シスタチンCによる腎機能評価

臨床検査値

過去に何度か腎機能に関する記事を書いてきました。腎機能低下における薬剤の適正使用は薬剤師における最重要項目だからです。そのためもう少し腎機能に関する記事を書いて知識を深めたいと思います。今回の記事ではシスタチンCにおける腎機能評価について紹介します。こちらも是非参考にして下さい。

腎機能を評価するのには過去に記事にしているようにクレアチニン値を測定し、そこからeGFRやクレアチニンクリアランス(以下CCr)を算出して評価するのが一般的です。しかしeGFRやCCrの算出に用いるクレアチニンは筋肉量や食事、運動などの影響を受けてしまいます。そのため場合によっては腎機能を正しく評価できないことがあります。
(ex)痩せ型の高齢者の場合、筋肉量が少なくクレアチニン値も低くなる。結果としてeGFRやCCrが高くなる。
そこで今回の記事で紹介するシスタチンCを用いるケースがあります。

まずシスタチンCとは何なのか知りましょう。
シスタチンCとは全身の細胞から産生されるタンパク質です。システインプロテアーゼを抑制する作用を持つため、生体内酵素による細胞および組織の障害を抑制する働きをもちます。
低分子タンパク質であるため糸球体で自由に濾過されます。濾過されたシスタチンCは近位尿細管でほとんどが再吸収されますが、再吸収されるとアミノ酸に分解されるため、血中にシスタチンCのまま戻ることはありません。

そのためシスタチンCの血中濃度はGFRに依存しているといえます。
つまり シスタチンCの血中濃度が上昇する⇒腎機能の低下 と言えます。

シスタチンCは筋肉量や食事、運動、その他に炎症、性別などの影響を受けません。そしてクレアチニンは腎機能障害がだいぶ進んでから上昇するのに対して、シスタチンCは腎機能低下が早期の時から上昇し始めます。そのため腎機能障害を早期発見することが可能となります。
シスタチンCの基準値は 0.7~0.9mg/L となっていますが、血清シスタチンC値で腎機能を評価することはありません。シスタチンC値からGFRを推定したeGFRcysを用いて評価します。

eGFRcys(男性)=(104×Cys-C-1.019×0.996年齢)-8 (mL/min/1.73㎡)
eGFRcys(女性)=(104×Cys-C-1.019×0.996年齢×0.929)-8 (mL/min/1.73㎡)
※Cys-Cは血清シスタチンC値

なおー8ですが、これはシスタチンCが腎臓以外でも代謝・排泄されるので、これを考慮した数値となります。
また手計算は無理なので、簡単に計算してくれるサイトをブックマークしておきましょう。
ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト シスタチンC値によるGFR概算式(男
ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト シスタチンC値によるGFR概算式(女


シスタチンCを用いてeGFRを算出したのでeGFRcysと表記します。これと同様にクレアチニンを用いてeGFRを算出したものは正確にはeGFRcreatと表記します。しかしeGFRとしか書いていなかった場合は、基本的にはクレアチニンを用いて算出したものを意味します。どちらもGFRを推定して算出したものなので、腎機能の判定基準は以前にも記事にしていたように、以下の基準となります。

eGFRの腎機能の判定基準   
eGFR             腎機能              
>90                  正常
60~89    軽度腎機能低下
30~59    中度腎機能低下
15~29    重度腎機能低下
   15>              末期腎不全 
    

さてここまでシスタチンCによる腎機能の評価について紹介しました。一見するといいとこばかりに見えますが、欠点もあります。
シスタチンCは腎機能が低下すると血中濃度が増加しますが、腎機能低下がある程度進んでしまうと、シスタチンCの血中濃度が頭打ちになります(腎不全で5mg/L程度)。そのため腎機能障害が進んだケースでは正確性に欠けます。
その他にも甲状腺ホルモンによる影響もあり、甲状腺ホルモンはシスタチンCを増加させるとさせれています。そのためシスタチンCは甲状腺機能亢進症では高値となり、甲状腺機能低下症では低値となります。シクロスポリン服用中では低値になります。また具体的なことは分かっていませんが、妊娠やステロイドもシスタチンC値に影響があるとの報告もあります。

これらをふまえると寝たきりの人や小柄な高齢者、逆に筋肉質な人ではeGFRcysが適しているでしょう。腎機能障害が進んでしまっている人、甲状腺疾患のある人、妊婦などではeGFRcreatが適しています。

シスタチンCの特徴、これによる腎機能の評価は分かりましたでしょうか?
eGFRcysの推算式が登場したのは日本腎臓病学会の「CKD診療ガイド2012」であり、まだ歴史も浅いです。また保険請求できるのはBUNやクレアチニン値から腎機能障害が疑われた場合に限り、3ヶ月に1回までとされています。まだまだ腎機能というとクレアチニン値をベースに考えることが多いですが、近年処方箋に記載される検査値にシスタチンCが書かれるケースも増えてきました。クレアチニンとシスタチンCのどちらの特性も理解し、どちらを使って腎機能を評価したらよいか判断できるようにしておきましょう。

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