肺がんの治験中の患者が来た ③治験内容の解説

癌の薬

前回前々回の記事で肺がんの分類、治験中の薬の解説をしました。今回の記事で治験内容の解説をして終わりにします。
この患者さんが行っている臨床試験の名称は以下のようになります。

「化学療法未治療のIV期扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象に、atezolizumab(MPDL3280A,抗PD-L1抗体)とカルボプラチン + パクリタキセルの併用若しくはatezolizumabとカルボプラチン + nabパクリタキセルの併用の有効性及び安全性をカルボプラチン + nabパクリタキセルと比較する第III相非盲検多施設共同ランダム化試験」

正直分かり辛いですね。要約すると「アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル」「アテゾリズマブ+カルボプラチン+nabパクリタキセル」の有効性・安全性が「カルボプラチン+nabパクリタキセル」と比べてどうか確認する試験です。
※nabパクリタキセルとはパクリタキセルにアルブミンを結合させた薬剤です。パクリタキセルは水に溶けにくいため、溶媒に無水アルコールとポリオキシエチレンヒマシ油を使っていますが、この溶媒が過敏症やアレルギー反応の原因となることがあります。そのため前処置としてステロイドや抗ヒスタミン薬などを投与する必要があります。
これに対してnabパクリタキセルは、アルブミンに結合させることで水に溶けやすくなっており、これらの溶媒は使われません。そのため前処置も必要ありません。


これは第3相試験です。ここで臨床試験について確認しましょう。
臨床試験は第1相試験から第3相試験まであります。
・第1相試験は少数の健常人を対象に行います。
動物実験から初めて人に対する試験に移行する段階で、被験薬を少量から投与し、段階的に増量していきます。被験薬の薬物動態や安全性について確認してる段階です。
・第2相試験は少人数の患者を対象に行います。
この段階で被験薬の効果確認も行い、安全性をみながら投与量の増量も行われていきます。
・第3相試験では多数の患者を対象に行います。
第2相試験の結果をもとに有効性、安全性、使い方の最終確認を行います。つまりこれまでに検討された有効性を証明のために行います。

この臨床試験は第3相試験です。つまり最終段階に入っています。(この試験は2023年2月まで行われる予定です)
この患者さんは「アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル」を使っていますね。カルボプラチン+パクリタキセルにアテゾリズマブを追加したことで有効性や安全性がどうなったかを調べていることが分かります。この臨床試験の現在までの解析結果は以下のようになっています。

「カルボプラチンとナブパクリタキセルの併用療法へのアテゾリズマブの上乗せは,PD-L1高発現の転移性扁平上皮型非小細胞肺癌患者の全生存期間及び無増悪生存期間に対しベネフィットがあることが示唆された。また本試験の安全性プロファイルは,個々の薬剤の既知の安全性プロファイルと一致しており、新たな安全性シグナルは確認されなかった。」

アテゾリズマブの併用によって生存期間の延長の効果がありそうです。また副作用については個々の薬によるものであり、併用したことによる有害事象はないように見受けられます。
どの程度生存期間が延長するかは人によって違うでしょうし、これから様々なデータが出てくると思うので、今回は副作用について紹介しておきます。

・パクリタキセルの場合
主な副作用は骨髄抑制、脱毛、末梢神経障害、関節痛・筋肉痛です。
骨髄抑制と脱毛は多くの抗がん剤で共通の副作用ですので、詳しい説明は割愛します。末梢神経障害は神経細胞が障害されることで発症します。神経細胞にも微小管は存在しますが、これは細胞分裂に用いられません(神経細胞は細胞分裂しません)。細胞内の物質輸送を行っています。髄鞘で守られていない軸索の部分が障害を受けやすいです。

基本的には休薬で改善しますが、酷い時は鎮痛剤(NSAIDsやプレガバリンなど)、牛車腎気丸などで対処します。
その他には関節痛・筋肉痛がありますが、これは一過性のことが多いです。

・カルボプラチンの場合
主な副作用は骨髄抑制悪心・嘔吐です。白金製剤は特に強い細胞障害作用をもつので骨髄抑制が強く出ます。
また悪心・嘔吐が強いのも特徴です。腸管に存在するクロム親和性細胞は傷害されるとセトロニンを分泌します。分泌されたセロトニンが腸管の5-HT3受容体を刺激することで悪心・嘔吐が起きるわけですね。またクロム親和性細胞はセロトニンだけでなくサブスタンスPも分泌します。サブスタンスPはNK1受容体を刺激し、その刺激がCTZに伝わるので悪心・嘔吐の原因になるわけです。

これによる対処にはデキサメタゾン(デガドロン®錠)やアプレピタント(イメンド®カプセル)を用いますね。
参考記事 ⇒ 抗がん剤における嘔吐の治療薬

・アテゾリズマブの場合
間質性肺炎、大腸炎、1型糖尿病、肝機能障害・肝炎、甲状腺機能障害、膵炎などの副作用があります。これらは主に自己免疫疾患によるものです免疫機能の活性化に伴ってこれらの副作用が生じるわけですね。いずれの場合も休薬や中止で対処します。最も多いのが肝機能障害・肝炎です。


この患者さんは上記に上げた副作用に悩まされることなく、普通に生活しています。しかし悪心・嘔吐などは速効性のものの他に遅効性のものがあるので注意が必要ですね。現在使っている薬ではカルボプラチンが遅効性の悪心・嘔吐の原因にもなりえます。その辺の症状もないか今度聞いていこうかと思います。
いつも普通に通院していた患者さんですが、いつの間にかステージⅣの肺がんになっていたケースです。大きな副作用に悩まされることもなく、延命につながって欲しいものです。

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