タバリス錠

血液系の薬

2022年12月23日に希少疾病用医薬品のタバリス®錠の製造が承認されました。発売はまだであり、対象となる疾患も特発性血小板減少性紫斑病という指定難病なので、実際に取り扱う機会はあまり無いかもしれません。しかし既存の治療に新たな選択肢が加わったので、是非学んでおいて欲しいと思います。


まず特発性血小板減少性紫斑病について学んでおきましょう。
特発性血小板減少性紫斑病(以下ITP)は血小板に対する自己抗体が産生し、血小板が減少してしまう疾患です。(血小板表面の糖タンパクに対する自己抗体です)
自己抗体が血小板と結合すると主に脾臓に取り込まれ、マクロファージによって貪食されます。その結果、血液中から血小板が少なくなってしまいます。
※脾臓は古くなった赤血球を処理し、また血小板を貯蔵する臓器です

このように血小板の分解が促進されることによって皮下出血、鼻出血、歯肉出血、血尿、頭蓋内出血といった出血症状が出やすくなります。
発症してから6ヶ月以内に血小板が正常に戻るものを急性型6ヶ月以上血小板が減少しているものを慢性型といいます。急性型と慢性型は以下のような違いがあります。

血小板に対する自己抗体が作られるのが原因ですが、この自己抗体が作られてしまう原因は分かっていません。
現在までの治療法は、ステロイド、トロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブ、脾摘、γグロブリン大量療法があります。
ステロイドは自己抗体を抑制し、トロンボポエチン受容体作動薬は血小板の産生を促進します。

リツキシマブはB細胞に作用し抗体の産生を抑制し、脾臓の摘出は脾臓で血小板が分解されるのを防止します。γグロブリン大量療法は大量のγグロブリンを静注することで、マクロファージのFcγ受容体をγグロブリンで飽和させ、自己抗体が取り込まれるのを抑制する方法です。


続いて今回の記事で紹介するタバリス®錠について学びましょう。
タバリス®錠の有効成分はホスタマチニブといい、チロシンキナーゼ阻害薬です。ホスタマチニブは脾臓においてマクロファージのチロシンキナーゼを阻害します。
血小板が自己抗体と共にマクロファージに取り込まれる際に、マクロファージのチロシンキナーゼの活性化により貪食が促進されると考えられています。自己抗体のFc部位がマクロファージのFcγ受容体に結合するのですが、Fcγ受容体のチロシンキナーゼを阻害することでシグナル伝達が阻害され、貪食が抑制されます。
※抗体はFab部位とFc部位からなっており、Fc部位がマクロファージのFc受容体に結合することで貪食されます。

ITPの病態とタバリス®錠の作用機序は理解できたでしょうか?続いてタバリス®錠の特徴について見てみましょう。

・適応について
タバリス®錠が使えるのは慢性特発性血小板減少性紫斑病です。急性型には使えませんので注意しましょう。また次のような記載があります。

これを見た感じ慢性ITPのファーストチョイスにはならなそうです。先ほどの急性型と慢性型の違いの表で示しましたが、慢性ITPはピロリ菌感染との関連が示唆されています。
「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019 改訂版」によればITPと診断された場合は、まずピロリ菌の感染の有無を確認します。ピロリ菌陽性例ではピロリ菌を除菌することで、50~70%で血小板が増加するとされています。

ピロリ菌陰性だった場合や、ピロリ菌を除菌しても血小板が増加しなかった場合、血小板2万/μL未満であったり重篤な出血が見られる場合に治療が開始されます。ITPのファーストチョイスはステロイドです。ステロイドで効果が得られない場合や、合併症や副作用でステロイドが使えない場合にセカンドチョイスに移行するわけですね。現在のセカンドチョイスはトロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブ、脾臓の摘出です。これにタバリス®錠が加わる形になります。

・用法、用量について
添付文書によると用法、用量は以下のようになっています。

「通常、成人には、ホスタマチニブとして初回投与量100mgを1日2回、経口投与する。初回投与量を4週間以上投与しても目標とする血小板数の増加が認められず、安全性に問題がない場合は150mgを1日2回に増量する。なお、血小板数、症状に応じて適宜増減するが、最高投与量は1回150mgを1日2回とする。」

タバリス®錠の規格は100㎎錠、150㎎錠です。初回は100㎎を分2で服用し、血小板が増加しない場合は、安全性に問題なければ150㎎を分2にすることになります。
また「血小板数50,000/μL以上を目安とし、血小板数がそれを下回る場合には増量を考慮すること。血小板数が250,000/μL超に増加した場合には、減量又は休薬すること。」との記載もあります。血小板は増えすぎると血栓ができる原因にもなります。服用後も定期的なモニタリングが必要になるわけですね。

・副作用について
主な副作用には下痢、高血圧症、好中球減少、肝機能障害、感染症があります。最も多いのは下痢の31.3%であり、1.7%は重篤な下痢です。高血圧症も21.2%と高い頻度で生じます。血小板が増えることにより、血液中の成分が多くなってしまい血圧が上がるわけですね。


タリバス®錠はまだ発売されておらず、実際にその効果はどの程度あるのかは未知数です。しかし治療の選択肢が増えるのは嬉しいことですね。発売されたら治療効果がどの程度得られたかも調べてみようかと思います。

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