マヴィレットを復習

感染症の薬

明けましておめでとうございます。2023年最初の記事を早速書くことにしました。2022年6月にマヴィレット®が3歳以上から使えるようになり、それに伴って2022年11月24日よりマヴィレット®配合顆粒小児用が発売されました。これによりマヴィレット®を採用する薬局も増えてくるかもしれません。そのため今回の記事ではマヴィレット®の中身について復習します。いざ使う時に備えて是非読んでください。

まずはC型肝炎ウイルス(以降HCVと表記します)の増殖する過程を簡単に見てみましょう。
HCVは1本鎖プラス鎖RNAウイルスです。つまりRNA1本だけであり、ゲノムRNA自体がmRNAとしての働きを持ち、ゲノムRNAから直接タンパク合成が行われます。
※マイナス鎖の場合はゲノムがmRNAに転写されてからタンパク合成が行われます。
同じく1本鎖プラス鎖RNAウイルスのコロナウイルスとほとんど同様の過程で増殖します。増殖の過程を簡単な図にすると以下のようになります。


このHCVのゲノムRNAを詳しく見るとウイルスの粒子を形成する構造タンパク質のコードと、ウイルスの増殖に必要なタンパク質を形成する非構造タンパク質のコードがあります。

構造タンパクのC領域からはコアのタンパク質が、E1、E2領域からはエンベロープのタンパク質が合成されます。NS3、NS4A領域からはプロテアーゼが、NS5B領域からはRNA依存性RNAポリメラーゼが翻訳されます。
ゲノムRNAから1本鎖マイナス鎖RNAが複製され、翻訳したタンパク質、シクロフィリン等の宿主タンパク質と共に小胞膜上で複合体を形成しています。これを複製複合体といいます。
この複製複合体がゲノムRNAからタンパク質の翻訳、RNAの複製、細胞内のシグナル伝達を行っています。
※マイナス鎖RNAから再びプラス鎖RNAを複製します
そしてこの複製複合体の形成を行うのがNS5A領域です。




ここまででHCVの増殖に関してはおおむね理解できたでしょうか?
それではマヴィレット®の中身について見てみましょう。マヴィレット®グレカプレビル、ピブレンタスビルの配合剤です。この2つをそれぞれ解説します。

グレカプレビルはNS3、NS4Aを阻害します。つまりプロテアーゼを阻害します。これによって翻訳された複合タンパク質がそれぞれのタンパク質に切れ離されるのを阻害し、ウイルス増殖を抑制するわけです。

ピブレンタスビルはNS5Aを阻害します。これにより複製複合体の形成が阻害されます。複製複合体は前述したようにRNA複製、タンパク質の翻訳、細胞内のシグナル伝達など様々な機能を有するので、これの阻害によりウイルス増殖が抑えられるのは容易に想像がつくでしょう。

このように2つの異なるゲノム領域を阻害することによって、異なる2つの作用機序でHCVの増殖を抑制していることが分かります。
ここまでてマヴィレット®の作用機序は理解できたでしょうか?続いてマヴィレット®の特徴について見てみましょう。

・全てのジェノタイプに使える
HCVは遺伝子型によって大きく1~6のジェノタイプに分けられます(日本で最も多いのは1型です)。マヴィレット®は全てのジェノタイプに使えます。

・投与期間が短い
HCV治療薬のハーボニー®は12週間、ソバルディ®はジェノタイプ2では12週間、それ以外のタイプでは24週間投与します。
一方マヴィレット®の投与期間は以下のようになっています。
(ジェノタイプ1、2のC型慢性肝炎の場合)
 ⇒8週間(C型慢性肝炎に対する前治療歴に応じて12週間も可)
(ジェノタイプ1、2のC型代償性肝硬変の場合)
(ジェノタイプ1、2のいずれにも該当しないC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変の場合)

 ⇒12週間
他のC型肝炎ウイルス治療薬と比べて投与期間が短く、使いやすいと言えるでしょう。

・腎障害でも使える
マヴィレット®の添付文書を見ると薬物動態の排泄の項目に以下のような記載があります。


これはほとんどが肝代謝され、腎排泄はされないことを意味します。また腎機能障害患者に対する以下の記載があります。



実際にマヴィレット®は重度腎障害患者でも透析患者でも使用が可能です。これはとてもありがたいですね。

・併用禁忌は少ないけど注意!
マヴィレット®の併用禁忌は3つだけです。
⇒リファンピシン、アトルバスタチン、アタザナビル
リファンピシンとHIV治療薬は併用禁忌が非常に多いので皆気をつけるでしょうが、アトルバスタチンは見落としやすいですね。アトルバスタチンは脂質異常症治療薬として頻用されます。アトルバスタチンを在庫していない薬局は無いでしょう。
アトルバスタチンは併用禁忌、これは忘れないようにしましょう。

・小児にも使える
この記事の冒頭で紹介したように、2022年6月20日に小児に対する適応が追加されました。そして2022年11月24日よりマヴィレット®配合顆粒小児用が発売されました。
インターフェロンフリー(インターフェロンを用いない)の治療法で小児に適応があるのは初です。
元々は成人のみ使用できましたが、2019年8月22日より12歳以上の使用になり、2022年6月20日より3歳以上になったわけです。
小児の用法・用量は以下のようになっています。

体重によって使用量が異なるので注意が必要ですね。しかし抗生剤のように力価計算するのではなく、3~5包になるだけなので、比較的覚えやすいでしょう。ちなみにマヴィレット®配合顆粒小児用1包でグレカプレビル50㎎、ピブレンタスビル20㎎になります。ちょうど錠剤の半分の量になりますね。
※成人に使う場合はマヴィレット®配合錠を1回3錠、1日1回になります

マヴィレット®配合錠と配合顆粒で1点注意点があります。配合錠と配合顆粒小児用の生物学的同等性は示されていません。そのため例えば配合錠が無い時に配合顆粒小児用を代わりに用いることは出来ません。これは忘れないようにしましょう。


今回の記事でマヴィレッ®トの復習および小児への使用の確認ができたでしょうか?
インターフェロンフリーで小児に対する初のHCV治療薬です。どの薬局でも処方箋がくる可能性があります。いつ処方箋がきても大丈夫なように、しっかり備えておきましょう。
日本肝臓病学会がC型肝炎治療ガイドラインを公表しています。余裕があれがそちらもご覧になってください。 ⇒ C型肝炎治療ガイドライン

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