ウゴービ皮下注の予習

内分泌・代謝性疾患の薬

うちの薬局の女性従業員達がよく、痩せたいけどいい薬は無いかと言っています。そんな中、今年の3月27日に肥満治療薬のウゴービ®皮下注が承認されたとの情報を得たようです。これの薬はどうかと聞かれたので、彼女らには使えない旨を説明しました。今回の記事でウゴービ®皮下注について説明しますので、発売に備えて予習して頂けると幸いです。


ウゴービ®皮下注の有効成分はセマグルチドです。これはリベルサス®やオゼンピック®皮下注と同じ有効成分ですね。ここでセマグルチドの働きについて確認しておきましょう。

セマグルチドはGLP-1受容体作動薬です。GLP-1(Glucagon Like Peptide-1)とは小腸下部のL細胞から分泌されるインクレチンです。インクレチンとは食事に伴って消化管から分泌される、インスリン分泌を促進するホルモンの総称です。現在インクレチンはGLP-1とGIPが確認されています。

GIP:小腸上部のK細胞から分泌される
GLP-1:小腸下部のL細胞から分泌される


GLP-1受容体を刺激することで膵β細胞からインスリンの分泌を促進するわけですね。つまり糖尿病に用いられます。
インクレチンは経口投与すると体内であっという間に分解されてしまうので、注射剤で用いるか、サルカプロザードナトリウム(以下SNAC)という吸収促進剤を添加することによって、胃からの吸収を可能にした錠剤が用いられてきました。注射剤がオゼンピック®皮下注、内服薬がリベルサス®錠なわけです。

今回のウゴービ®皮下注ですが有効成分、剤型はオゼンピック®皮下注と同様になります。普通に考えるとこれは糖尿病治療薬に思えます。しかしこれは肥満症治療薬です。これは何故でしょうか?GLP-1は食欲抑制効果を有するからです。これは満腹中枢を刺激するのと、胃の運動抑制によります。
※胃の運動抑制により、食べ物が胃からなかなか排出されなくなり、満腹感が続きます。なお満腹中枢刺激と胃の運動抑制に関する細かい作用機序は分かっていません。
このようにGLP-1が体重減少に有効なのは以前から知られており、実際に一部の美容クリニックでは痩せ薬として使われておりますが、日本糖尿病学会はこれに対して警告を出しています。
⇒ GLP-1 受容体作動薬および GIP/GLP-1 受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

そのためこれまではGLP-1製剤は痩せ薬として使うのは適応外使用されてきましたが、今回ウゴービ®皮下注が登場することにより、保険適応で体重減少に用いることが出来るようになります。
それではウゴービ®皮下注について詳しく見てみましょう。

・適応について
効能効果は「肥満症」になります。ただし以下のような但し書きがあります。

ただし、高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。
・BMI が 27kg/m2 以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMI が 35kg/m2以上

保険適応になるかのフローチャートは以下のようになります。


なお「肥満に関連する健康障害」とは日本肥満予防協会が以下の11の疾患を定めています。

・耐糖能異常 ・脂質異常症 ・高血 ・高尿酸血症、痛風 ・冠動脈疾患 ・脳梗塞 ・脂肪肝 ・月経異常及ひ妊娠合併症 ・睡眠時無呼吸症候、肥満低換気症候群 ・整形外科的疾患 ・肥満関連腎臓病

つまり高血圧、脂質異常症、糖尿病のいずれかがあり、食事療法・運動療法でも改善せず、BMIが27以上で上記の11疾患のうち2つ以上がある、またはBMIが35以上あるといった要件に当てはまる場合のみ使えます。それなりにハードルは高いですね。

・用法、用量について
添付文書には「通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として 0.25mg から投与を開始し、週1回皮下注射する。その後は4週間の間隔で、週1回 0.5mg、1.0mg、1.7mg 及び 2.4mg の順に増量し、以降は 2.4mg を週1回皮下注射する。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。」とあります。
ウゴービ®皮下注の規格は0.25㎎SD、0.5㎎SD、1.0㎎SD、1.7㎎SD、2.4㎎SDの5種類があります。初回は0.25㎎SDから開始し、4週間ごとに1個ずつ増量していくわけですね。

もし決まった曜日に使い忘れてしまったら、次回投与までの期間が2日間(48時間)以上であれば、気づいた時点で直ちに投与し、その後はあらかじめ決めておいた曜日に戻して構いません。次の投与までの期間が 2日間(48時間)未満の場合は投与せず、1回分飛ばして、次回のあらかじめ決めておいた曜日に使うことになります。週1回の投与をする曜日を変更する場合は、前回投与から少なくとも 3日間(72時間)以上間隔を空けることとされています。



・副作用について
重大な副作用として挙げられているのは、低血糖、急性膵炎、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸です。急性膵炎は0.1%とされており、残り2つは頻度不明です。なお血糖降下剤なので低血糖の副作用があるのは当然に思えますが、前述したGLP-1作動薬の図で示したように、GLP-1はグルコース依存的に作用します。そのため単剤での使用で低血糖を起こすことはほとんどないでしょう。しかし他の血糖降下剤と併用した際は注意が必要となります。
なお急性膵炎の初期症状は嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛があります。この症状が出た場合は、速やかに使用を中止しましょう。

その他の副作用で5%以上の頻度であるのは、食欲減退、頭痛、吐き気・下痢・便秘などの消化器症状です。前述したようにセマグルチドは胃の運動抑制作用があります。このため食べ物が胃に滞留する時間が長くなり、消化器症状がでることが分かります。食べ物が胃に長く留まると胃を荒らす原因にもなりかねません。胃に刺激の強い食事は控える必要がありそうです。

・糖尿病患者は特に注意
ウゴービ®皮下注は肥満症治療薬ですが、血糖降下作用があるのは間違いありません。前述したように単剤では低血糖は生じにくいですが、すでに他の血糖降下剤を使っている患者においては、併用により低血糖のリスクが高まります。またインタビューフォームには以下のような記載があります。

「急激な血糖コントロールの改善に伴い、糖尿病網膜症の顕在化又は増悪があらわれることがあるので、注意すること。」

糖尿病性網膜症は高血糖状態が長く続くことにより起こりますが、血糖値が急激に低下すると逆に悪化することがあります。血糖値を定期的に測り、過度な低下が無いようにしないといけません。


以上ウゴービ®皮下注について説明してみました。
ウゴービ®皮下注は肥満による疾患があり、かつ食事療法や運動療法をしても効果が無い場合の治療薬です。うちの従業員のように何の疾患もない人が使うものではありません。ウゴービ®皮下注は薬価収載も発売時期もまだ未定です。使う機会は少ないかもしれませんが、予習しておいて損はないでしょう。また発売後、美容クリニック等で使いたがる人がいたら、本来の使う対象患者を説明し、安易に手を出さないよう説明しないといけません。

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