肺がんの治験中の患者が来た ②治験中の薬の解説

癌の薬

前回の記事で肺がんの治験に参加中の患者さんが来られたことを紹介しました。治験中の薬の内容は以下のものでした。
「パクリタキセル+カルボプラチン+アテゾリズマブの併用療法」
今回の記事ではこの3つの薬について解説します。

・パクリタキセル
パクリタキセルは微小管阻害薬といい、細胞分裂を阻害します。
細胞には細胞骨格繊維である微小管という中が空洞の菅があります。この微小管は中心体という場所から細胞の周辺に向かって成長します。微小管の働きは細胞運動、細胞内小器官の運動・配置、そして細胞分裂に関与します。

細胞分裂の際は染色体が倍になり、これが微小管によって分けられ、2つの細胞に分かれるわけですね。(染色体に結合し分裂させる微小管を紡錘糸といいます)

さてこの微小管ですが、これはαチューブリン、βチューブリンというタンパク質によって構成されています。微小管はこのαチューブリンとβチューブリンの重合と脱重合によって、伸長と短縮を繰り返しています。

微小管阻害薬はこのチューブリンの重合・脱重合を阻害することにより、微小管の機能に障害を起こし、細胞分裂を阻害します。

パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルなどのタキサン系はチューブリンの脱重合を阻害します。
一方ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビンなどのビンカアルカロイド系はチューブリンの重合を阻害します。
いずれにしても細胞分裂を阻害することで、がん細胞の増殖ができなくするわけです。細胞周期でいえばM期で停止させることになります。

(G1期:DNA合成準備期 S期:DNA合成期 G2期:DNA分裂準備期 M期:分裂期)

・カルボプラチン
カルボプラチンは白金製剤であり、DNAと結合することによってDNAの複製を阻害します。
シスプラチン、カルボプラチンなどは白金(Pt)を含有しています。

この白金がDNAを架橋を形成します。これによりDNAの複製・転写が阻害され、がん細胞のアポトーシスが誘導されるわけです。

白金製剤はどの細胞周期でも作用します。しかしDNAの複製を阻害するため、特にG1期、S期に感受性が高くなっています。



・アテゾリズマブ
この治験の主たる治療薬ですね。アテゾリズマブはヒト化抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体であり、これは免疫チェックポイント阻害薬ともいいます。
がん細胞は無秩序な増殖を続けるわけですが、その際にT細胞などの免疫細胞はがん細胞を攻撃し、除去しています。

しかしがん細胞はPD-L1という物質を過剰発現させています。活性化されたT細胞上にはPD-1というPD-L1の受容体が発現しており、PD-L1がこの受容体に結合すると、T細胞の増殖・サイトカイン産生・細胞障害といったT細胞の機能が阻害され、T細胞の働きが抑制されてしまいます。つまりPD-L1を発現したがん細胞はT細胞に攻撃されにくいわけですね。

アテゾリズマブはPD-L1に対するモノクローナル抗体です。PD-L1に結合することで、PD-L1がT細胞のPD-1に結合することを阻害します。これによってT細胞の抑制が起きず、T細胞が本来の力を発揮し、がん細胞を攻撃するわけです。

薬が直接がん細胞の増殖を抑制するのではなく、免疫細胞によるがん細胞の攻撃を強めるのが従来の薬と違うところですね。
T細胞によるがん細胞の攻撃なので、細胞周期には関係なく効果を発揮すると思われます。
※実際アテゾリズマブがどの細胞周期で効くなどの情報は出てきませんでした。


今回の記事では治験の対象になっている薬について解説しました。
次回の記事でこれらの併用について考察していきます。

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