てんかん患者における抗ヒスタミン薬の使用について

調剤業務

先日うちの患者さんで風邪を引いたお子さんがいました。その時はポララミン®錠が処方されていましたが、薬歴の頭書きに以下のような記載がありました。
「てんかんの既往歴あり。医師から抗ヒスタミン薬は使わないよう言われている。」
そのため疑義照会したところ、フェキソフェナジン(30)に変更になりました。今回の記事でなぜ抗ヒスタミン薬がてんかんに適さないのか、代替薬としては何が適しているかを解説しますので、参考にしてもらえればと思います。


まず初めにてんかんについておさらいしましょう。
てんかんは大脳で過剰な興奮が起き、意識障害やけいれんなどを生じる疾患です。先天的なものが多く、多くの患者さんは幼少期から治療をしています。
一方後天的な原因により二次的にてんかんを生じることがあります。これが続発性てんかんです。続発性てんかんは脳血管障害、脳外科手術、頭部外傷などにより脳に器質的な異常が生じ、これが脳の過剰興奮の原因となり、てんかんを生じます。

てんかんは脳内の過剰興奮の起きる部位、その原因で分類できます。
部位による分類
・部分性てんかん(焦点性てんかん)
 脳内の一部で過剰興奮が起きる。部分発作が起きやすい。
・全般性てんかん
 脳内の全体で過剰興奮が起きる。全般発作が起きやすい

原因による分類
・特発性てんかん
 原因がハッキリしないもの。
・症候性てんかん
 原因がハッキリしているもの。(脳の器質的異常が主)

さてこの過剰な興奮はどうして起きるのでしょうか?それは大脳細胞の興奮と抑制のバランスにあります。
脳の神経伝達にはグルタミン酸作動性神経とGABA作動性神経があります。

グルタミン酸作動性神経はグルタミン酸を放出することにより、シナプス節後ニューロンを興奮させます。
※グルタミン酸受容体は陽イオンチャネル内蔵型受容体であり、刺激により脱分極が起こる

GABA作動性神経はGABAを放出することにより、シナプス節後ニューロンを抑制します。
※GABA受容体はClチャネル内蔵型受容体であり、刺激により過分極が起こる

てんかんは何らかの原因により大脳神経細胞の興奮シグナルと抑制シグナルのバランスが崩れ、興奮が過剰になってしまうことで生じます。(興奮シグナルの亢進や抑制シグナルの抑制)


さて上記で示したように、GABA作動性神経は神経細胞を抑制する働きをもちますが、小児では発達が不十分な状態です。てんかんが小児に起こりやすい原因がここにあります。
※高齢者のてんかんは脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など他の疾患が原因となって起こるケースが多いです
そしてヒスタミン作動性神経も大脳神経細胞を抑制する働きがあります。そのため抗ヒスタミン薬はヒスタミン作動性神経の働きを抑制してしまい、てんかんを引き起こしやすいと考えられています。

このようなメカニズムでてんかんを起こしやすい薬を「てんかん診療ガイドライン2018」ではてんかん閾値を下げる薬物として紹介されています。

以上のような理由からてんかん患者は医師から抗ヒスタミン薬の使用を控えるように言われることがあります。しかし実際には、抗ヒスタミン薬の使用はてんかんに禁忌というわけではありません。例えば抗ヒスタミン薬で最も多く用いられるであろうポララミン®の添付文書を見てみましょう。

てんかんを疑わせる症状がわずかに確認されている程度です。その他の抗ヒスタミン薬も概ね同じですが、アタラックス®においてはてんかんに関する記述があります。


一方、抗アレルギー剤はてんかんに対して比較的使いやすいと言えます。抗アレルギー剤はヒスタミン、ロイコトリエン、トロンボキサンA2などのケミカルメディエーター遊離抑制作用と抗ヒスタミン作用を併せ持ちますが、中枢への移行が非常に少なくなっています。そのため多くの抗アレルギー剤は添付文書にてんかんに関するがありません。しかし一部のものはてんかん患者に適さないので、これは覚えてしまいましょう。

まずクラリチン®にはてんかん発作が表れたとの報告があります。

そしてザジテン®はてんかん患者、およびてんかん既往歴のある患者には禁忌です。これは絶対に覚えておきましょう。


以上をふまえると、てんかん患者に抗ヒスタミン薬は望ましくないので、疑義照会して抗アレルギー剤に変えてもらうのがよいでしょう。ただしザジテン®はダメ、クラリチン®も避けた方が無難でしょう。しかし花粉症が酷い時などはどうしても抗アレルギー剤の他にセレスタミン®などを使わないと厳しいケースもあるでしょう。(セレスタミン®はベタメタゾンとd-クロルフェニラミンマレイン酸塩の合剤です)
このような場合は、てんかんの治療をしている(あるいは過去にしていた)医師に確認し、セレスタミン®の使用の可否をたずねるとよいでしょう。

今回の記事ではてんかんに対する抗ヒスタミン薬の使用についてのみ書きましたが、てんかんに禁忌の薬は意外と沢山あります(トラマドール、炭酸リチウム、マプロチリン、ぺモリンなど)。ニューキノロン系抗菌薬はてんかんの閾値を下げ、NSAIDsとの併用でそのリスクは急上昇します。アルコールやベンゾジアゼピン系薬物の離脱時もてんかんの閾値を下げます。
てんかん患者の薬歴には見やすい箇所に大きくてんかんであることを記載し、処方薬のチェックを欠かさないよう心掛けましょう。

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