抗肥満薬”アライ”について

OTC・衛生用品

11月28日に厚生労働省が大正製薬の抗肥満薬のアライの承認をしました。これはダイレクトOTCであり、来年の3月には市販される予定です。それなりに注目を集めている商品なので、今回の記事ではこのアライについて学びたいと思います。

アライの有効成分はオルリスタットといい、これはリパーゼ阻害薬です。
この作用機序を理解するために、まず脂質の吸収について学びましょう。脂質は主にトリアシルグリセロール(トリグリセリドともいいます)の形で存在します。

トリアシルグリセロールは胆汁酸により乳化されます。その後膵臓から分泌されるリパーゼによって加水分解され、2-モノアシルグリセロールと脂肪酸、またはグリセロールと脂肪酸に分解されます。

 
このようにしてトリアシルグリセロールから分解された脂肪酸は胆汁酸でミセルを形成し、小腸上皮の粘膜細胞から吸収されるわけです。
※吸収された脂肪酸は再びトリアシルグリセロールに再合成されます。その後アポタンパクと結合し、カイロミクロンになり、リンパ管・血管に移り、肝臓や脂肪組織に蓄積されます。


上記の過程を見て分かるように、トリアシルグリセロールがリパーゼにより脂肪酸に分解され、その脂肪酸が吸収されるわけです。つまりこのリパーゼを阻害することでトリアシルグリセロールが脂肪酸に分解されなくなり、小腸からの脂質の吸収が抑えられるわけです。吸収されなかった脂質はそのまま便中に排泄されることになります。
ここまでで作用機序は理解できたでしょうか?次にアライの特徴について見てみましょう。

・適応
適応は「腹部が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る)」となっています。脂質の吸収を抑制しますが、高脂血症に有効なわけではありません。あくまで脂質の吸収を抑えることで、内臓脂肪と腹囲を減少させることを目的としています。

・服用の仕方
アライの飲み方は「1日3回、食事中か食後1時間以内に1カプセル服用する」となっています。食事による脂質の吸収を防ぐので、このタイミングになるわけですね。

・対象となる患者
アライを服用できるのはできるのは以下の条件を満たしたものになります。
・18歳以上
・腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上
・高血圧や脂質異常などを伴わない

痩せ型の人には使用できません。腹囲を減少する効果が期待できないばかりか、後述する脂溶性ビタミンの吸収抑制による健康被害(骨密度など)のリスクが上がるだけになります。

・副作用
主な副作用は下痢になります。脂質が吸収されずにそのまま排泄されるので当然ですね。特に脂肪分の多い食事を摂った時は顕著に出るでしょう。脂肪が多く含まれた便を脂肪便といいます。脂肪便は便中に脂肪が白く残っている状態です。また比重が小さくなるため、便が水に浮くといった特徴があります。
脂肪の吸収が抑制されるので、下痢以外にも放屁も起きやすくなります。

海外の報告では脂溶性ビタミンの不足があるようです。
脂肪分の吸収が抑制されるので脂溶性ビタミンの吸収が下がるのは納得できます。脂溶性ビタミンはビタミンA,D,E,Kがあります。ビタミンAの不足は夜盲症・皮膚の角化の原因に、ビタミンDの不足は骨粗鬆症の原因に、ビタミンEの不足は冷え性やシミの原因に、ビタミンKの不足は出血や骨粗鬆症の原因になります。
※ビタミンKは食事に多く含まれており、また腸内細菌が合成できるので、不足するリスクは小さいでしょう
基本的に消化管内で作用するので、中枢への影響はありません。下痢以外の副作用は少ないため、比較的安全といえるかもしれません。しかし下痢はほぼ必発ですし、酷くなると放屁と一緒に油が流出する恐れもあります。この辺は実際に使わないと分かりませんが、十分注意が必要となるでしょう。


以上がアライの特徴になります。その他アライの注目すべき点はダイレクトOTCということですね。
ダイレクトOTCとは医療用医薬品として承認された有効成分が、医療用としての実績のないまま、ダイレクトに一般用医薬品となったものです。同一成分の抗肥満薬「ゼニカル」は海外で広く使われているので、ダイレクトOTCとなったのですね。
またアライは要指導医薬品になります。そのため薬剤師による対面販売が義務となり、インターネット販売も不可です。ダイレクトOTCなので医師による診察もありません。そのため購入者が使用できるかの判断、副作用のチェックなどは全て薬剤師に委ねられます。適正な販売が出来るように、今からしっかり予習して来春に備えましょう。

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