果は見られなかったとする治験結果があります。WHOや米国感染症学会(IDSA)は新型コロナウイルスに対するイベルメクチンの使用を推奨していません。

以上を踏まえた上で個人的な考えを述べたいと思います。(あくまで個人的意見なのでご了承ください)
イベルメクチンについては「新型コロナウイルスに対して有効な治療薬となるかもしれない。ただし過度な期待はできない」です。理由としては

・新型コロナウイルスに対して特異的な治療薬ではない
様々はウイルスに対して効果を示すので、劇的な効果が期待できるのか疑問です。
レムデシビル(ベクルリー®)やファビピラビル(アビガン®)、バリシチニブ(オルミエント®)などが用いらてきましたが、いずれも他の疾患の治療薬を新型コロナウイルスに有効性があるとされ、使われました。現在死亡率が劇的に下がったという話はありません。イベルメクチンだけ劇的な効果を発揮するかというと疑問です。

・データが不十分
先述したように国や地域、また研究者によって意見が様々で十分な判断材料がありません。

・後遺症に対する効果はどうなの?
先述したようにイベルメクチンはヒトの中枢神経に移行しません(血液脳関門を通過しない)。これによる副作用が少ないメリットがあるのですが、これがデメリットとなる可能性もあります。
新型コロナウイルスの後遺症は様々なものが報告されていますが、その中に認知症や脳炎、気分障害なども挙げられています。これらがウイルスが脳に入ったことによるものだとしたら、中枢に移行して抗ウイルス作用を発揮してくれないのでは、これらの後遺症を防げないと思います。あくまで推測の域でしかないのですが、過度な期待をしない理由の1つです。

以上個人的な意見を書いてみました。
誤解してほしくないのですが、イベルメクチンそのものに関しては期待しています。
今までと異なる作用機序での治療薬です。(レムデシビル、ファビピラビルはRNAポリメラーゼ阻害薬、バシリチニブはJAK阻害薬、ロナプリープ点滴静注は抗体)
新たな作用機序の薬が追加されることによって、治療の選択の幅が広がります。また異なる作用機序の治療法を組み合わせることによって、治療効果が上がったり、死亡率を下げる可能性もあります。

現在北里大学がイベルメクチン誘導体を利用して新型コロナウイルス治療薬の開発プロフェクトを立ち上げています。早く新型コロナウイルスに対する承認を取って欲しいです。そしていい意味で私の期待を裏切って、新型コロナウイルスを恐れない世界を作って欲しいです。

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