釣藤散の処方例

漢方薬

先日うちの薬局で久しぶりに釣藤散が処方されました。患者さんは「頭が重くて、耳のあたりがボワーっとする」と訴えていました。この症状に釣藤散が処方されたのは適切だと思います。今回は釣藤散が処方される理由について書い悦したいと思います。

まず釣藤散の適応について見てみましょう。添付文書では「慢性に続く頭痛で中年以降、又は高血圧の傾向のあるもの」とされています。ほとんどの人が高血圧の人の頭痛に用いると解釈しています。間違ってはいないのですが、そもそも頭痛の原因がどのようになっているか考えましょう。

釣藤散が処方される人はストレスを溜めている人が多いです。
五臓の中で肝は感情の変化の影響を最も受けやすいとされています。
肝の働きの中に気の巡り、血の貯蔵、循環量の調節があります。
※五行説によると肝は木でした。水(腎)や土(脾)から木(肝)は栄養(気や血)を吸収して、それをエネルギーとして自然界に放出しているとイメージすると分かりやすいと思います。


気の巡りを調節する機能を疏泄機能血の貯蔵、循環量を調節する機能を蔵血機能といいます。
ストレスなどの感情の変化は肝の疏泄機能と蔵血機能を低下させます。まず疏泄機能が低下することによって気虚(気が足りない状態)、気滞(気が滞った状態)、気逆(気が上昇した状態)などが起きます。気虚により倦怠感を生じたり気滞により抑うつになり、気逆によりイライラや頭痛、咳を症状を生じます。特にストレスによる肝の変調は気逆を生じやすいです。気逆とは気が上昇した状態ですので、頭がカッとしやすくなり、頭痛も生じます。また咳の原因にもなります。
肝は変調はイライラや怒りの感情を生じやすいと言われていますが、気逆が原因なのですね。

続いて蔵血機能の低下について見てみましょう。
蔵血機能が低下すると血が停滞し、瘀血が生じます。これにより月経異常や皮下出血を起こすことがあります。また蔵血機能の低下に瘀血は目の不調を起こしやすいです。疲れ目やかすみ目、ドライアイの原因ともなります。
血の貯蔵ができなくなると、肝そのものの血が不足することにもなります。血には陰としての働き(潤す作用)もあるため、血が不足すると肝の陰が不足し、肝が熱を持つようになります(これを肝陽上亢といいます)。陽が過剰になった肝は心の働きを高め、脾の働きを弱めます。
これは五行説を見れば分かりますね。※肝は心に対して相生、脾に対して相克です。

心の機能が過剰になることにより高血圧の原因となります。また心は精神状態をつかさどっているので、イライラの原因にもなります。
脾の働きが抑制されることで消化不良や下痢、便秘の原因になります。また水分の吸収が不十分になり、胃に水が溜まるようになります。水による過剰な湿は頭にも及ぶため、これがめまいや耳鳴り、頭痛の原因となるとされています。

これまでの説明でストレスなど感情の変化で肝の働き(疏泄機能、蔵血機能)の低下、それによりイライラなど怒りの感情、高血圧、めまいや耳鳴り、頭痛につながることは分かりましたでしょうか?
これから釣藤散の中身について見てみましょう。

釣藤散に最も多く含まれている生薬は石膏です。これは熱を冷やし、潤いを与える効果を持ちます。主に肝に働くので肝陽上亢を改善するわけですね。その他、釣藤鈎は肝に作用し鎮静、降圧作用を有し、麦門冬は心に潤いを与え、熱を取り除き、茯苓、半夏は脾胃の余分な水分を取り除き、機能を高めます。これらの生薬で肝の機能低下を改善し、心、脾を正常に戻すので、高血圧があり、耳鳴りやめまいがし、頭痛を生じしてる人に最適なわけです。

釣藤散が処方された理由について書てみました。
単に頭痛というだけで鎮痛剤を処方するのではなく、めまいなどの症状や、ストレスの有無なども確認したからこの処方になったと思います。診察は問診が最も大事なのだと分かる事例でした。

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