クロミッド錠の働き方をしっかり理解

内分泌・代謝性疾患の薬

先日以下の処方を受けました。
Rp(1)クロミッド錠(50) 1錠
    1日1回 朝食後 5日分
患者さんに話を聞くと、人工授精をするようです。生理がきて3日目から飲むように言われたとのことでした。産婦人科の処方を受ける機会が少ないと、あまり目の当たりにすることがないでしょう。今回の記事でクロミッド®錠の働きと使い方について解説します。いざ処方箋がきても大丈夫なように確認してください。
 

クロミッド®錠の有効成分はクロミフェンといい、これはエストロゲン受容体を競合的に阻害します。これによりどのような働きがあるか理解するために、まずは性ホルモンの分泌調節機構についておさらいしましょう。

視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LHRH)が分泌され、これにより下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。

FSHにより原始卵胞が成熟卵胞になり、LHにより排卵が起きます。

この卵胞からエストロゲンが分泌され、黄体になるプロゲステロンが分泌されるわけです。

エストロゲンの量が増えると、その分泌を抑えるように視床下部にnegative feedbackがかかり、LHRHの分泌が抑制され、その結果FSH、LHの分泌が抑制され、さらにはエストロゲン、プロゲステロンの分泌が抑制されるます。これが性ホルモンの分泌調節機構です。

今回のクロミフェンは視床下部においてエストロゲン受容体と競合的に拮抗します。エストロゲンの薬理作用が生じなくなることにより、視床下部はエストロゲンが少ないと認識し、その結果LHRHの分泌が亢進され、これによりFSH、LHの分泌も亢進されます。FSH、LHの分泌が亢進することで卵胞の発育が促進され、さらに排卵を生じるわけですね。

そのため適応症は以下のようになっています。

・排卵障害にもとづく不妊症の排卵誘発
・生殖補助医療における調節卵巣刺激
・乏精子症における精子形成の誘導


生殖補助医療とは不妊治療のことをいいます。人工授精、体外受精、代理懐胎などですね。これは2022年9月に承認されています。
乏精子症における精子形成の誘導は2022年3月より承認されています。間質細胞刺激ホルモン(ICSH)は精巣の間質細胞でテストステロンを産生しますが、これはLHと同一物質です。

またFSHは男性では精子の分化成熟を促進します。つまり視床下部のエストロゲン受容体を阻害し、LHRHのnegative feedbackを抑制することで、精子の産生が促進されることが分かります。これにより乏精子症において、精子形成の誘導がされるわけですね。

ここまででクロミフェンの薬理作用は分かったと思います。それでは実際に使い方について見てみましょう。

・排卵障害にもとづく不妊症の排卵誘発の場合
「無排卵症の患者に対して本剤により排卵誘発を試みる場合には、まずGestagen、Estrogen testを必ず行って、消退性出血の出現を確認し、子宮性無月経を除外した後、経口投与を開始する。通常第1クール1日クロミフェンクエン酸塩として50mg 5日間で開始し、第1クールで無効の場合は1日100mg 5日間に増量する。用量・期間は1日100mg 5日間を限度とする。」

Gestagen、Estrogen test(ゲスターゲンテスト)とは、無月経の重症度を調べる検査です。ゲスターゲンとは黄体ホルモン類似物質であり、これを投与することで卵胞からエストロゲンが分泌されているかどうかを間接的に推定します。ゲスターゲン投与後、消退出血(エストロゲンやプロゲステロンの減少により、子宮内膜が子宮から剥がれ落ちることで生じる出血)が認められれば、エストロゲンの分泌が保たれており、子宮内膜の増殖があることになります。
消退出血がなければ子宮内膜が存在していない、つまり子宮性無月経と推定されます。子宮内膜が存在していなければ、排卵しても妊娠しませんから使っても意味がないですね。
通常月経5日目から服用を開始します。

・生殖補助医療における調節卵巣刺激の場合
「通常、クロミフェンクエン酸塩として1日50mgを月経周期3日目から5日間経口投与する。効果不十分な場合は、次周期以降の用量を1日100mgに増量できる。」

月経周期は生理が始まった日から、次の生理の前日までの日数のことです。つまり生理が始まって3日目に服用を開始します。まさに今回の患者さんが医師から言われたのと同じですね。

月経3日目を過ぎたあたりから原始卵胞が発育卵胞になり、子宮内膜も増殖してくるので、この時期に服用することが卵胞の発育、排卵に最も都合がいいのでしょう。
ただし人工授精においては月経5日目からとしている医療機関も多いです。

・乏精子症における精子形成の誘導の場合
「通常、クロミフェンクエン酸塩として1回50mgを隔日経口投与する。」

1日おきの投与になるので注意が必要ですね。他の適応症と異なり3~6ヶ月ほど続ける必要があります。


以上がそれぞれの適応における使い方です。
ホルモンに作用するので当然副作用が気になるところです。主な副作用を確認しておきましょう。
重大な副作用として卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。卵巣が排卵誘発剤によって過剰に刺激されることによって、腫れてしまう疾患です。卵巣の腫脹により子宮の後ろ側に腹水が貯まってしまい、腹部の圧迫感や腹痛を生じます。重症な例では卵巣破裂の可能性もあります。OHSSが認められたら服用を中止して、受診する必要があります。

LHRHのnegative feedbackが抑制されると女性ではエストロゲンの分泌が増えますが、男性でもエストロゲンが産生されやすくなります。これは副腎皮質からアンドロゲンが産生され、それがアロマターゼによりエストロゲンに変換されるからです。

そのため男性では女性化乳房が起こることがあります。

その他の多い副作用は目のかすみ、のぼせ、吐き気、精神変調などがあります。これらは5%程度と頻度が多いので注意が必要ですね。


以上クロミッド®錠について書いてみました。
クロミッド®錠は30年以上前からあり、排卵誘発剤としては最も多く使われていますが、最近になって新しい適応も追加された薬です。また排卵誘発剤としての使用は、男性は自身の体と異なるので、どうしても理解するのが困難になります。そのためいくら勉強してもやりすぎはありません。婦人科領域で使われる薬は、(特に男性は)性ホルモンの分泌や排卵のメカニズムをしっかり理解しておきましょう。

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