多嚢胞性卵巣症候群の治療薬にレトロゾール、メトホルミンが追加

内分泌・代謝性疾患の薬

9月16日に不妊治療に関して、いくつかの薬が適応拡大を受けました。不妊治療の種類もいくつかあるのですが、今回の記事では調剤薬局で取り扱う頻度の多いレトロゾールとメトホルミンについて紹介します。

レトロゾール、メトホルミンは今回の適応拡大によって、多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発に使用できるようになりました。
これを詳しく理解するために、まずは多嚢胞性卵巣症候群について知りましょう。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは卵巣に卵胞(卵子の入った袋)が沢山でき、排卵障害を生じる疾患です。これにより月経不順、あるいは月経がこないなどの症状をおこし、不妊症の原因になります。

ここで排卵が生じるメカニズムについて確認しておきましょう。
下垂体前葉から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)により原始卵胞が成熟し、黄体形成ホルモン(LH)により排卵が生じます。(排卵した後の卵胞は黄体となります)


LHにより排卵が引き起こされるので、排卵の時にはLHが大量に放出されているのが分かりますね。

多嚢胞性卵胞症候群は詳しい原因は分かっていませんが、FSHとLHの分泌のバランスが崩れ、排卵が正常に行われなくなってしまう疾患です。(FSHが低く、LHが高くなっています)

通常、卵巣内で20個程度の原始卵胞が育ちますが、成熟卵胞まで成長し、排卵されるのは1個だけです。(その他の卵胞は小さくなり消滅します)
ところが、多嚢胞性卵巣症候群ではFSHとLHの分泌バランスの崩れにより、成熟卵胞まで成長しない多数の卵胞(嚢胞)が卵巣内にとどまってしまいます。そのため多嚢胞性卵巣症候群という名前になったわけですね。

これらの原因として男性ホルモンの分泌過多や性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌異常が考えられています。※男性ホルモンは卵胞の成熟や排卵を阻害します。

また多嚢胞性卵巣症候群の患者の多くはインスリン抵抗性を示すことが知られています。インスリンに抵抗性があると代償性の高インスリン血症を生じます。この高インスリン血症が男性ホルモンの分泌促進や、LHの分泌促進、排卵障害を生じると考えられています。

典型的な症状としては以下のようなものがありますが、いずれも前述した原因により説明がつきますね。
・月経異常(FSH、LHの分泌異常による)
・多毛、ニキビ、声が低くなる、乳房が小さくなる(男性ホルモンの増加による)
・肥満、高血糖(インスリン抵抗性による)

多嚢胞性卵巣症候群の診断は以下のものに基づいて行われます。
・ 月経異常がみられる
・卵巣内に未成熟の嚢胞が多く確認できる(超音波診断による)
・男性ホルモンや黄体化ホルモンが高値になる
症状、超音波診断、血液検査と全て行うので分かりやすいですね。


ここまでで多嚢胞性卵巣症候群については分かりましたでしょうか?
さて記事の冒頭に書いたようにレトロゾールとメトホルミンが多嚢胞性卵巣症候群の治療薬として追加されました。これを1つずつ見てみましょう。

・レトロゾールについて
レトロゾールはアロマターゼ阻害薬です。男性ホルモン(アンドロゲン)は精巣と副腎皮質の両方で産生されますが、副腎皮質由来のアンドロゲンは脂肪組織においてアロマターゼによりエストロゲンに変換されます。このアロマターゼを阻害することによりアンドロゲンが増加し、エストロゲンの生成が抑制されます。

エストロゲンの量が減ることにより、視床下部へのnegative feedbackが抑制され、FSHの分泌が増加されることになります。

また月経3日目の卵胞はアンドロゲン受容体が多く発現しています。この時期にアンドロゲンが増加することで、FSH受容体の誘導を促進します。そのためレトロゾールの排卵促進における使用方法は以下のようになっています。

「通常、レトロゾールとして1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間経口投与する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5mgに増量できる。」

多嚢胞性卵巣症候群は男性ホルモン分泌過多が原因なのに、男性ホルモン(アンドロゲン)の量が増やすことで効果を発揮するのは、このような複雑なメカニズムがあるわけですね。
なお今回追加されたレトロゾールの適応は以下のようになっています。
「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発」
「原因不明不妊における排卵誘発」


なお多嚢胞性卵巣症候群に適応が追加されたのは先発品のフェマーラ®錠と、後発品はレトロゾール®「NK」、レトロゾール®「F」だけです。その他の後発品は使えませんので注意しましょう。

・メトホルミンについて
前述したように多嚢胞性卵巣症候群の患者の多くがインスリン抵抗性を示します。インスリン抵抗性があると高インスリン血症になり、これが男性ホルモンの分泌促進や、LHの分泌促進、排卵障害を生じます。つまり不妊症の原因になります。またインスリン抵抗性により糖尿病になった患者が妊娠すると、胎盤が脆くなったり、胎児の発育不全につながったりします。そのためインスリン抵抗性を示す患者は、これを改善することが必要です。
糖尿病治療薬の中でもメトホルミンはインスリン抵抗性を改善する働きをもちます。そのため多嚢胞性卵巣症候群における排卵促進に有効なわけですね。

さて今回メトホルミンに追加になった適応は以下のものです。
多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激
ただし、肥満、耐糖能異常、又はインスリン抵抗性のいずれかを呈する患者に限る。

多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発に有効なのは分かりましたが、あくまで肥満や耐糖能異常、インスリン抵抗性がある場合に限られています。インスリン抵抗性に問題無い患者に投与しても意味が無いですからね。
また多嚢胞性卵巣症候群に適応が追加されたのは先発品のメトグルコ®と、後発品はメトホルミン塩酸塩錠MT「DSEP」、メトホルミン塩酸塩錠MT「DSPB」だけです。その他の後発品は使えませんので注意しましょう。

フェマーラ®なんかは以前から適応外使用で多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発に使われてきましたが、今後は保険適応が可能になります。またメトホルミンは今までは2型糖尿病にしか使われませんでしたが、これからは使用の範囲が広がりますね。
令和4年4月から一般不妊治療(人工授精)と生殖補助医療(体外受精や顕微授精)が保険適用となりました。これによりさらに不妊治療が一般的となり、また不妊の原因となる疾患に対する薬物治療もさらに研究が進められるでしょう。これに合わせて我々も常に勉強し続けなくてはなりません。

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